コジマタケヒロのアルビ日記2024 Vol.11「積み重ね」小見洋太
――なかなか結果の出ていない、若い選手を試合で使い続けることに対する、監督ならでは
の哲学はありますか?
2024年6月18日の練習後、松橋力蔵監督にこんな質問を投げかけた。
「試合に出たときに自分は何ができるかをしっかり見つめられるのは、やはり試合しかありません。ただ雰囲気や自分のメンタリティーが影響して、練習でできていることが必ずしも試合でできるというわけでもありません。だからこそ、試合で中々結果の出ていない若い選手を使い続けられるというのは、選手にとって厳しいことだと思っています。しかし、それが彼らの成長にも大きくつながると思う。だからこそ、僕も勇気を持って彼らを使い続ける。僕自身、勇気のある監督なのか、そうじゃないのかというところを自分の中で常に問うています」
出場したほぼすべての試合でシュートを放つも無得点。そんな結果がホーム・福岡戦(●1-2)まで続いた。この試合が終わった直後、記者陣が話を聞こうと集まったミックスゾーンを泣きはらした目で、うつむきながら、そして足早に通り抜けた小見洋太選手に、僕は声をかけることができなかった。
「ずっと得点という結果が出ていなかったですし、チームの状況もずっと悪かった。この試合でやらなかったら次はない。あの試合(福岡戦)がラストチャンスだと思っていました。しかし、試合には負けて、自分のパフォーマンスも出しきれずに終わってしまった。前半戦で一番悔しかったゲームです。それでも次の試合にも監督は使ってくれました。感謝していますし、本当に申し訳ない気持ちもありました。クラブの強化部の方が僕を使い続ける監督のことを信じてくれ、僕のことも信頼してくれていたってことなので、クラブにも監督にももちろん、チームメイトにも感謝しかありません」(小見選手)
福岡戦の次節、戦う相手となったのは首位を走る町田(◯3-1)。しかも、アウェイの地。右サイドハーフで出場した小見選手は24分、ハーフウェイライン付近でボールをもらうとそのままドリブル。最終的に相手ゴール前まで侵入すると豪快に右足でシュート。先制点をあげると、続く26分には右サイドからゴール前の谷口海斗選手に技アリのセンタリング。
谷口選手のヘディングシュートは相手選手の見事なカバーリングでノーゴールとなるが、惜しいシーンを演出してみせた。
松橋力蔵監督いわく「感受性豊かな選手だと思います。無口なところはありますが、表情を見ただけで『何か変わったな』と思わせる、何かを感じ取らせるパワーを秘めた選手だなと思います」という小見選手は、町田戦以降好調をキープ。6月の公式戦5試合で4ゴールを決めている。
「町田戦でのゴールが大きかった。あそこから自分の中で気持ちがだいぶ楽になり、より前に出ていこうという方向性でプレーできています。もちろん、以前からこの意識は持っていましたが、いろいろなことをしすぎていた感も正直あります。それを明確化したというか、シンプルな選択肢にしたら、いいポジションも取れるようになったし、ゴールが転がってくるし、集まってもくる。前節の鹿島(A/△1-1)のゴールはカイトくん(谷口選手)がファーに打ってくれたからこそ詰められた。あぁいうのが続いているのは、調子がいい印なのかなと思っています」(小見選手)
さらに、小見選手は次のように続ける。
「知り合いから『覚醒したな』と言われますけど、やり続けていたことがなんか急に、本当に積み重ねてきたことが急に数字につながったという感じ。僕の場合、覚醒なんかじゃないですよ。(長倉)幹樹くんが今5点取っているので、彼が休んでいる間に早く追いつきたいと思っています。1つのゴールが2点分ということにはサッカーの場合ならないので、一つ一つの試合で結果を出して積み重ねていけば大きな結果になると考えています。前線の選手に求められるのは結果だけ。やるべきことをやっていくだけです」
今週末の川崎戦について「前節の鹿島戦では勝ち点を取りこぼしているから、次は必ず勝ち点3を取りたい」と話すその顔は、福岡戦後でのそれとは明らかに別物だった。
◎アルビライター コジマタケヒロ
練習、ホーム戦を中心に日々取材を続ける、アルビレックス新潟の番記者。また、タウン情報誌の編集長を務めていた際に、新潟県内の全日本酒蔵をひとりで取材。4冊の日本酒本を出した、にいがた日本酒伝道師という一面も。(JSA認定)サケ・エキスパート。
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