【特別寄稿】小川未明の童話における少年像について―『花と少年』を中心として 第3回(下)高鵬飛(中国出身、上越教育大学外国人研究者)

小川未明文学館(新潟県上越市)

既に百年以上前のこの童話はとても独創的であり、簡単な粗筋、日常の生活場面、気楽でまた流暢な言葉を通じて、大切な子供心の感情世界の素直さ、純粋なさざ波を生き生きと述べ、人間本来の美しい感情を表現し、世間の人情の冷たい残酷さも隠喩している。もともと大人の認識は、「悲しがる」からという理由で、事実を隠すことで子供を守ることができ、幼い心の傷を減らすことができると考えている。結果として、太郎に真実を隠すことにより、かえってひどく傷つけたり、より長く大きなダメージを与えてしまうことにさえなる。少年の心の世界は決して大人の心の世界に劣らないし、大人の心の世界よりも多彩であるかも知れない。もっとしっかりと丁寧に子育てをして上げるには、常に非情なダメージと乱暴な扱いを受けるのは、子供の現実生活と社会環境なのではなかろうか。生涯において忘れられない悲しみになり、子供のあるべき権利を奪うだけでなく、子供に取り返しのつかない傷を与えてしまう。このような心の傷に対する治療は一生かかるかもしれない。

それから、小川未明の『秋のお約束』(注13)という短編を読んだ感想を述べ、『花と少年』と対照してみたいと思う。主に二回の約束を描いた話である。一回目は作品の冒頭文であるが、「寒い、寒い」とまあちゃんが言ってた時に、お母さんは子供たちの着物をぬいながら、「もう、あちらのけやきの木の枝がいろづいたから、じきにあたたかくなりますよ」と慰めて話したが、ついにうす緑色のやわらかなこまかな葉がいっぱいけやきの木の枝から出てきた時、お母さんにつれられて幼稚園へ行く途中、「お母さん、あんなに葉が出た」と言ったまあちゃんに、お母さんは既に前の暖かさと関係ある話を忘れてしまい、ただ何事もなかったかのように「ほんとうに、かわいらしい葉だこと」という対応をしただけであった。まあちゃんは何か妙な寂しさを感じた。二回目は、三輪車をもっているまあちゃんは、二輪車をほしがって、お母さんを困らせた夏の時であった。

「秋になったら買ってあげましょうね」と、お母さんは約束した。
「秋って、いつなの?」と、まあちゃんが聞いたら、
「秋といいますと、あのけやきの木の葉が落ちるころなんです」とお母さんは答えたけれども、けやきの木がすっかり丸坊主となってしまった秋になってもお母さんは約束を果たすことはなく、二輪車を買うことを忘れてしまった。もっと大変なことは、ただお母さんだけではなく、まあちゃん自身もその約束をすっかり忘れてしまったということである。お母さんの約束は信用できないというかわいそうな少年像を描いた話である。

少年たちに対して、親が最も関心を持つべきことは、子供の心理活動と子供心に愛を持つ感情と、楽しい時を過ごすことではないだろうか。また、思いやりと信用を持つような成長こそが大切な宝物であると思う。『花と少年』のお婆さんと太郎との約束とは違うけれども、まあちゃんの子供心の寂しさと仕方なさは『花と少年』の太郎という少年像の悲しさと同工異曲の妙ではないかと思われる。

小川未明が彼の童話の中で、太郎を中心に描いた少年像は、心の中で深く愛する長男を永遠に懐かしんでいることを表現するためだけではなく、その果てしない思いは、生涯童話を書き続ける上で最も有力な源でもあったと考えている。

今日の子供たちの成長環境と幸せは百年前の子供たちには比べ物にならない。現在の両親も百年前のように生活のために苦労せず、子供育てを大切にして、子供を尊重して、多くの時間を子供に付き添って、子供の成長にもっと広い空間を提供するようになった。しかし、社会が激的に進歩しつつある今日でも、太郎のような少年たちの体験した辛さ、寂しさがまだ終わらないのである。このような簡単に分かるはずのことを理解していない親がまだまだ多いように思う。言い換えれば、大人の視点では、子供の感情世界、少年の心の動きをどれぐらい、何パーセントくらいまで理解できるのであろうか。むしろ理解できないのが普通なのではないだろうか。それほど『花と少年』という童話の貴重さと重みは時空と時代を超える佳作である。更に、小川未明の童話を読んだ感動は現実的な意味を持っているし、有り難い童話文学の遺産であると思う。

 

注13 『秋のお約束』初出「子供之友」1930年。

 

高鵬飛プロフィール
1956年9月中国黒竜江省生まれ。教授、2016年9月ハルビン理工大学を定年退職、現在重慶外語外事学院に勤めて、上越教育大学外国人研究者。

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