【書店員が選ぶ】6月のおすすめ本──提供:ジュンク堂書店新潟店
ジュンク堂書店新潟店(新潟市中央区)の書店員が選ぶ「今月のおすすめ本」。書店員の眼鏡にかなった「今読んで欲しい本」を、書店員の生の声でお届けします。
今月は、人文科学書担当の石田舞菜美さんからのおすすめ本を3冊ご紹介します。
私たちは何故トイレにスリッパを置き、はきかえるのでしょうか。
日常生活の中であたりまえになっている習慣には、何故そうなったのかという理由があるはずです。その理由を解き明かし、更に未来へと活かしていこうと取り組む学問が「民俗学」です。物知りになるだけでは終わらない、生きた学問としての民俗学にまつわる書籍をご紹介いたします。
現代民俗学入門 身近な風習の秘密を解き明かす(創元社)島村恭則 編
冒頭に挙げた「私たちは何故トイレにスリッパを置き、はきかえるのか」という問いについて触れている書籍です。「身近な風習の秘密を解き明かす」というサブタイトルの通り、私たちにとっての「普段の生活」における習慣・習俗・風習の不思議が数多く取り上げられています。
成人式はなぜ荒れるのか、タクシーに出る幽霊の怪談について、アート化する精霊馬などなど、目次を眺めるだけでもわくわくしてしまいます。また、各章にはもっと深く知りたい方へ向けたブックガイドもついていますので、民俗学を学んでみたい方の入口としてもおすすめです。
驚きの介護民俗学(医学書院)六車由美
大学を辞め、介護施設の職員として働きはじめた著者による、日々の介護の現場で出会うさまざまな利用者との関わりやエピソードをまとめたもの。
著者はあるとき「ただ生きているのは地獄同然」「生き地獄」と呟いた利用者の語りを聞いていくうちに、多くの経験を踏んで生きてきた彼の人生そのものに触れることになります。また、自身について語る利用者にも変化がみられるようになり……。
介護と民俗学には一見関わりがないように感じられます。著者は今まで民俗学では扱われることのなかった人々の人生に触れることで、民俗学の現場で蓄積されてきた知識や技術が介護の現場で役立つ可能性を見出します。民俗学をいかにして活用していくのか。その実践的な試みと、人々の多様な人生に触れて変化していく著者にぐっと引き込まれる一冊です。
ヒト夜の永い夢(早川書房)柴田勝家
最後は少し趣向を変えて、昭和前期を舞台にしたSF小説です。
主人公は博物学者・民俗学者として知られる南方熊楠。彼を軸として「粘菌を宿した美しい自動人形」を巡る騒動が巻き起こります。史実・実在の登場人物がこれでもかと登場し、走りまわる様子に目が離せなくなります。南方熊楠という人物の型破りなパワフルさはなんとも痛快。読後はふしぎな心地よさを感じることができるのではないかと思います。
民俗学という数多くの不思議と謎に満ちた学問の森へ、ぜひ足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
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