【起業家支援にかける想い】「このまちから、スタートアップ企業を創出したい」新潟県南魚沼市と一般社団法人南魚沼市まちづくり推進機構の取り組みとは

新潟県南魚沼市のJR六日町駅前

全国的に、新事業・ベンチャー・スタートアップに対する期待が高まる昨今。「起業」といえば、以前は都市部が中心だったが、近年は地方が開業の地に選ばれることも珍しくない。地方創生は地域の大きな課題であり、ますますこの動きを加速させていきたいところだ。そこで、新潟県南魚沼市で今注目したい取り組みがある。

今年2月、新規事業に取り組む企業、団体、個人を表彰する「NIIGATAベンチャーアワード2023」が開催された。この大会のアシスト部門で最優秀賞に選ばれたのが、南魚沼市事業創発拠点MUSUBI-BAを運営する一般社団法人南魚沼市まちづくり推進機構だ。

「南魚沼市からスタートアップ企業を創出したい」

そう力強く話すのは、当団体の起業家育成支援事業責任者である大谷彩子さん。一般社団法人南魚沼市まちづくり推進機構の取り組みと南魚沼市に対する想いを伺った。

一般社団法人南魚沼市まちづくり推進機構の大谷彩子さん。起業家育成事業の責任者を務める。

 

趣味が高じて地域イベントの復活に尽力

大谷さんは長年住んでいた東京から地元である南魚沼市にUターンし、現在の起業家育成支援事業に取り組んでいる。祖父が体調を崩したことをきっかけに、南魚沼に戻る機会が増えたという大谷さん。二拠点生活のように過ごす中で、徐々に地元の過ごしやすさを感じるとともに郷里に根付いた生活をしたい想いが芽生えたという。

一方で若者が都心に流れ、人口減少が加速していく南魚沼の現状を知り、自身にできることを考えた結果、20年ほど前から途絶えていた南魚沼市大木六の盆踊りの復活に着手。かねてより全国各地の盆踊り大会に足を運ぶほどの盆踊り好きであった大谷さん。木六神社で開催した盆踊りは、昨年の来場数が約500人にのぼる大盛況。2024年も開催が決定し、今年で5回目を迎える。

そんな南魚沼愛の強い大谷さんの現在の活動拠点となっているのが、JR六日町駅中にあるMUSUBI-BAだ。コワーキングスペースやレンタルスペースとしても利用できる解放的な空間が特徴となっている。

一般社団法人南魚沼市まちづくり推進機構が運営する起業家の活動拠点MUSUBI-BA。コワーキングスペースとしての活用もできる。

 

南魚沼市の起業家の活動拠点として

JR六日町駅から商店街へ、商店街は飲食店も多く活気づいている。

一般社団法人南魚沼市まちづくり推進機構は、通称「まちすい」。「ひと」と「しごと」と「まち」をつなぐ活動をしている。

「南魚沼市と連携し、地域資源を生かした新しい産業創発を目指し、スタートアップ起業家を支援しています。起業・創業に関するワンストップ窓口を設けているので、創業前の相談から創業準備、金融機関への橋渡しなども可能です。また、創業後も事業にマッチするクライアントを紹介するなど、事業者様に合わせたサポートをしています」(大谷さん)

一般的に、起業・創業の際にネックとなるのが問い合わせ先が分散していること。起業したい相談者の手続きが煩雑になるのはもちろん、行政の担当者からは銀行や税理士などに直接つなぐことはできない。そこで、「まちすい」が窓口となることで、起業のために必要な準備に関するアドバイスや、金融機関等への橋渡しに至るまでを一環して任せられるという。

 

起業家・経営者同士の横のつながりを活性化

MUSUBI-BAでは交流会などが活発に行われていると聞き、その内容について伺ってみたところ、「起業女子向けの交流会を企画したり、アイデア出しから数値計画まで起業の一連の流れが学べるワークショップを開催したり、かたちは様々ですがセミナーやイベントを積極的に行っています。南魚沼市の起業家のみなさんが交流できる機会が少ないので、もっと情報交換しやすい場を作っていきたいですね」と話す大谷さん。

起業家同士の交流会といえば地域ごとの商工会の利用が考えられるが、南魚沼市の商工会は六日町、大和町、塩沢町の3つに分かれている。個々の商工会でイベントや交流会は実施されているものの、市全体としてのコミュニティがなかった。徐々に企業の数も減る中で、積極的にイベントを企画・運営するのが難しかったという。

そこで、「まちすい」が主体となり南魚沼市全体で参加できる機会を作ることによって、起業家同士の交流の活発化に成功している。

 

地元企業と新規事業のマッチング

MUSUBI-BA入口

「まちすい」のもうひとつの大きな役割が、MUSUBI-BAの運営だ。コワーキングやレンタルスペースとしての利用はもちろん、企業のサテライトオフィスや地域のイベントスペースとしても活用できる。

「MUSUBI-BAでは企業のマッチングも行っています。マッチング例のひとつに、スッポンの養殖事業を行っている株式会社魚沼スッポンという会社があります。南魚沼ならではのスッポンの養殖を目指している企業です。そこで、私たちは地元企業の八海醸造株式会社の酒粕に目をつけました。酒粕を魚沼スッポンが引き取り、スッポンの餌に混ぜて活用することで、地域資源とマッチしたブランド化の確立にチャレンジしています」(大谷さん)

ほかにも大谷さんは、株式会社庄治郎商会と株式会社スノーピーク(新潟県三条市)、株式会社Forest Folksの3社を結びつけた事例を挙げる。庄治郎商会は2011年から薪の加工・販売を行っており、スノーピークに納品していた。当時の薪は県外の資源を活用していたが、双方の企業ともに県内産の資源を使いたい思いがあった。そこで、2023年に南魚沼市で設立されたForest Folksを紹介。

同社は、担い手不足や放置林の増加など、林業のさまざまな問題と地球の環境問題を解決する目的で設立された企業。森林整備の過程で出る間伐材の処分に困っていたForest Folksと、県内産の資源で薪を作りたかった庄治郎商会をマッチングすることで、実際に県内の資源で作られた薪をスノーピークに納品できるように。こうして、以前からの希望であった地産地消の取り組みが実現した。

 

なぜ南魚沼市は起業家支援が進んでいるのか

南魚沼市商工観光課 主事 小林元さん

話を聞くなかで、何度か「南魚沼市からスタートアップ企業を創出したい」という言葉を聞いた。南魚沼市が起業化支援に取り組む背景について、同席した市の商工観光課、小林元主事はこう話す。

「株式会社アルプス技研(神奈川県横浜市)の創業者である松井利夫氏の出身地がこの南魚沼市で、2020年に起業家育成支援等を目的に3億円の寄附をいただきました。さらに、2021年には新たに5億円の寄附があり、計8億円の寄附金を活用し、南魚沼市では起業家育成のための活動等を進めています」

松井氏からふるさとのひとづくりや、活性化に役立ててほしいとの思いを受け取った南魚沼市は、早速2つの柱で起業家育成支援を開始した。そのうちの1つが南魚沼市チャレンジ支援事業補助金だ。

南魚沼市チャレンジ支援事業補助金は、市内で地域産業に携わる個人や既存の法人が取り組む構想段階の事業など、新たなビジネスを社会実装させるために行う調査研究や概念実証(新たなビジネスに向けて、実用化やニーズ適用などが可能か否かを検証するために実施する行為のこと)に必要な経費を補助するもの。2023年度は6者が補助金を受けており、2024年度は4者の採択が決定している。

MUSUBI-BAの施設が寄附によって建てられたものだと記す看板(施設入り口に設置)。

2つ目が南魚沼市事業創発拠点MUSUBI-BAの開設。起業に関する直接的な支援や交流の場が必要であるとして立ち上げられたのがMUSUBI-BAで、その管理者として「まちすい」が活動を行っている。

南魚沼市から起業家が育ち、新たな企業や事業が立ち上がることで地域に新しい雇用が生まれ、地域経済が活発化する。そうすれば、1人当たりの所得が上がり、移住や定住につながる良い循環ができる。ふるさとの発展を願う松井氏のように南魚沼市から大企業に発展していく起業家を増やすために、市と連携し、今後もまちすいは活動を広げていくという。

 

一般社団法人南魚沼市まちづくり推進機構の大谷彩子さん

「このMUSUBI-BAができて3年目になります。利用者の方の声を反映して、個室ブースを追加で作ったり、自由に掲示できるお知らせのスペースを作ったり、徐々に使いやすいスペースになってきました。また、南魚沼市は六日町駅のすぐ傍に市役所があります。MUSUBI-BAは六日町駅内にあるため、物理的に距離が近いこともあって行政との連携が非常にスムーズなんです。そういった点でも、気軽に事業の相談ができる体制が整っています。ぜひみなさん、一度南魚沼のMUSUBI-BAに遊びに来てください」と話す大谷さん。

日本全国に広がるスタートアップ支援の動きの中で、南魚沼市の取り組みは起業・創業の実態に則した先駆的な取り組みではないだろうか。ここから生まれるインパクトが、新潟県全体の発展につながっていくことを大いに期待したい。

 

MUSUBI-BAのポーズをする小林さんと大谷さん

(インタビュー・文 井高あゆみ)

【関連リンク】
MUSUBI-BA
南魚沼市

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