【就業継続支援】「諦めたらそこで終わり。誰かが声をあげて変えていかないと」(新潟県長岡市 コロンブ株式会社)
我が国では、障害や難病などのために一般就労が困難な人々に対して、程度や段階に応じて、就労継続支援を行っている。
そのうちの一つが就労継続支援A型といわれるもの。企業等に就労することが困難な人と、直接雇用契約を結んで、その中で一般就労に必要な知識や、能力向上のために必要な訓練、支援を受けることができる制度ある。利用者としては、安定した収入を得ながら、障害や体調に合わせて、自分のペースで働く準備をしたり、就労の経験を積んだりすることができるという利点がある。
長岡市を拠点に、就労継続支援A型事業所として、キッチンカーによる食品の移動販売、雑貨製造・販売などを行っているのが、コロンブ株式会社である。
コロンブとは、フランス語で「ハト」を意味する。ロゴのマークもハトの絵柄を採用し、コロンブの複数形である「コロンブス」という表記にした。
そこには、通所する多くの利用者が、やがて社会へと羽ばたいて言って欲しいという佐々木守代表取締役(36歳)の想いが込められている。「人の才能は、半分も発揮できていない」と佐々木代表は語る。ロゴに描かれているハトの影は、利用者の秘めている才能を見立てている。
そして、今まさに飛び立とうとしているハトの姿は、これから社会へと羽ばたいていこうとする利用者自身のイメージだ。
施設名やキッチンカーにも、「アバウトミー」という独自のブランド名をつけた。
それは、「僕のこと、私について、まず自分自身の可能性を知りたい。そして、その可能性を社会で発揮したい」という利用者の気持ちを代弁している。
「あらゆる人間は、自らの創造性によって社会の幸福に寄与しうる。すなわち、誰でも未来に向けて社会を彫刻しうる(ソーシャル・スカルプチャー)」というのが、同社の基本的な考えだ。
佐々木代表取締役は、長岡市の出身である。気がつけば、学生時代から「貧困問題」に関心があったという。「世の中には何故、貧困があるのか。富による格差があるのか」と物心ついたときからそんなことばかり考えていたという。
そのうちに「人のために行動することによって、変えられることがあるかもしれない」と考えるようになったという。
そんなことから高校時代に、‟学生でもできるボランティア“を提案。当時通っていた学校の校舎に、「無理をしない募金箱」というものを設置し、誰もが無理することなく関わることのできる福祉活動を目指していたという。
佐々木代表取締役のこうした福祉への興味は次第に、ユニセフ活動へと繋がり、そのことから、新潟市内の短期大学では、子どもの福祉や心理学を学び、保育士と幼稚園教諭の資格を取得した。
学校卒業後は、保育関係ではなく、長岡市内の就業支援事業所に就職。以降、障がい者福祉に携わることになるが、そこで障がい者の就業支援に関して、余りにも過酷な現実を目にすることになる。
佐々木代表取締役が事業所に勤務していた当時、障がい者の労働賃金の単価はあまりにも安く、一回の内職で1円にも満たないような時代だったという。そこでまた佐々木代表は使命感に駆られる。
「先進国といわれている日本の福祉の現状を変えたい!」そんな強い想いから、今の会社を創業するに至った。
コロンブ株式会社は、キッチンカーを用いた動くモデルに強いこだわりを持っている。
それは、カフェのようにお客さんが来るのをこちらから待つという業態ではなく、キッチンカーに乗って、利用者自らがお客さんや社会と交わっていく形こそが、「誰でも未来に向けて社会を彫刻しうる」という同社と佐々木代表の理念に沿っているからである。
そうすることによって、お客さんや社会の人たちに、彼らの存在を知ってもらい、人とのご縁が繋がる中で、利用者の次の就職先にも繋がる可能性がある。現在、企業へのキッチンカー営業に力を入れているのもそうした狙いがあるという。
「諦めたらそこで終わり。誰かが声をあげて変えていかないと」と、佐々木代表取締役は語る。その想いが周囲に評価され、2020年の日本青年会議所主催のJCT JAPAN TOYP(青年版国民栄誉賞)では、衆議院議長奨励賞を受賞した。
今後は、「障がい者向けの学校作りにも挑戦したい」という。そこでは、人材を育成するとともに、企業とのマッチングを図る。就業支援事業だけではなく、学べる福祉施設という形態にすることで、より多様な支援と経験の場の提供ができるようになるのではないか、と佐々木代表取締役は考える。
そんな佐々木代表取締役の夢は、早くも実現しそうである。8月には、佐々木代表の理想が詰まった「Be myself college」が新潟市秋葉区にオープンする。
ゆくゆくは「長岡市や新潟市だけではなく、様々な市町村に展開していきたい」と、夢は大きい。
(写真・文 湯本泰隆)