【台湾出身起業家】日本の大学院で観光MBAを取得し、新潟県妙高市の築120年以上の古民家を再生し宿に 蔡紋如(サイ・ウェンル)さん

今年4月にオープンした古民家宿の「MAHORA」

少し想像してみてほしい。もしあなたが異国で国際結婚し、その国の名門大学院を卒業し、起業したとしたら。現実的にはなかなかできることではないだろう。まず言語の問題がある。しかし、それらを実現している人が新潟県妙高市にいる。それが、誠に流暢な日本語を話す台湾出身の蔡紋如(サイ・ウェンル)さんだ。

蔡さんが今年4月にオープンした古民家宿の「MAHORA」は、新潟県妙高市の里山生活を体験できる宿泊施設で、築120年以上の古民家を匠の技術で再生したもの。囲炉裏での炭火焼きや縁側など、日本の文化を感じられる空間を提供している。この宿は、東京本社の大手出版社のオンラインサイトにもインタビューが掲載された。「まほら」とは、「素晴らしい場所」「住みやすいところ」という意味を持つ言葉で、日本に現存する最古の和歌集といわれる「万葉集」から取った言葉だという。現在、子育てと宿経営に奔走する蔡さんに、古民家宿をスタートしたきっかけや、妙高エリアの観光の可能性、将来の目指す方向などを聞いた。

蔡紋如(サイ・ウェンル)さん。Tシャツは出身大学の京都大学仕様(新潟県妙高市の古民家宿「MAHORA」で梅川康輝撮影)

 

ーー母国・台湾から日本への移住のきっかけについて教えてください。

最初に日本に来たきっかけは、2010年のワーキングホリデーです。台湾の大学を卒業したばかりでした。1年間の限定でしたが、アルバイトしながら旅行しました。大学の時に、第二外国語で日本語を勉強していたことや、大学の時に台湾日本学生会議というサークルで日本の大学生と交流がありました。私が卒業した年がちょうど台湾と日本がワーキングホリデーの協定を結んだ年だったので、申請してみようと思いました。

日本語は少し話せるくらいのレベルでした。半年くらいは東京のシェアハウスに住んで、飲食店でウエイターのアルバイトをしていましたが、土日は旅行に行く感じでした。ワーキングホリデーで今の夫(愛知県出身)と出会って、彼がその年に国際自然環境アウトドア専門学校(新潟県妙高市)に入学することになり、それで妙高という場所を教えてもらいました。初めての妙高市は秋から冬の時期で、いもり池や苗名滝などに行きました。

――日本のことはいつから好きでしたか?

高校生の時に村上春樹が好きで、よく彼の小説の翻訳本を読みました。村上春樹は「ノルウェイの森」が好きでしたが、最新作以外はほぼ全て読んでいます。あとは吉本ばななとかいろいろな日本人作家の小説を読みました。それから進学しましたが、うちの大学が結構日本語学科が強かったので、図書館に日本語の本が置いてあり、図書館が好きなのでよく通いました。台湾で放送していた日本のドラマを観たり、独学で勉強したりしました。日本のドラマは字幕のもので、藤木直人さんや綾瀬はるかさんのドラマや宮﨑あおいさんの大河ドラマ「篤姫」などを観ていました。あとは、台湾日本学生会議で日本の学生と知り合ったことも大きく、今でも日本の友達とは連絡をとっていますし、それでワーキングホリデーに行こうと思った理由でもあります。

――妙高市には2014年に移住でしたね。

2014年に結婚するために妙高市に来ました。妙高に来る前にどんな仕事ができるかを調べました。たまたまFacebookで見た妙高観光協会のページにメッセージを送って当時の担当者と話したところ、今後台湾や香港でインバウンドを増やしたいということでした。ちょうどその前に観光に興味があったので、独学で旅行業務取扱管理者を取得していました。妙高市の入村明前市長と台湾へのトップセールスへ通訳として行き、2015年の4月から妙高観光協会に入りました。最初の仕事は農家民泊の推進を担当し、農家の人たちと友達になりました。

夫は2015年9月ころに妙高市矢代地区に引っ越しして、田んぼを借りて稲作を始めました。毎年田んぼが徐々に増えていき、現在8ヘクタールをやっています。3、4年前に乾燥施設を建て、去年農業と観光の会社を共同代表で設立しました。

この宿のウリにもなっている囲炉裏コーナー

この部屋には縁側もある

馬小屋を改装した図書コーナーには新潟県上越市出身の画家、富岡惣一郎の画集も

ーー古民家宿スタートのきっかけは?

最初は農家民泊のイメージで、自分で住みながらやる感じだったが、空き家だと水回りなどすぐに住めない物件が多く、やりたいと思ってはいましたが、行動できていませんでした。空き家バンクを見るのが趣味でしたが、2022年に空き家バンクで知人の物件を見つけ、直接電話して見せてもらい、すぐに宿用として今の物件を買いました。金額はそれほど高くはありませんでしたが、水回りを中心にリフォームするのにお金がかかりました。京都大学経営管理大学院の在学中に見つけた物件ですが、経営管理の知識を活かすために古民家を経営したいと思ったのも開業の動機です。ある意味では、古民家「MAHORA」は大学院の卒業作品みたいなものです。

ーー京都大学の大学院はいつ行かれたのですか?

2022年に入学して2年制なので、今年の3月に卒業しました。妙高と京都で2拠点生活でした。コロナ禍でインバウンドの仕事がなくなり、国内にシフトしていましたが、日本政府の観光的な政策も高度な人材を求めていました。外部の専門家も大事だが、地域内で人材を育てないといけないと思い、上越起業塾に通ったり、全国通訳案内士などいろいろな資格を取得しましたが、物足りなく、もっと体系的に勉強したいと思い、観光MBAがあったので社会人枠で大学院に入学しました。大学と大学院は違いますが、大学院は多様性のある自由な場所です。社会人の大学でいろいろと勉強し直したので、大事な2年間でした。経営管理を学んだので、基礎科目は会計、経営戦略、マーケティング、ファイナンスなどで専門科目では観光系の授業もありました。

ーーそして、2024年4月に古民家をオープンしました。

今年7月から展示会、囲炉裏でのミートアップ、シェアキッチンの活用で忙しくなりました。お盆の時期は県外からのお客さんが入りました。意外なのは青森のかたでしたが、多いのは東京や神奈川です。使い方は一棟貸しなので、お客さんが自分で楽しみ方を考えてもらいたいです。焚き火とか薪割りなども田舎体験も準備してあります。理想としては、もっと体験コンテンツを充実させたいです。インバウンドは、冬にスキーで長期滞在を期待しています。ホームページや囲炉裏の使い方の英語、中国語のチラシも作って置いています。

ーーところで、妙高の観光の可能性についてどう考えますか?

うちは小さい宿なので、グリーンシーズンだとロッテアライリゾートのツリーアドベンチャーや、万内川砂防公園をうちのお客さんに紹介するなど、積極的に周りのコンテンツを案内していますね。妙高は住みやすいところで、宿が多いのが強みです。「MAHORA」は地元の飲食店からケータリングができます。元々最初のコンセプトからいかに地域全体が潤うかを考えているので、全部自分のところでやるのではなく、みんなそれぞれ強みがあるし、いろいろな人と連携して協力してやっていくというのがうちのスタンスです。

ーー最後に蔡さんの目指す方向性を教えて下さい。

長期的なスパンでは、一棟だけでは終わらせたくないので、このエリアで増やしていけたらしいいし、このエリアでうまくいけたら別のエリアでも展開したいです。オペレーションとか起業したい若者がいればサポートして一緒に運営したりしたいです。理想的には、このエリアでも最低3棟くらいほしいし、移住してきた若い人と一緒に運営していきたい。最初に「MAHORA」という名前を作った時にこれはブランド名であり、「MAHORA」〇〇というふうにしたいと思って作ったんです。私がゼロから古民家宿を立ち上げたノウハウを提供してもいいし、起業塾のようなものをやってみたいとも考えています。

 

村上春樹や吉本ばなななど日本文化が好きで日本に渡り、観光MBA取得の後、古民家宿を起業した蔡さん。台湾出身のママさん経営者は明晰な頭脳のみならず、持ち前の笑顔とバイタリティーで人口減少という課題に向き合いながら、今日も古民家宿の経営という側面から地域課題の解決に取り組んでいる。

 

(文・梅川康輝)

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