【インタビュー】「伝統ある亀田縞を生かして地域の産業を盛り上げたい」株式会社カメダプラスの小林代表が語る、地域の宝に目を向けたまちづくりの極意(新潟市江南区)
初掲載:2024年7月9日
株式会社カメダプラス(新潟市江南区)の小林堅治代表取締役需要の減少や担い手不足などの理由で、地域に根付いてきた伝統ある工芸品があちこちで姿を消している。一方、「今あるもの」に目を向け、地域の観光資源として生かす取り組みも行われている。
2005年の市町村合併により亀田町という呼称は無くなり、現在は新潟市江南区として歴史を紡いでいる亀田地区。ここで生まれ、生産が続けられている伝統織物「亀田縞」がある。
亀田縞を軸にまちづくりを行う株式会社カメダプラスで代表取締役を務める小林堅治氏は、「亀田縞は決して旧亀田町の産業にとどまるのではなく、今や新潟市の伝統ある工芸品として成長していく必要がある」と語る。今回は小林氏に、亀田縞を取り巻く現状や課題、まちづくりへの展望を聞いた。
300年の伝統が息づく亀田縞の現在
新潟市江南区亀田地区で生産される亀田縞の歴史は、およそ300年ほど前にさかのぼると言われている。当時綿生産の最北地であった亀田地区で、農業ができない冬場の内職として織られた亀田縞は、丈夫で汚れに強い農作業着として人々の生活に根付いてきた。
その後の明治〜大正時代には亀田地区に600を超える機屋(織物製造を営む業者)がひしめき合い、亀田縞の生産は最盛期を迎えたが、昭和時代になると需要は低下。第二次世界大戦により材料となる綿も手に入らなくなり、亀田縞の歴史は一度幕を閉じることとなった。しかし平成に入り、産地に残った2軒の機屋(立川織物、中営機業)によって亀田縞は復活。現在も生産が続けられている。
「近隣地域には加茂縞や小須戸縞もあったが、需要の低下のために機屋は閉業してしまった。亀田縞もいずれ無くなってしまうのではないか」ーー新潟県内に伝統ある工芸品が少なくなってきたことに小林氏は危機感を募らせていたという。
その理由として、小林氏はかつて新潟市の中心部にあった堀の存在を挙げる。「(中央区古町の)東堀と西堀を埋めた経緯を見ても、当時は誰もが衛生面や利便性を考えて最善策であると埋め立てに賛同したはずだった。一方、金沢や広島といった他の観光地では堀が残っており、観光資源として生かされている。歴史があって語れるものを無くしてしまうのはもったいないのではないか」と小林氏。
復活を遂げた亀田縞の存在を冷ややかな目で傍観する地域の人もいるという。「とはいえ、『亀田縞が無くなっても良いか』と問えば、『無くなってしまうのはちょっと……』と大抵の人が多少の抵抗感を示す。伝統や文化が途絶えることに少しでも抵抗感を持つのならば、それぞれのスタンスで向き合うべきでは」と小林氏。
地域に残る亀田縞を生かしてまちの産業を盛り上げようという思いから、2023年5月、亀田地区にゆかりのある若手メンバー20名が中心になってまちづくりをする「株式会社カメダプラス」を立ち上げた。また、その半数以上が亀田出身ではなく、小林氏も出身は新潟市中央区である。
小林氏は「どのメンバーにも本業があり、それぞれの得意分野を持ち寄って活動している」と話す。メンバーの年齢層も偏らないように工夫し、豊かな発想を大切にしているという。
変幻自在な亀田縞を活用した事業を複数展開するカメダプラス
株式会社カメダプラスがまず目を向けたのは、亀田縞の魅力を発信する専門店を持つことだ。幹線道路沿いにある空き店舗を改装し、およそ40坪のセレクトショップを2023年10月にオープンさせた。一階建ての建物で、「亀田いっぴん市場満開堂」と「カメダジマストアNIIGATA」の2つの店舗がある。
「亀田いっぴん市場満開堂」では地元の企業およそ20社による食品や化粧品などの製品を取り扱い、地域の特産品を気軽に買い求めることができる。
「カメダジマストアNIIGATA」には亀田縞を生産する立川織物と中営機業の衣類や小物が並び、実際の色合いや手触りを確かめながら商品を選ぶことができる。
縫製工場も併設されており、亀田縞を使ったアイテムがオーダーメイドで製作できるほか、今後は裁縫が体験できるワークショップなども計画しているという。
展開する事業は専門店の運営にとどまらない。店舗に事務所の機能も備え、亀田縞をさまざまな製品作りに生かすための商談スペースとしても活用する。小林氏は「この店はハウスメーカーにとってのモデルハウスのようなイメージ。実物の亀田縞がそばにあることで、作り手の思いも伝わると考えた」と話す。
現在は地元の学校の体育館に使われる舞台幕や企業の職員が首から下げるネームプレートなど、身の回りの製品を作る県内の企業へ次々と声を掛け、地元のNPO法人や区役所とも協力しながら亀田縞を使ったアイテムの試作に励んでいるという。
「流行り廃りのない亀田縞のデザインは扱いやすく、想像以上にさまざまなアイテムに馴染むことを実感している」と小林氏。「例えばバス車内のヘッドレストやホテルの客室のシーツなどに亀田縞を使うことで、観光で訪れた人にも特別感を感じてもらえる。観光資源として外から評価を受ければ、地元の人の誇りにもつながるはず」と話す。
実際に亀田縞は2023年に開催されたG7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議のお土産品として採用されたほか、東京・銀座にオープンする新潟県のセレクトショップ「THE NIIGATA」のオープニングイベントのコスチュームにも採用され、露出を拡大している。
地域の宝物に目を向け、「頑固な柔軟性を持って」産業を再生するビジネスモデルを作りたい
「歴史や伝統は大事にしつつ、自分たちのやり方で頑固な柔軟性を持って亀田縞の魅力を発信していきたい」と小林氏。自身ももとは飲食業を中心に展開しており、亀田縞について詳しい知識を得たのは株式会社カメダプラスを設立してからだという。「亀田縞に精通しすぎていなかったからこそ、フラットな視点で今までになかった切り口やアイデアが生まれているのでは」と自分自身を分析する。
そんな小林氏は亀田縞を軸としたまちづくりの活動を始め、改めて地域の魅力や可能性に気付いたという。「まず、亀田という名称には亀田製菓さんのおかげで全国的な知名度がある。また、あまり知られていないが、亀田駅は新潟駅から電車で10分以内という好条件の環境に立地しており、その住み易さからベッドタウンの役割も担っており、これから人口が増える見込みもある。そして、亀田地区という単位は規模が小さく動きやすい。行動することで周りも協力してくれて、亀田縞を活用した新たなコミュニティも生まれている」と小林氏。
株式会社カメダプラスが目指すのは、亀田縞をはじめとした地域の商品を広く発信することでより多くの人に手にとってもらうこと。そして、地域の産業を盛り上げて雇用を生み出していくことも重要だと強調する。
「無くても生活には困らないが、無くなったら寂しいと感じるものが地域にある。そんな地域の宝物を活用して事業化することができれば、地域の産業としての良いビジネスモデルを作れるのではないか」と小林氏は期待をのぞかせた。
姿を消していく伝統的な工芸品の今後を憂うのではなく、いかにして人々の生活の中に溶け込ませることができるか。「今あるもの」に目を向け、今までになかったアイデアを独自の視点で続々と見出す小林氏のまちづくりへの考え方は、亀田地区にとどまらずどんな場所でも生かせると感じた。
今後も株式会社カメダプラスが率いるまちづくり、そして亀田縞を活用した新たなアイテムの数々にも注目していきたい。
(インタビュー・文 竹内ありす)
【グーグルマップ 亀田いっぴん市場 満開堂】
【店舗情報】
亀田いっぴん市場満開堂
カメダジマストアNIIGATA
住所 新潟市江南区亀田中島2丁目1-5
営業時間 10:00〜18:00(不定休)
TEL 025-311-4111
【関連サイト】
https://www.kameda-plus.com/