【採用のツボ】人材を見極め惹きつけるための極意⑤「良い人を採るための惹きつけ力」 —— オーエンス代表 並木哲彦

前回は「良い人を採るための見究め力」として、「自社にとって良い人」の因子とマッチしているかを見究める方法をお話ししました。今回は見究めた「良い人を採るための惹きつけ力」についてお話しします。

採用面接の現場では応募者を惹きつけようといろんな努力がされています。

・自社の良いところを隅々までアピールする
「年間休日125日。残業なし。ほぼテレワーク」など
・応募者が志望している他社と自社とを比較して自社の優位性を説明する
「A社さんの仕事内容は面白そうですね。当社は給与面ではA社さんより・・・。」
・相手を褒め上げる
「チームを全国大会出場に導いたあなたのリーダーシップはすごいですね!」

残念ながらこのような面接をしても応募者を惹きつけることはできません。

では、どうするか。

1.応募者に向き合う
応募者の話を聞く
2.応募者の本音を聞き出す
1)就職、転職の目的。成し遂げたいこと。課題解決したいこと
2)目的や課題解決したい理由
3)現状とありたい姿とのギャップ
4)ギャップの要因をどの様に考え(分析)しているか
5)ギャップの解消策
6)自社へ応募した動機
7)自社を志望する理由
3.上記1)〜7)に自社がマッチしていることを話す

中途採用現場での例です。

面接官:ご転職活動はいつからですか?

応募者Aさん:4月からです。

面接官:転職に踏み切るきっかけが何かありましたか?

応募者Aさん:現職の前期の振り返りで上司からの一言が納得いかなくて。

面接官:どういうことですか?

応募者Aさん:「やってることが違うんだよなあ」と言われました。
私は今の職場では営業のプレーイングマネージャーとして自部門と自身の目標達成達成に向けて業務推進しています。部門目標は達成できましたが個人目標には届きませんでした。

面接官:営業部門のマネージャーとして部門目標が達成できれば良いのでは?

応募者Aさん:上司は「君はプレーイングマネージャーなので個人目標も達成させろ!」と。
私は新卒者を戦力化できるように育成し、リーダークラスには数字を挙げられるように指導し、中堅社員には管理職になれるようにマネジメントの仕方を教え、部門目標を達成させました。しかし、上司からの評価は芳しくなく、ボーナス査定は前回よりも低かったのです。

面接官:上司の方とAさんが考えるマネージャー像が食い違っていたのですね。

応募者Aさん:そうなんです。私の個人目標は部下の不足を補うものとして位置付けていたので。上司にはこの点を期初に説明したのですが・・・

面接官:なるほど、興味深いです。Aさんは今回の転職で何が叶えられれば良いですか?

応募者Aさん:マネジメントを極められる環境で仕事をすることです。マネジメント力を上げられること、発揮したマネジメントの結果を正しく評価してくれる環境に身を置きたいと思っています。
将来的には経営をしたいと思っています。

面接官:現在の職場では難しいですか?

応募者Aさん:難しいです。売上至上主義の社風なので個人目標の必達が全てです。これは今の上司以外も同様です。
ようやくマネジメントの妙を理解し、成果も見えてきたのでこの力をもっと発揮したいです。

面接官:そのためには転職しかないと?

応募者Aさん:はい。転職一択です。

面接官:なるほど。当社で今回募集している営業部門のマネジャー職に求めることは4つです。
1.部門計画を策定する
2.その計画を達成させる
3.そのために部下を育成する
4.コンプライアンスを守り、部下にも遵守させる
ちなみに部下の育成はどの様になさっていましたか?

応募者Aさん:各人と月次の1on1面談でPDCAを回し、育成していました。

面接官:それで部門目標が達成できたのですね。

応募者Aさん:その通りです。

面接官:当社の募集内容についてはいかがですか?

応募者Aさん:私が考えていた通りの業務内容です。ちなみに営業マネージャーに個人目標はありますか?

面接官:個人目標はありません。部門目標を達成させてくれればO Kです。不足しそうな時は部門でどうするかを考えてもらいます。
今回、当社を受けて頂いた動機は何ですか?

応募者Aさん:募集記事の「人事評価をしっかりと運用しています」に惹かれ、話を聞いてみたいと思いました。従業員20名程度の会社でどのように運用されているのかを知りたかったです。

面接官:運用方法は期初に目標を設定して、月次の1on1面談で社長と部長間、部長とメンバー間でそれぞれPDCAを回しています。
最近はこの方法が定着して、コミュニケーションが円滑になり、社内の雰囲気はとても良いと思っています。
Aさんがなさっていたことと同じですね。

応募者Aさん:はい!こういう環境でマネジメントをしたいんです。
将来的に、頑張れば経営者になれますか?

面接官:もちろんです。技術部門の役員は叩き上げです。彼はプレーヤーとしても一流ですが、部門業績を上げるプロです。人材育成がとても上手です。その点が評価されて役員になりました。

応募者Aさん:私もそうなりたいんです!

面接官:Aさんの向上心は良いですね!1次面接はここまでです。1次面接は通過です。この後、社長との最終面接になりますが、選考を進めますか?

応募者Aさん:お願いします。ぜひ、社長にお会いして経営やマネジメント、人材育成についてお話を伺いたいです。

このようにしてAさんは営業部長としてこの会社に入社されました。
部下育成は率先垂範で「やってみせ 言って聞かせて させてみて 褒めてやらねば 人は動かじ」を実践している様で部下との関係は良好です。

ここでは一言も条件面についての言及はしていません。しかし、本人はものすごく前向きにこの会社を志望し、入社後もモチベーション高く、将来の役員就任を目指して勤務しています。

応募者の本音を聞き出し、その本音に自社の業務や仕事の仕方がマッチしていることを丁寧に説明するだけで応募者を惹きつけることができます。

そのためには募集職種の業務内容や求める成果をはっきりさせることが必要です。多くの言葉を用いなくても自社にとって良い人を惹きつけることは十分可能です。

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今回で全5回のコラム「人材を見極め惹きつけるための極意」は終了です。お付き合いありがとうございました。

お読み頂いた方の採用が成功することを心より祈念いたします。

並木 哲彦(なみき てつひこ)株式会社オーエンス代表取締役。大学卒業後、銀行で法人向け新規開拓営業をする中で企業の人事や人材に関する課題の多さに注目し、2003年に人材コンサルティング会社を起業。起業後5年間は金融・不動産業界に特化した人材紹介業を行い、リーマンショックを機に第2創業として人事・採用コンサルティングに看板を掛け替える。

現在は常時、10社の社外人事部長としてクライアントの人事的課題解決をサポート。人材採用から社内ルールの策定、人事制度の導入、そして中間管理職のスキルアップ支援まで、社長が望むがなかなか実現できない課題を解決しクライアントの事業計画達成をサポートしている。学習院大学 応援団卒。現在、学習院大学応援団OBOG会長を務める。会社名は「企業とヒトの成長を応援するオーエンス」という企業マインドから命名。

【関連サイト】
株式会社オーエンス

シリーズ【採用のツボ】人材を見極め惹きつけるための極意(全5回) ——オーエンス代表 並木哲彦
①「良い人」を定義する
②「良い人を採る」
③「良い人を採るための伝える力」
④「良い人を採るための見究め力」
⑤「良い人を採るための惹きつけ力」

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