【建設業の人材難と因習打破へ】カリキュラムと練習場整備で時代に即した育て方を 職人育成に力を入れる中喜(新潟市東区) 社長&新卒社員インタビュー<PR>
「建設業界は、工場があるわけでも商品があるわけでもない。人が建物を建てるのであり、人を育てることが会社の最重要業務。高齢化で職人が減っているなか、教育に注力する以外に会社が生き残る術はない」──そう話すのは、内装工事を手掛ける株式会社中喜(新潟市東区)の中村太郎代表取締役社長。同社では今年度、2人の新卒を採用。現在、内装工事職人としての教育に力を入れている。
人手不足が深刻化する建設業界。今回は、実際に中喜へ入社した新入社員の声も拾いながら、同社の取り組みを紹介し、今後の業界改革へのヒントを探りたい。
関連記事:「建設業の『見て覚えろ』の因習を打破する」、新卒採用と人材教育に力を入れる中喜(新潟市東区)(2023年7月10日)
目次
○「見て覚えろ」ではない新人教育
○社内で練習を積んでから現場へ
○いい意味でイメージと違った──新入社員インタビュー
○教育体制を整えておく意義──人口減のなかで
「見て覚えろ」ではない新人教育
──会社の研修体制や制度、担当者などのサポート体制はどのような形になっていますか?
中村太郎代表取締役社長(以下、敬称略):まずは内装職人として当社に定着してくれること、そして一日も早く技能を覚えて戦力になることを目標に設定しました。教育体制としては、少年野球のコーチを長年務めている内装工事部の三善容一部長を責任者とし、同部の若手社員である飯沼渉主任と中野亮太主任の2人をOJT担当、ほかにも新入社員と歳の近い社員にメンターを担当させるなどしています。
「どんな職人になって欲しいか」「最初の一年目にはどういうスキルを覚えてほしいのか」などから考え始め、等級制度を基にスキルマップを作成しました。そのスキルマップをカリキュラムに落とし込み、新人教育を実施しています。
──スキルマップやカリキュラムはかなりしっかりとしたものですが、これも今年度から?
中村:昨年、社員みなで議論して作りました。議論は喧々諤々で、「社会人の基本から教えたほうがいい」「いや、技術の習得が優先だ」など色々意見が出て今の形にまとまるまで、かなり時間がかかったことを覚えています。
いずれにしろ、今の時代に即した育て方をしていきたいと思っています。従来の建設業はその真逆で、実際、私たち自身は現場にいきなり突っ込まれて、あたふたしながら仕事を覚えてきましたが、それではいけません。「とりあえず現場に入れて、見て覚えさせる」という今までの風習は絶対にしない、というのが方針です。
社内で練習を積んでから現場へ
──入社から現在まで、どのような研修をしていますか?
三善容一部長(同):4月から5月は実習期間と定めて、主に座学と実技により基本的な技能の習得を目指しています。主な担当は、内装工事部である私と飯沼、中野、そして社外の内装職人の4人です。
まずは骨組みを造る工事と、そこへ壁や天井の基礎となるボードを貼る作業を学んでもらっています。現在は社内に職人が居ないので、社員もこうしたことを教えるのは初めてで、我々も学びながら指導していますね。
──具体的な実習の内容は?
三善:社内の実習スペースで、実際に下地を組んでボードを貼って完成させて、それを解体させるところまでを繰り返しやってもらっています。入社1カ月で、現在3回目の組み立てを始めたところです。完成毎に改良点やミスなどを振り返っています。
今後は、梁型や柱型をつけたりなど難易度を上げながらまた何回か実習して、自信がついたら現場での作業へ徐々に移っていく予定です。
──事務所内の実習スペースは、新人教育のために昨年新設したものですよね。練習ができるのは、こういった空間があってこそだと思います。
三善:普通だったら、すぐに現場に入れて作業をやらせるのが主流です。しかし、現場に(実習に)適した仕事があるとは限りません。こういった実習の場があれば、朝から晩まで失敗しながら基礎練習ができます。新人の2人は、こうした環境のおかげか想定以上のスピードで成長しています。
中村:現場はお客様のものなので、そこで練習するのも難しいし、失敗したら「振り返り」では済まない話になります。人手不足で工期に余裕がなくなっている現代はなおさらです。特に、私たちが手掛ける内装工事は工程で言えば一番最後。日程が押していることはあっても、余裕があることはありませんから。
──建設業に「座学」はあまりイメージがありませんが、どういった教育をされていますか?
中村:工事に使う材料を覚える必要があるので、材料メーカーを呼んで講義してもらったりしています。また、自分たちが施工した壁に貼ることになるため、壁紙メーカーに壁紙の貼り方を教えてもらったりすることもありますね。
ただ、座学だけでも現場だけでも覚えられるとは思っていないので、午前に座学、午後にそれに関連する実習……などと知識が関連づけられるやり方を考えています。
──今後の実習のスケジュールについて教えてください。
三善:現在も、現場を知るために⼩規模な改修⼯事などへ見学には連れて行っています。しかし5月後半からは、実際の大型現場に新規入場者登録をして、作業を手伝いながら現場の雰囲気を知ってもらうと考えています。
6月からは現場での実習をメインにして、週に1日か2日は会社で座学で振り返りをしたり、できなかったことを実習施設で再確認したり、という流れにしたいですね。
中村:一方で、6月以降も現場に任せきりではなく、OJT担当の飯沼が同行し、新人が分からない点を質問できたり、作業の中での危険を指摘できる体制は維持していきます。
いい意味でイメージと違った──新入社員インタビュー
実際に1カ月目の新入社員2人に、話を聞いてみた。
──入社のきっかけは?
服部映児さん(同):高校生の頃に行った合同企業説明会で、最後に声をかけられて説明を聞いたのが中喜でした。そこで説明してくれた人が良い人ばかりだったこと、また、施工実績や(社内に設置されている)筋トレルームなどの印象も良かったので、その後、中喜へ企業訪問へ行くことにしました。
そこで内装ボードを貼る体験をさせてもらって、それがとにかく楽しかった。なので、ここならやりがいを持って働けると思って応募しました。
金子翔空さん(同):高校時代、就職先を迷っていた中で進路指導の先生から紹介されたのが中喜でした。会社についてはよく知らない状態でしたが、企業訪問時に会社案内資料や動画などを使って丁寧に説明してもらい、「しっかりした会社だな」ということが印象に残りました。
また、施工体験がとても楽しかったので、「この会社でやってみよう」という気になりました。
──入社して1カ月が経ちますが、実際に働いてみていかがですか?
服部:覚えることが多くて大変だけど、実習の課題を完成させたとき「自分ひとりでやったんだ」と達成感を感じることが嬉しい。また建設業界については、いい意味でイメージと真逆でした。
金子:難しいけど楽しいし、やりがいを感じます。それに、講師をしていただいている職人さんがカッコいい方なんです。
ゴールデンウィーク中などに友人と会って他の会社と比べてみると、改めて中喜はいい会社だなと思いました。また、カリキュラムには「社会人の基礎」的な部分もあったので、自分も大人になったな、と実感することもあります。
──最後に、今後の目標についてお願いします。
服部:有名な建築の内装を手掛けることができるようになって、「ここ、俺がつくったんだぞ」と言えるようになりたいですね。
金子:きれいに内装をつくって、お客様に喜んでいただけるようになりたいです。
教育体制を整えておく意義──人口減のなかで
──来年度以降の採用について教えてください。
中村:来年度以降も、2人から3人の採用を目指していきたいと思っています。一度にたくさん採用したほうがコストパフォーマンスは高くなりますが、教育の質を考慮するとこれぐらいの人数が限度だと思います。
今後10年ほどかけて20人ほどの施工チームを確立し、複数班での運用ができるようにしていくことが目標です。将来的に、(業界全体で)間違いなく職人は減っていきます。今現役の職人たちが引退しても、弊社は施工力を維持していきたい。
──今後、会社や業界として目指していきたいところは。
中村:建設業に入職したいという人が本当に少なくなって、高齢化が進んでしまったのは業界全体の問題です。しかし、だからといって当社として何もしなければ衰退してしまうだけ。なんとかして、今ある技術を次世代に引き継ぎたいと思っています。
今後、AIやロボットの発達によって仕事は減っていくと思われる中で、内装職人の仕事はAIやロボットに置き換わることはないと思います。長期的にみると、ホワイトカラーの失職が人口減少を上回ると、一定数は建設業に流れてくる可能性があるかもしれません。
そのようなタイミングで新人を育てていく受け入れ体制が確立されていれば、当社として生き残っていく道があると考えています。
──最後に、今後建設業界へ入るかもしれない若者たちへ一言お願いします。
中村:「自分たちはこう教わった」とか「昔はこうだった」とかではなくて、今の時代に即して、丁寧に教えていく必要があると思っています。そして、結果的にそれが社員の定着や成長に繋がります。建設業に入職したいと思ってくれる人は、現代では本当に貴重な存在です。その想いに応えられるよう、やりがいを持っていきいきと働ける環境を提供していきたいです。
また、地元のゼネコンに入社して業界の洗礼を浴び、弊社へ転職してきた社員も居ますが、彼から「ここだったらやっていける」と言われました。進路指導の先生方にも、「大手だから安心」とか「建設業だから業界自体がブラック」とかではなく、その会社がどれだけ真剣に教育へ取り組んでいるかを見てもらいたいと思いますし、イメージを払拭できるよう頑張っていきたいと考えています。
会社データ
1890年に畳問屋として創業。現在も畳事業は継続している一方で、先代からは内装工事を主軸にしている。複数の工種が必要となる内装工事だが、同社では「中喜装栄会」という協力業者からなる施工体制を確立することで、施工力と工種間の連携強化を確立する。施工事例としては、朱鷺メッセ、新潟市芸術文化会館(りゅーとぴあ)、デンカビッグスワンスタジアムなど。建築工事事業では住宅や店舗の新築からリノベーションまで幅広い。
また、リーマンショックによる受注減少の経験から、安定した利益を上げる経営に力を入れる。前述の内装工事と建築工事、そして新潟本社と近年開設した東京営業所というように、事業内容と地域を多角化させることで、繁忙期と閑散期のギャップを埋める構造を確立した点も強み。
(インタビュー・文 鈴木琢真)
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