【これぞ旬の人たち】新潟県上越市で活躍する経営者&クリエーターの4人をピックアップ

初回掲載日 2024年6月19日

新潟県上越市で活躍する経営者&クリエーターの4人

人口約18万人で新潟県第3位の規模の上越市は戦国武将・上杉謙信出生の地であり、江戸時代には徳川家康の6男が城主を務めた土地で、歴史・文化が深い町である。高速道路は上信道、北陸道と2本通り、北陸新幹線で東京まで2時間、富山、長野、長岡、佐渡にも近いというアクセス抜群の上越市で活躍する経営者やクリエーターをピックアップした。

 

本場ローマに出店を成功させた男

クオルス株式会社の高波利幸代表取締役社長

まずは、イタリアンレストラン「ペントラッチャ」を展開するクオルス株式会社の高波利幸代表取締役社長にご登場いただこう。高波社長は、なんと本場ローマに出店を成功させた人物だ。「日本でもイタリア料理店をローマに出店した人は私以外にはいないと思う。私は人がやらないことを『自分ならできる』という自信がある」と語る。結局ローマ店は閉店を余儀なくされたが、「上越から世界へ」という夢(チャレンジ)を実現させた人物であることは間違いない。

東京、上越市、新潟市にある国内の店内では、店員のイタリア語が飛び交う。高波社長もイタリア語を話すが、なんと独学で習得した。「とにかく、イタリア語を話したかった」と笑うが、今年も5月の大型連休後に社員研修旅行で数日間イタリアに渡った。ワインの仕入れや本場のパスタやピザを味わうことが大きな目的だ。その社員も「中途ではなく、新卒しか採用しない」というこだわりがある。

今後は栗の栽培に取り組み、栗は店での提供や同社で製造するクラフトビールに入れるなどしていく方針だ。

 

ユニクロ方式の低価格・高品質路線

越後繊維株式会社の大嶋哲代表取締役

次は、ロードバイク製造販売、越後繊維株式会社の大嶋哲(さとる)代表取締役。越後繊維というくらいなので、元々の本業は繊維製品卸で、創業100年を超える老舗である。しかし、繊維業界は「ユニクロ」に代表される製造小売業が台頭し、国内アパレルや商社、百貨店や量販店が苦戦を強いられている。

そんな中、状況を打破するため、2019年に大嶋代表の趣味だったロードバイク事業に異業種から新規参入したのである。越後繊維が参入できたポイントはいくつかある。

まずは、大嶋代表が中国に留学した経験があり、中国語を話せたということ。中国はアパレルのみならず、ロードバイクでも「世界の工場」であるからだ。代表自ら中国本土へ乗り込み、提携工場を探した。

次は、繊維業界にいたことで、絶対王者「ユニクロ」の手法を応用することができたことだ。越後繊維のロードバイク自社ブランド「BISYA」は、中国生産で商社を通さず、さらに広告費をかけずにロープライス・高品質の商品を実現したのである。

さらに、ユニクロ方式の低価格・高品質路線で薪割り機や芝刈り機を企画製造販売する「PLOW」を展開する株式会社ホンダウォークの石塚賢一郎代表取締役CEOから中国での生産体制を薦められたという経緯があり、それらが重なり合ったものだということができる。

今年3月に価格改定し、20万円以下でカーボン製のロードバイクを販売している。円安による価格高騰に徹底して対抗した価格で、低価格・高品質を地で行っている。アパレルとロードバイクの売り上げ比率は、まだまだアパレルの方が大きいが、「将来的にはロードバイクを100%にしたい」と大嶋代表は将来的な業態転換する方向性を示した。

これまで、企業の経営者をクローズアップしてきたが、ここからは上越市を代表するクリエーターを紹介する。

 

パッケージクラフトの第一人者

高橋和真さん

まずは、お菓子の空箱からロボットや動物などを作るパッケージクラフトの第一人者、高橋和真さんである。高橋さんは一般社団法人日本パッケージクラフト協会の理事長でもある。

高橋さんは東北芸術工科大学の大学院を修了しており、クリエーターとしてしっかりとしたバックボーンを持つ。「優秀なデザイナーが作ったお菓子の箱を無駄にしたくない」という思いから、「パッケージデザインを活かす」というコンセプトで制作するようになり、明治や森永製菓などの国内大手菓子メーカーと取引できるようになったことが大きな転機となった。

パッケージには著作権があるため作品を販売することはできないが、大手メーカーと組んでお菓子の空箱を使った工作のマニュアルを作成し、それを提供することで対価を得ている。

今年2月に、上越市大町通りにギャラリー「空のおもちゃ箱」を妙高市から移転オープンした。制作風景や作品を見学できるほか、定期的に工作教室も開催している。今後は本町商店街周辺の店舗とのコラボレーションも検討している。

 

魂のシーグラス作家

下鳥幸彦さん

最後にご登場いただくのは、シーグラス作家の下鳥幸彦さんだ。

「シーグラス」とは海岸に打ち上げられたガラス片のことで、波に洗われるうちに丸くなったもの。下鳥さんは脳出血の後遺症で手足にまひが残る中、右半身が思うように動かないため、左手と口などを使ってシーグラスをつかみ、接着剤をつけて作っている。

下鳥さんは内装業者の職人として働いていた11年前に突然脳出血で倒れ、重い後遺症で右半身にまひが残った。自営業で、全国を飛びまわっていたという。その反動だった。生きる意欲を失い、いつも下を向いてひと気のない場所ばかりに行っていたというが、その時転機が訪れた。奥さんに連れられて行った海で、シーグラスに出会ったのだった。

「実は内装の仕事の時に私は賞をもらったことがあるんです」と下鳥さんは教えてくれた。透明感のあるシーグララスの素晴らしい作品の背景には、しっかりとしたデザインの才能があったのである。今後の目標はと聞くと、その答えは「かみさんを楽にしたい」と。奥さん思いの下鳥さんの制作姿を見て、作家活動を応援したくなった。

今回は上越市で活躍する経営者、クリエーターを取り上げた。人口では県都の新潟市と長岡市に劣るが、雪や米、酒蔵など独特の文化が残る上越市。蒲原報道という言葉がある通り、まだまだ下越中心の新潟県ではあるが、新潟県の下方からまさに「ボトムアップ」の力で地域活性化の「ほとばしり」を起こしていってもらいたいと思う。

(文・撮影 梅川康輝)

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