【長岡の大学教育】春から長岡造形大学が新体制 平山育男新学長の元で教育改革と地域連携を推進(新潟県長岡市)

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掲載日:2024年6月12日(最終更新:2024年6月16日)

長岡市の郊外にキャンバスを構える長岡造形大学

2024年3月、前学長が任期満了で退いたことにより、昨11月22日に第3回学長選考会議が開催され、同大造形学部建築・環境デザイン学科教授の平山育男新学長(64歳)による新体制となった。

平山学長は建築史を専門とし、早稲田大学大学院理工学研究科建設工学修了後、株式会社文化財工学研究所研究員、湘北短大講師を経て、1995年に助教授として同学に赴任した。2005年からは、同学の教授として、建築史、住居史、民家史、近世社寺建築、近代建築技術史などの研究に従事。これまで新潟県内の建造物の保存・修復に多く携わってきた。平山学長に、新学長としての覚悟と、今後取り組んでいくことを聞いた。

4月から就任した平山育男新学長

平山学長は、元々東京都の出身。新潟県長岡市に移住するのは、同学での勤務が決まった1995年が初めてになる。一方、それ以前にも仕事の関係で日本各地に行っていたので、雪深い地方への移住にも抵抗はなかった。実際に長岡市に住んでみて感じたのは、地元の人々の心が友好的で、着任を歓迎してくれたということだった。

平山学長の場合、建築物の調査で古い建物などに足を運ぶこともある。通常、こういった場所への専門家による立ち入りは、地域の人との信頼関係が構築されていない段階では難しい場合が多い。ところが、長岡の人たちは当時、助教授として着任したばかりの頃から、平山学長に建物の調査や重要文化財にするための研究、手続きの依頼をすることも多かったという。朝日酒造にある松籟閣の調査も、そのような経緯から始まった一つである。

基本的に、地元の人から依頼される調査については断らない方針を取っていたという平山学長。依頼された建物の歴史的価値を地域の人に示し、どういうものかを提示する。その結果、その物件が重要文化財などの指定を受けるようになると、地元の人たちとの信頼関係構築にも繋がっていった。次第に、長岡市以外にも、新潟市、三条市、燕市、柏崎市、十日町市などの建造物の調査依頼も来るようになり、それらの調査や研究を通して、新潟県内の指定重要文化財の登録物件を増やしていくことができたという。

また、このような地域からの依頼は、平山学長自身の研究実績を形成する上でも、大きく役立った。例えば、依頼を受けて調査したある古い物件では、和釘と洋釘が併用して使用されていた。通常、近代日本の建築に関しては、和釘から洋釘への移行が速やかに行われており、一つの建造物に併用して使用されている事例の報告はそれまでなかった。ところが、平山学長の調査により、和釘と洋釘が併用されて使用されていた建造物の事例が確認され、その成果が2022年の日本建築学会賞の受賞にもつながった。

平山学長が、同学の学長選挙に立候補することを考え始めたのは、2023年8月頃である。確実な証拠をかき集めて研究する姿勢の平山学長は、自身を「石橋を叩いて、壊して渡る」とする。周囲の人たちから強く推してもらい、選考会議を経て、多くの人たちが納得する上での決定となった。

新学長就任にあたっては、「明日も集いたくなる学校」を公約に掲げた。造形の大学は答えというものがない。最適解を求めてみんなで切磋琢磨してくもの。「そのような学校で学んでいる学生たちが明るく過ごせるよう、少しずつ環境を整えていきたい」とする。また同様に今後は、「豊かな家庭生活、社会活動、制作・研究」を目指し、同学教員・職員の働き方改革にも力を注いでいくという。

具体的には、教員間の受け持つ講義のコマ割りなどの持ちまわりが、なるべく公平になるようにする。その上で、残りの時間を、それぞれの家庭生活や制作・研究活動へに充てる。

「学校での活動に取り組みつつも、社会活動にも取り組んでもらい、楽しく学校に集ってもらいたい」と考えている。

新校舎も秋の完成に向けて建設中

就任以来、平山学長は毎朝学長室から、登校してくる学生たちの姿を見ている。就任直後は、学長室の窓からみる外の景色が、これまで2階にあった自分の研究室の窓から見る景色と全く違うということに気がついた平山学長。かつての教え子たちに「学長室ってここだったんだ」といわれ、学生が学長室の場所を知らなかったということに事実に愕然とした。

毎朝、登校してくる学生たちの姿を見ながら、ときどき学生たちに向かって手を振るなどすると、学生たちが手を振り返してくれる。そんなとき、「愛されているんだな、と感じる」という。

毎朝登校してくる学生たちの姿を、彼ら・彼女らと同じ目線でみていると、「二十歳前後の頃の自分が、何を目指していたのかな」と、ふと思うこともあるという。

同学では現在、新しいデザイン領域として、「テクノロジーX(クロス)」の完成を推進している。大学での新しい教育の完成には4年間がかかる。「学んでいる学生たちが卒業後、迷える子羊にならないように、しっかりとカリキュラムを完成させ、大学院も整えていきたい」と平山学長は語る。現在先端的のデジタル機器を備えたプロトタイピングルームや、デジタルデザインアトリエ、映像やオーディオの編集室を一つにまとめた新校舎の建設も行っている。完成は2024年8月末だという。「新事業の完成を、確実に推進していく」と答えた。

現在、同学には地元のみならず、全国各地から多くの学生たちが通学している。「そういう学生たちに選ばれた大学であり、(通っているのは)選んでくれた学生たちであることを、しっかりと自覚しなければならない」という。「だからこそ、学生たち一人ひとりが学んで、社会で活躍していくための、しっかりとした教育環境を整えなければならないということを強く思っている」

平山学長は、記者の質問に対し力強く語った。

(写真・文 湯本泰隆)

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