【道の駅特集】燕三条地場産センター(新潟県三条市・燕市)、「地域企業のための施設」を貫く独特な道の駅【動画あり】
上半期の記事をピックアップし、お盆期間に再掲載します(編集部)
初掲載:2024年6月22日
館内に並ぶのは洋食器や銅器、キッチンツール、さらには園芸用品まで。ホームセンター……ではない、ここは道の駅「燕三条地場産センター」(新潟県三条市・燕市)。そして物産館に置かれているのは、ほとんど全て地元燕三条の企業が生産した商品だ。
金属加工業が盛んな新潟県の燕三条地域。その玄関口であるJR燕三条駅近くに建ち、地域を紹介する役割を持つのがこの場所。近年は特にインバウンド熱の高まりとともに来場者数を伸ばし、2024年3月には道の駅としてオープンしてからの来場者数が200万人を突破した。
地域産業のために生まれ、そして現在もその「尖った」特徴を武器に人気を獲得する同駅の、これまでの歩みと魅力を聞いた。
道の駅なのに「農産物が無い」物産館
物産館に並ぶ商品はなんと約1万点。しかし、一般的な道の駅と異なりメインは農産物でなく、ほとんどが地元企業の生産した金属加工品やキッチンツールなどであるのが特徴だ。その様子はまさに、地域の縮図とも言える。
その一風変わった品揃えや、新幹線駅・高速道路ICに近い立地もあって、地元客ではなく観光客の来館も多い。COVID-19(新型コロナウイルス)感染症禍前、2019年度の来館者数は27万6,492人。そのうち半分以上が県外からの来場者だ。なお、2022年度の来館者数は約25万人で、ほぼ感染症禍前の水準に戻っている。
また、海外からの観光客も増加している。同年度の外国人来館者数は約2,700人だったが、感染症禍明けの2023年度は3,000人を突破した。円安の後押しもあり、今年度はさらに増加することが期待される。
一方で、この数年でインバウンドを含めた観光客の傾向は変わってきたと、燕三条地場産センター営業推進部の鈴木清史部長は語る。「感染症禍以前は団体で来館する人が多かったが、最近は個人や小さなグループで来る人が増えている。また、(インバウンドの場合)購入単価も以前までは5,000円ほどだったが、現在は円安の影響もあり9,000円〜1万円。来館者数は同水準だが、購入マインドは高まっている」。
国内客も含め、観光バスによる来館も2019年度は1,000台を超えたが、2022年度は400台弱程度。これまでは観光会社の構築した県内のルートを回る形だったが、最近は「燕三条」そのものを目的地にしている人が多い。海外客の中でも突出して多いのが台湾人で、有名YouTuberが燕三条製品を紹介したことで人気に火がついたという。
実は全国にある「地場産センター」
燕三条地場産センターが道の駅として登録されたのは2015年11月。県内38番目の道の駅だが、それ以前から存在していることは県内では周知の通りだ。
「ここは1980年代、経済産業省の旗振りでつくられた全国41の『地場産業振興センター』の一つ(現在は22施設に減少)。ちなみに、できた当時は『燕三条』ではなく、『新潟県県央地域』地場産センターという名称だった」と鈴木清史部長。設立自体は1986年。本館の「メッセピア」が竣工したのは、その2年後の1988年5月である。
1980年代、「地場産業総合振興対策」に基づいて全国各地に「地場産業振興センター」はつくられた。群馬県の桐生や長野の塩尻・木曽などにも存在し、県内では「道の駅 クロステン十日町(十日町地域地場産業振興センター)」も同様。その目的は、名前の通り地域産業や中小企業を支援することである。
燕三条地場産センターで行っている支援は多岐に及ぶ。例えば、定期的に開催される地域の企業へ向けたセミナーなど。また、毎年ドイツで開催される世界最大規模の見本市「Ambiente(アンビエンテ)」では共同出展という形で地域の企業の出展を後押しする。また、毎年恒例となった「工場の祭典」の運営も行っていた。
前述のように、物産館の品揃えが独特なのも「燕三条の企業を応援」することが第一義であるがゆえ。「よく、『道の駅なのに農産物が置いてないじゃないか』とお叱りの声をいただくこともある」と鈴木部長は苦笑いを浮かべる。しかし、「我々の立ち位置としては、あくまで燕三条の企業のための組織。地元でできる商品をPRするという所からは、ブレないようにしている」(同)。独特だからこそキャラクターが際立ち観光客からの支持を得ているのも事実だ。
モノだけでない価値を
一方で、メインの商品が農産物・飲食物以外であるため商品がある程度固定化し、リピーターを相手にした際の目新しさや、季節感が薄い点は弱みの一つ。ただ、利用者の中には「ここに来れば燕三条のあらゆる商品が揃っている」として信頼を置く人も居る。販売担当のバランス感覚が今後も重要になりそうだ。
また鈴木部長によると、以前から、商品の背景もより打ち出していく方針であるという。
「企業から預かっている商品なので、商品化に至る背景や職人の思い、苦労など『企業の声』を商品にのせて提案、販売していきたいと思っている。モノだけであればインターネットで購入できるのだから(地場産センターでは)『ここまで来てよかった』『商品にまつわる話が聞けてよかった』と思っていただきたい」。
商品にストーリーを込め高付加価値化を図る手法、オープンファクトリーや「工場の祭典」の主な目的もそこにある。さらに、今後は燕三条地場産センター独自の商品の開発も考えているという。
三条市には同駅を含め3駅、燕市には1駅の道の駅が存在している。それぞれが地域の資源を活用しているが、売り物や地域での役割など、燕三条地場産センターは特に独特だ。30年以上「ブレずに」貫いてきた方針だからこそ、現在の人気と立ち位置がある。今後も正統進化を続けていくであろう同駅に期待したい。
(文、撮影・鈴木琢真)
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