【人気記事】開志専門職大学(新潟市中央区)井手上京香さん「歳を重ねても自分らしく生活できる社会を」、世界を変える起業家の卵
過去に掲載した人気記事を再掲載します(初回掲載:2023年12月26日)
「1年生から毎年一度はビジネスコンテストへ出るようにしています」。井手上京香さんは、開志専門職大学(新潟市中央区)事業創造学部の3年生(取材当時)。社会課題の解決を目指したアイデアを、これまで様々な場面で発表してきた。11月には、同大学が主催するビジネスコンテスト「Open Gate NIIGATA2023」で最終選考まで出場。惜しくも入賞は逃したが、事業化も目指して取り組みを進めている。
高齢者に必要とされる「移動の支援」
井手上さんは長野県の出身。「経営に特化していて、なおかつ一番実践的」だと感じ、新潟の開志専門職大学へ進学した。1年生、2年生と福祉や製薬関連の企業で実習経験を積み、現在は就職活動をしながらも、「いつか起業したい」と志す。
そんな彼女が「Open Gate NIIGATA」で発表したのが、「日常生活の小さな娯楽に特化」した要介護者のお出かけ支援事業。介護支援制度では、通院や買い物、冠婚葬祭などの生活に必要な移動が主であり、一方で、既存のサービスは旅行などの遠距離移動かつ特別な利用目的に特化しているものが多い。井手上さんの提案は、いわばその間となる「中距離」を埋めるというものだ。
例えば、「趣味で映画館へ」、「以前に通っていた店へ」あるいは「サークル活動に」……。旅行ほど大掛かりではないが、必要最低限の生活支援の範囲には入らない、楽しみや趣味の「お出かけ」を利用者から依頼を受け、自社で提携している介護タクシーもしくは自社持ちの介護タクシーを使用して送迎するサービス。
利用金額については、月3万円で3回までの利用をベースにしたサブスクリプション型に設定。1回あたり2万円以上が基本となる既存サービスに比べ、利用のしやすさや継続性を重視した。
「以前、インターンシップで老人ホームへ行った際、昔漁師をしていた入居者と出会った。その人は元々屋外へに出るのが好きだったが、(施設へ入った現在は)なかなか外に出ることもできないし、家族に頼るのも申し訳なく思っていた」と井手上さん。今回のサービスを考えるにあたり、介護施設へ調査を実施。「近距離(日常生活):中距離(趣味など):遠距離(旅行)で調べて、大体1:3:1ぐらいの割合。かなりのニーズがあることがわかった」(井手上さん)。
新潟市内の介護施設との提携から始め、ゆくゆくは家庭や、高齢者以外の要介護者全体へと利用者層を拡大していきたいと構想する。
起業を目指して
井手上さんのアイデアは、「Open Gate NIIGATA」のオーディエンス賞で2番手を獲得。賞を受賞した新潟大学「にゅーふぇいす」とは僅か1票差だった。入賞自体は惜しくも逃したものの、井手上さんは「また挑戦したい」と笑顔とともに意気込む。「これまで出場したビジネスコンテストでは、チームで出場していた。今回は、私一人。本当にやりたいことを提案して、それで本戦まで行くことができた。ほかのチームの発表も見て、自分に必要なことも見えてきた」。
開志専門職大学では、すでに学生起業家を輩出している。そのうちの一つである株式会社LacuSは、高齢者向けの食品を開発。高齢社会となった日本では今、スタートアップの力も必要だ。
井手上さんは今回の「Open Gate NIIGATA」出場について話す。「やっぱり、社会の現状に沿った提案ができたことが評価のポイントだったと思う。高齢社会は、今の日本の一番の問題。『こんなサービスがあったらいいな』じゃなくて、『将来の自分にも必要かも』と思わせることができたのが、今まで自分が提案したビジネスアイデアと違うところ」。
インターンでの経験を活かした今回の提案。しかし元々、井手上さんが介護の現場を見てみたいと思ったきっかけは、彼女の祖母の存在があった。「祖母を介護した経験から、介護関係の業界へ興味を持った。歳を重ねても、体が不自由になっても、自分らしく生活できる社会になれば。自分自身でそんな世界をつくっていきたい」(井手上さん)。
井手上さんは現在、就活生。インターンでの経験も含め、「色々な業界を見て勉強したい」という。そして最大の目標は、起業を通して「自らの力で何かを起こすこと」だ。現場へ飛び込み、課題を自らのこととして考え新たなアイデアを創造する。常に積極的なその姿勢に、今後も注目だ。
(文・鈴木琢真、撮影・中林憲司)
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開志専門職大学 事業創造学部
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