【職人経営者特集】新潟県上越市の注目経営者3人をピックアップ シェフの湯沢さん、美容師の市村さん、銅合金鋳造・加工メーカー社長の山本さん
初回掲載日 2024年7月18日
前回、新潟県上越市で活躍する経営者・クリエーター4人の特集が好評だったことを受け、今回の第2弾はフレンチシェフ、美容師、銅合金鋳造・加工メーカーの職人経営者特集とした。それぞれの業界でたくましく生きる「かみえちご」(新潟県上越地方)の経営者たちの声をぜひ聴いてほしい。
レストランメイドの手作りハンバーグで全国紙ランキングの7位に入賞
株式会社シャトー・イグレック(新潟県上越市)の湯沢雅彦代表取締役は、オーナーシェフを務めるフレンチレストラン「金石の音(きんせきのね)」(新潟県上越市)で作る手作りハンバーグがこのほど「日本経済新聞」の独自ランキングで全国7位になり、新潟県上越市のふるさと納税の返礼品として、北は北海道から南は沖縄まで注文が毎日のように舞い込んでいるという。新潟県内では唯一の入賞となった。
父の日ギフトとして全国で22件の飲食店などが対象になり、フライパンを使わないで電子レンジか湯煎でできるものが条件だった。ハンバーグの専門家や高島屋バイヤーなど3人からの推薦の上、フランス料理のシェフや料理評論家など6人が審査した。
「牛肉100%のハンバーグは案外難しい。通常豚肉が半分くらい入り、ジューシー感やしっとり感を出してくれるが、牛肉だけだとボソボソになってしまう。それを解決するために、思いついたのが大豆ミートです。こちらとしては、ほぼステーキを食べている感じと同じにしたいんです」。
価格は5個入り送料込みで5,050円(岩の原赤ワインソース、合わせバター付き)、「金石の音」「リラックス」での店舗受け取りだと、5個入り4,000円(同)。なお、5月30日時点で、ふるさと納税ポータルサイト「ふるぽ」肉部門で同店のハンバーグが全国9位を記録するなど、ブレイクしている。
湯沢代表は「ハンバーグは元々コロナ禍の2020年5月から始めたが、上越市がふるさと納税に力を入れると聞いて、2023年春からくびき牛100%にした。東京などいろいろなところに食べに行ったが、美味しいものはほとんどなかったので、自分で一から作るしかなかった。料理に完成はない。まだまだこれからグレードアップするために、また明日新作を作ります」と意欲を見せていた。
突然の火事でアメリカ留学から帰国、美容師の道で気づいた「仕事の本質」
新潟県上越市内で美容室などを複数経営する有限会社いちむら(新潟県上越市)の市村浩徳代表取締役社長は、新潟県上越市内の公立進学校を卒業後、大学留学のため単身渡米した。
「中学、高校で英語が得意で、高校に在籍していた外国人教師に相談したところ、『アメリカに行ってみれば』と言われ興味を持ちました。TOEFLの得点も取れ、シカゴの近くのカナダとの国境近くの街の大学に入りました」。
英語漬けだが、楽しいキャンパスライフを送っていた市村社長のもとに、突如バッドニュースの連絡が入る。上越市にある実家がもらい火事でほぼ全焼してしまったのだ。「瞬間的に、ここには居れないなと悟りました」。実家は先代が理容店と美容室を経営していた。市村社長はすでに高校時代に通信教育で念の為、美容師の受験資格をとっていたため、やむなく帰国した市村社長は試験に合格し、美容師として働くことになった。
「本当はアメリカで報道の仕事に就きたかった。毎日、なんで俺はこんな仕事をしているのか?明日父親に辞めると言おうと思っていた。しかし朝になると、まただらだら仕事をしてしまう。そんなことが何年も続いていました。そんな時です。あることに気づかされたのは」。
当時店長だった市村社長は若手女性美容師のはつらつとした仕事ぶりを見て、ふと我に帰る。「俺はこんなふて腐れていていいのか」。
「その時思ったんです。仕事は一皮剥けば全部一緒なんだなって。仕事に貴賎はない。価値提供して対価をいただき、成長していくんだと。その時から目の前の仕事に集中するんだというふうに思えるようになりました」
現在は自ら美容師としても店に立ちつつ、美容室やアイラッシュ・ネイル店などの複数店舗の経営を司る。「大学はまだ籍はあるんですよ。いつかまた行くかもしれないな」と市村社長は最後に笑顔を見せた。
先進的な取り組みで経産省の「DXセレクション2024」に選出された企業、産学官金の連携の連携深める
銅合金鋳造・加工メーカーのJマテ.カッパープロダクツ株式会社(新潟県上越市)はこのほど、経済産業省主催の「DX セレクション 2024」において、優良事例に選定され、今年3月に経済産業省講堂にて授賞式が開催された。株式会社第四北越銀行(新潟県新潟市)の推薦を受けて、選定へとつながった。DXとはデジタルトランスフォーメーションの略称で、デジタルテクノロジーを使用して、ビジネスプロセス・企業文化 ・顧客体験を新たに創造あるいは変革、刷新 することで、変化するビジネス環境や市場の要求に応えるプロセスのこと。
経済産業省の「DX セレクション」とは、DXで成果を残している中堅・中小企業等のモデルケースとなる優良事例を選定するもので、地域あるいは業種内での横展開を図り、中堅・中小企業などにおけるDX推進ならびに各地域での取り組みの活性化につなげていくことを目的としている。
Jマテ.カッパープロダクツは、地方での労働生産人口減少に対する危機感から、地方間連携の強化による新しい DX モデルを模索。企業に加え、大学、高専、行政に金融を加えた産学官金の連携を深めることで、外部の知見やリソースを活用しDX推進の加速を図ってきた。
DXを進める上での苦労や行った工夫について、同社の山本耕治社長は、「地元に進出したINSIGHT LAB株式会社、県内のDXに積極的な地域企業との連携強化にて、知見の共有や専門性の補完を積極的に行った。まずDXとなる全体設計を行い、業務を改善し最後にシステムの導入を行った後に効果を検証、最後はトップダウンによる意思決定でDX推進を進めた。地域内でのデジタル技術の活用と地域資源の最適利用を推進する地産地消のDXとして地元に考えを還元していく取り組みを進めた」と語る。
DXを進めたことによる具体的な変化については、「企業知名度の向上に加えて、社内ではRPA(事業プロセス自動化技術の一種)に対する理解や社内外の情報共有ができた。見学やセミナーが増え、地域のDXに対する理解の促進や意見交換など産学官金の協力関係が構築された。RPAによる業務の自動化、製造予測AI、現場のダッシュボードによる見える化によりデータ活用が促進され、小集団による改善活動、業務効率化の実現、作業効率の向上につながった」と話す。
DXへの取り組み を振り返って山本社長は、「プロジェクトは各部署選出で総勢24名にて活発な意見を出し、上越市や新潟県のセミナー講演による社外や地域での発表機会も増えた。社員の教育や育成を継続的に行い、DX推進の理解を深め、技術の進化に合わせたスキルアップが不可欠であり、社外の知見や技術を積極的に取り入れる風土が構築された」と述べた。
また、これからDXに取り組もうとする企業に対しては、「小さく始めて徐々に拡大していくアプローチが重要。経営のトップダウンと推進者のボトムアップの両面が必要であり、外部の知見、技術を積極的に活用していくことが重要であり、今後現場が少ない人員でも同じ仕事ができるような戦略的投資が欠かせないでしょう」と話していた。
第2弾は、職人経営者をクローズアップした。第3弾は果たしてどうなるのか。新潟県上越市出身の記者として、今後も「かみえちご」で活躍する人々に焦点を当てた記事を書いていきたいと思う。
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(文・撮影 梅川康輝)