【新連載 Biz Search#1】社員の能力最大化によって、米菓業界に新風を吹き込むアジカル株式会社 PART2

アジカル株式会社・西山徹社長

 

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【新連載 Biz Search#1】社員の能力最大化によって、米菓業界に新風を吹き込むアジカル株式会社 PART1

◆持続可能な成長を支える「一品一担当制」

企画という名の「苗」を植え、幾多の営業交渉を経て、商品化が決まる。商品の体裁が整い、流通に乗り、ようやく店頭に置かれる。

一品一担当制は、この一切をプロデューサーとして一社員が行うということだ。

当然であるが、膨大な期間と労力をかけて生み出した商品、クライアント、お客様に対しての愛着とこだわりは、分業制に比べて増大する。また主体性と責任感はプロデュースするうえで必須スキルとなる。この一品一担当制と分業制の「差分」が、”アジカルスピリット”の一部分となっていることが見えてきた。

 

西山社長は、「アジカルの社風は(親会社のような)大手企業とは違う、独自のDNAだ」と断言する。

大手企業は、大手企業のメリットと速度と手法、仕事の順序があっていい。それらのガイドをアジカルにも引用するのか、しないのか。その選択も、結果自社の特異性につながった。既に定着したDNAに対して西山社長は、社員との対話を重ねることで、さらにブレやグラデーションを抑える。

社長と社員の定期的な座談会は、現在「中期経営計画」がテーマになっている。これもまた固いテーマだと感じる社員の多い組織体と、これこそが会社や自分の未来であると解釈して、率先して参加する社員の多い組織体とに分かれるのかもしれない。

8人程度のグループに分け、それぞれのグループと50回も対話を繰り返す。最初のうちは「聞いているだけ」のようなディフェンシブ姿勢のメンバーもいたようだが、間もなくしてディスカッションは活性し、「未来のあるべき姿」に対しての意見が役職や在職年数など関係なく飛び交う。

バイアスや忖度で表面を覆った報告ではなく、現場が、現場の責任感を背負いながら発する生の声を聴くことで、DNAの標準化をはかっている。

宝塚歌劇団の公演会場で限定販売されたハッピーターン

のちに成功したベンチャー企業の創業者の言葉だが、「創業当時、明日どうなるかもわからない当社に優秀な社員が入ってくるはずがない。優秀とは言えない社員を、いかにして当社で活躍できる人材に伸ばすかが、マネジメントの役割の1つだ」と語るインタビューを思い出した。

アジカルとベンチャー創業期を横並びで比較できるはずもないし、アジカルの社員はみな優秀なのであるが、社員を社内で活躍させるミッションが企業側にあると意識している点で2社は共通する。

一人一人が担当する商品の企画から開発、営業まで一貫して行う体制を整え、社内フローや会議体での承認はあるものの、社員は自らのアイデアを直接製品化し、市場に送り出す。与えた役割が大きいからこそ、対話の量と質を担保しているのだ。

◆地域社会と共に成長する企業文化

アジカルにおいては、社員の成長にも好影響し、売上も拡大しているのだから、この「一品一担当制」が奏功していると結論付けていい。

その1つ、2024年3月27日、新しく誕生した駅ビル・CoCoLo新潟で開業した『HAPPY SHOP』も順調だ。

新しい新潟駅ビルCoCoLo新潟駅に入った、アジカル初の路面店「HAPPY SHOP」

 

CoCoLo新潟にオープンしたHAPPY SHOPで大人気の「ハッピーターン ソフトクリーム」

『HAPPY SHOP』のプロジェクトは、親会社から託されたのだという。当初は、やや弱気な西山社長であった。しかし、冷静になってみれば「これは得意分野であった」と振り返る。

大阪の「阪急ハッピーターンズ」、東京駅のキッチン付きアンテナショップ「カメダセイカ」での事例を元に、親会社からサポートを受けて店舗づくりを行う。

加えて自社商品に対してプライドを持ち、”アジカルスピリット”を秘めた社員が、新潟駅という玄関口の店舗を切り盛りすることによってその成功率をさらに上げた。ホームタウンである新潟駅での成功は必然だった。

新潟駅限定商品は多くの乗降客の手に届き、その数に比例して親会社へのシナジーを生み出している。

◆100億の壁もまた、社員のパワーで超えていく

「20代から30代のお客様は、ハッピーターンのことを『おもしろい』『かわいい』と言ってくれるのです。」
そう西山社長は嬉しそうに語る。

ハッピーターンのご当地シリーズ。ベースには「ハッピーパウダー」の味わいを活かし、ご当地味を上から足すのだという

現代における米菓の役割とは何か。お土産とは何かを考えさせられる。

機能的(おなかいっぱい、おいしい)だけではなく、エモーショナルなところを意識して商品を想起し、商品の立ち位置、つまりは存在価値を作り出す。そして商品の絶対的、不動のポジションを確保している。これこそが米菓のポテンシャルを最大化しているという構造なのだろう。

アジカルは、近い将来で売上100億を目指すという。これにより単体で米菓業界の6位(亀田製菓は1位)にランクインする。

そこにはいくつか乗り越えなければならない壁があることは事実で、その1つがやはり「人材」なのである。

「一品一担当制」は、営業力だけでも、商品を創造する企画力だけでも成り立たない。折衝力、MD(merchandising)としての知見、オーナーシップなど多くのスキルが必要だ。

ここに対しては、1つは当然ながら、増員、採用を強化するという方法がある。もう1つは、「いかに効率的に商品を多発するか」という現在の仕組みをバージョンアップするという考え方がある。現在の強みが、将来の強みであるかどうかは誰にもわからない。フレキシブルに仕組みを変えることも、中小企業のスピード感によって成し遂げるのであろう。

アジカル本社は、新潟市江南区(旧亀田町)にある「亀田製菓発祥の地」に置かれている

◆小規模ながら大胆不敵:アジカルのマーケティング戦略

柔軟な経営戦略。迅速な意思決定、社内コミュニケーションの密接さ、そして社員一人ひとりの高い主体性。これらの強みを生かして、エリアや期間限定の商品や少量生産商品など、ニッチな市場に特化することで、確固たる地位を築き上げてきた。そこには、“アジカルスピリット”に誇りを持ち、『「心が動く瞬間」がうまれるお菓子作りをめざす』という理念に基づいて全員が行動できる体制が整っていることが背景にあった。

アジカルとして未着手の地域、未着手のイベント、未着手の商品販売タイミングは無限に考えられる。フレーバーやパッケージデザイン、包装形態を工夫することで「地域限定」「イベント限定」という風にSKU(Stock Keeping Unit)は無制限に増やせる。しかしこれは、「お客様に選ばれれば」の話である。米菓全体の市場は拡大している。次なる挑戦も今日、明日という速さで創出していくスピリットによって、「選ばれる商品」を生み出し続けるに違いない。

社員も、商品も。
アジカルの中では、こうして稲穂は実るのである。

 

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濵畠 太
ビジネス書作家、マーケター、ブランドマネージャー。
東証プライム上場企業4社で広報、プロモーション領域責任者を歴任。2013年より、企業に所属しながらビジネス書の出版、研修講師など社外に活動の場を広げ、現在も複数地方の自治体や中小企業の経営コンサルティングを受託している。

<著書>
『小さくても愛される会社のつくり方』(明日香出版社)
『わさビーフしたたかに笑う。業界3位以下の会社のための商品戦略』(明日香出版社)
『20代でつくる、感性の仕事術』(東急エージェンシー)
『ヒット商品を生み出す最良最短の方法』(こう書房)
『「こち亀」両さんのビジネスをマーケティング的に分析してみた』(総合法令出版)
『倒産寸前だった鎌倉新書はなぜ東証一部上場できたのか』(方丈社)

<Biz Search>
ビジネス書作家・濵畠太が新潟企業の事例研究を通して、新潟ビジネスにおけるトレンドと戦略、地域の課題や未来を発信するレポート。マーケ、ブランド戦略の専門家である同氏が調査員となって、新潟企業のトップを訪問、地方発のイノベーションに斬り込む。

ディレクション 伊藤 ナヲキ

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