【長岡市立科学博物館】「ひとつの命も無駄にしない」 なぜ標本は作られ、保存され続けるのか 長岡市立科学博物館が企画展を開催(新潟県長岡市)
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初掲載:2024年6月24日
新潟県長岡市にある長岡市立科学博物館は、地学・植物・動物・昆虫の自然系4部門、考古・歴史・民俗・文化財の人文系4部門、合計8部門をもつ地域に密着した総合博物館である。
同館では2024年5月1日から、企画展『植物×鳥×ケモノ―なぜ集める? どう守る?』が開催されている。本企画展では、「植物標本」「鳥類標本」「哺乳類標本」にスポットを当て、それぞれの標本の性質を比較しながら解説しており、いわば‟博物館の裏側”を知ることができる、とても興味深い展示となっている。
展示を担当している鳥居憲親学芸員(36歳)によれば、今回の企画展のきっかけは、昨2023年、国立科学博物館が行ったクラウドファンディングであるという。同クラファンは、同館が収蔵している500万点という国内最大規模の標本の管理に充てるため行われたものだった。このクラファンでは、5万6000人余りからおよそ9億2000万円の資金を集めることに成功した。だが、その一方で、「‟なぜ標本を未来に残していかなければならないか“というメッセージはまだまだ十分に認知されていないように思う」と鳥居学芸員は語る。
一言で標本といっても、それが何の標本かによって、保存や維持をしていくための課題や問題点は異なる。長岡市立科学博物館のような総合博物館では、扱う標本の種類も多いため、抱える課題も複雑化して、煩雑になりやすい。また標本の用途が、研究用なのか、展示用なのかによっても、保管に必要なスペースが違ってくる。近年では、かつてのように、気軽に作製したり、寄贈を受けたりして、標本の種類や数を増やすのが難しくなってきている。
そもそも何のために標本を作製し、残していくのだろうか。
「鳥類や哺乳類の標本の場合、現在ではその多くが事故や病気などで亡くなった個体を標本としている。救うことができずに、失われてしまった命を標本にして研究に使ったり、多くの人に知ってもらったりすることで、その種への理解を深め、次の世代の命を救うことに繋がる」と鳥居学芸員は語る。
「できるだけ多くの標本を集めることによって、より質の高い情報が得られる」と語るのは、同じく企画展を担当している櫻井幸枝学芸員(48歳)だ。実際、櫻井学芸員が、県内の標本収蔵施設にあるサルビアの標本を丁寧に再分類した結果、新潟県内における二種類のサルビアの生息域が、佐渡島と本州で別れていることが明らかになった。また、現在ではわからないことも、将来の新しい科学技術を用いれば明らかになることがあるかもしれない。今の生物の情報をできるだけ多く標本として次世代に残し、未来へ届けていくことが大切だという。
多くの標本を残し、その情報を次世代に繋いでいくうえで、欠かせないのが〈標本士〉と呼ばれる人たちの技術である。彼らは、動物の遺骸から利用の目的に併せて最良の標本を作り出すスペシャリストだが、日本においては、認知度も低く、欧米のように職業として確立もされていないのが現状である。標本士の育成と技術の普及が日本の自然史系博物館の急務となっている。
「昔は博物館の標本コレクションというと、自慢する色合いが強かったが、現在は違う」と鳥居学芸員は断言する。「‟命”という情報を、如何に未来の人や、生き物たちに繋げ、還元していくか。それこそが、現在、博物館が標本を作り、そして保存する意味」だと鳥居学芸員は、力強く語る。
展示は、7月7日まで。〈標本〉という視点から、博物館の意義や、直面する課題について、じっくりと学び、考えて欲しい。
(文・写真 湯本 泰隆)
長岡市立科学博物館 公式Webサイト