【集中連載#1】コロナ禍の外食産業―その暗闘と情熱― 株式会社サルーン・石丸真太郎社長「サービス業の在り方が問われましたね」
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初回掲載:2024年4月5日
2019年末に発生した新型コロナウィルス感染症は、その猛威で実質3年半にわたって日本経済を困窮せしめた。特に打撃を受けたのが、それまで人々の笑顔を支えてきた外食業界だった。コロナ禍で外食産業の経営者らは、自らが持つ知恵を絞り、時には原点に立ち返りながら出口の見えない深海で暗闘した。未曽有の危機を乗り切った地元外食産業の雄に、その苦闘の記録と「次の一手」を聞いた。<インタビューは2023年9~10月に行ったもの>
(文 伊藤 直樹)
覆った、接客の概念
「ステーキとハンバーグのさる~ん」「石焼ステーキ贅」の2業態で、東北・北陸・信越に29店舗(うち直営28店舗)を展開するサルーングループ。
1979年に南蒲原郡栄町(現在は三条市)に「ステーキのさる~ん」1号店がオープンしてから45年、県央地区の家族は祝い事があると「さる~ん」のテーブルを囲み、団欒を楽しんだ。県央地区の40代より下の世代にとっては「家族の思い出が詰まった特別な存在」そう聞いたことがある。そんな「家族のハレのお出かけ」がコロナ禍で失われた時、経営トップは何を考えたのか。
― コロナの自粛ムードが、目に見えて影響し始めたのはいつ頃からでしたか?
石丸社長(以下略) 2019年の暮れに新型ウィルスが発生して、本当の意味で危機を身近に感じたのはやはり翌年3月の緊急事態宣言じゃないでしょうか。売り上げがどんと落ちたのもその月です。自粛ムードが目に見えて来て、人々が食事に出かけなくなりました。
「学校も休みになる中で、外食というわけにもいかない」そんな風潮が浸透しました。2020年を初年度とするならば、その年は月次で売り上げ対前年比53%なんていう月もありました。トータルで言えば80~90%程度で推移しました
― 事態収束の出口が見えない中で、どのようなことを考えられましたか?
おそらく、うちのような「ちょっと家族で出かけよう」というファミリー層向けの店舗が、一番打撃を受けたのではないでしょうか。土日曜日のランチ、ディナー、そこが落ちるのが厳しかった。緊急事態宣言は、その年のゴールデンウィークまでも含んでしまいましたので、一番の稼ぎどころを失ったわけです。
ただ精神的には、その翌年の方が辛さがありました。「これはいつまで続くのだろう」という。そのころには「新しい生活様式」も定着しましたが、ほどなくしてウィルスも形態が変わっていく。自治体の時短要請も、地域ごとにその時の感染者数で準繰りになっていくので、店舗ごとの足並みが揃わないのです。この点でグループの中でも売り上げの大きかった北陸(石川、富山、福井)は打撃が大きかったですね
― お客様への接し方も難しくなりました
まずどうやってお客様に来てもらおうかと。チラシやCMを打つのも自粛しなければならないムードでしたから。一時は「こんな時に販促するのが不謹慎」というような風潮もありました。そんな中で、飲食店を避けずに来ていただくお客様には最大限の対策をしようと。
テーブルをはじめ店内の拭き上げの徹底はもちろん、パーティションの設置、座布団から全て除菌、席数を減らして間隔もあけて・・・そういうことをひとつひとつ従業員がチェックするわけですが、その徹底も大変でした。当然、従業員はマスク着用が義務化されましたが、もともとサービス業では「お客様の前でマスクをするのは失礼なこと」と認識されてきたのです。そういう意味で、サービス業の在り方が転機を迎えたと感じましたね。
本来なら「お客様に寄り添って」「コミュニケーションを大事にして」というのがサービス業だったわけですから。そうした事態の中で「お客様の立場に立つ」という基本の概念を、再認識できたのも確かです
― 未曽有の事態ではありましたが、コロナ禍にあっても出店計画は変更せずに着々と進められましたね
2020年は出店0でしたが、2021年は1店舗、2022年も1店舗、2023年は2店舗と、計画の見直しはしませんでしたね。コロナ禍の前から決まっている計画ですから方向転換することはできませんでした。
2021年は石川県の小松市に新店舗を出しましたが、よりによってグランドオープンの初日に電話が来て「今日から時短営業してほしい」と・・・
― コロナ禍ではじめた「新しいこと」は何かありましたか
インスタグラムを中心としたSNSの見直しですね。2022年頃に管理システムを構築しました。当グループはSNS草創期から割と積極的に取り組んできたのですが、それまでは店舗の自主性に任せて、店ごとにいろいろな発信の仕方をしていました。しかし28店舗全てを把握しきれないので、コンセプトにブレが生じるのです。
そこでコンサルタントに入ってもらって、運用を全て見てもらいました。「発信」も「監視」もです。いわゆるSNSだけでなくGoogleビジネスプロフィールや食べログ、ぐるなびなどの掲載内容、レビューも全て見てもらっています。世間で騒がれた事例のように、SNSというのは一面では大きな脅威でもありますから。
一方でお客様の口コミを全て拾えるようになったことは大きい。お客様の声は、我々が前に進むためには一番大事な要素ですから
― コロナ禍いったんん過ぎ去っても次は原料高など、外食産業の暗闘は続いています
この間に、ほとんどのお店が値上げをしたことでしょう。当店も値上げをしました。1回の食事が高価になったことで、より一層お客様から「価値が問われる時代」になったと感じます。払った対価に対して価値はどうなのだ、と。
私たちが出しているステーキという献立は、消費者マインドからすれば「ごちそう感」が強いものだと思いますし、それだけ期待値は高いし、食べに行く際のテンションも高い。食べに来られるお客さまにも、ある種「背景」があります。何かのお祝い、誕生日、自分へのご褒美など。そんなお客様の背景を、想像した接客が出来たら良いですね。外食産業は、毎回が「出会い」なのですから