【Biz Search#2】町工場から世界へ。ツインバード・匠の技と感動をもたらす顧客主導の商品革命<PART2>
【Biz Search#2】町工場から世界へ。ツインバード・匠の技と感動をもたらす顧客主導の商品革命 <PART1>
◆「少品種高利益モデル」の実現
リブランディングとは、価値向上のための再構築である。それはつまり「顧客を選ぶ」という一面がある。
かつて600ほど商品ラインナップがあったというが、多数の商品があることがメリットや強みではない。商品点数を大胆に削減し、その代わりにターゲットをマイプロダクト探求志向(じっくり選んで良い物を大事に使っていきたい)へと明確に絞り、絞った顧客に「選ばれる商品」を2つのブランドラインで狙っていく。「少品種高利益モデル」の実現である。
販売数は減るものの、消費者の選ぶ基準に寄り添っているため、単価は上がる。これはある意味で自社の存在価値(『自社とは、消費者にとって何なのか。』)への解でもある。
「どれでもいい」といった気持ちで購入された「自然流入」と、「これが欲しい」と購入された企業側の「努力流入」は、同じ一商品の売上でも質が違う。「努力流入」の量こそが、自社の存在価値の量という見方もできる。
◆知名度・認知度を目指すとブランディングは失敗する
広告費を増やせば知名度は比例して上げられる。しかし、それでは好意度はUPしない。広告はドーピングのように一時的にブランドの認知を押し上げる。ただし、体力・筋力・技術力のつかないままに薬は切れる。
知名度はその先の目的に到達するための前段の1つとして欲しいのであって、中長期的に見て価値があるのは「好意度」だ。
多くの中小企業のコンサルをしてきたが、ブランド戦略は、ここで誤っている場合がある。
長きにわたる会社経営によって、お客様とのコミュニケーションが最適化されないという累積課題が浮き彫りになる。
するとブランディングへの投資が視野に入る。ロゴが統一されたり、伝えたいことを一本化したりとコミュニケーションをコントロールしようとするが、そのこと自体によって経営メリットが生み出せるかどうかは不透明だ。それはブランドの「整理」に過ぎない。もちろん統一・整理が目的という場合もあるのだが、ブランドの「整理」とブランドの「戦略」は、目指すゴールも業績への寄与度も大きく異なるという点は確認しておきたい。
◆顧客に寄り添い、商品を昇華させる
ところで、私を含め消費者というのは、いつもわがままだ。商品・サービスに対してなかなか満足に至らない。
家電はコモディティ化し「当たり前の存在」となった。2011年、野水重明社長がバトンを受けたときには既に、技術はコモディティ化し、国内メーカーの商品は一定のレベルに至っていて競争力・差別化がしにくい状態にあった。加えてこの頃、1998年から日本での販売開始をしたダイソン、ティファールなどといった特徴的な黒船家電が“選ばれる商品”になりはじめ、競争をさらに激化していた。
かといって家電に対する不満は減らない。消費者の求めるレベルが上がり続け、ダイバーシティを推奨する現代において、求められるものは多様化するばかりである。顧客の声に耳を傾けたところで、はじめから想像できるようなマイナスワードがほとんどである。たとえば、「好きな色が無かった」「音がうるさい」「小さすぎる」「大きすぎる」などがそれだ。
では、ツインバードはどのようにして顧客の声を聴いているのか。
まず、カスタマーサービスを内製しているという。「コールセンター」に届くあらゆる声を社員が受け蓄積・分析し、改善のヒントや鉱脈を掴み取る。
ときには家電量販店に「実演体験コーナー」を設けるなど、消費者の声を商品開発にフィードバックするために、全社員が売り場に立ち、一対の鳥の一羽になりうる来店者のリアルを五感で察知する。口コミや販路からのリクエストなども蓄積され、その総量が増えるにつれて解像度が高まっていく。
そして、意見の蓄積や分析がトップに届くまでの仕組みができている。
◆消費者は消費のプロであるが、経営や商品開発のプロではない
顧客を「ペルソナ」という架空の集合体にしてしまうわけではない。それは企業側のマーケティングメリットがあるかもしれないが、顧客の声を商品に還元するというミッションにおいては無意味な戦術だ。
あらゆる意見に対して聞く耳を持ち、そこから何を拾うか、何を糸口にしていくかは経営のプロ、商品開発のプロとしての責任・判断である。消費者は消費のプロであるが、経営や商品開発のプロではない。
それでも、「予想より売れない」「思っていた反応と違う」ということはある。
想像するに、その理由は「価格」「ターゲットアンマッチ」「伝わらない」「景気などの外部要因」あたりだろうか。
売れないとすぐに改良を模索する。その改良の糸口もまた、顧客の声である。
ニーズが多様化しても、2つのブランドラインがあるから寄り添うべきところは明確だ。そこに情緒価値を生み出す可能性のある声を探し求め、蓄積し、反映していく。
ツインバードの商品開発には、迅速に顧客のフィードバックを反映させる「アジャイル型開発」の手法も取り入れられている。短いサイクルで試作やテストを繰り返し、常に変化する市場のニーズに柔軟に対応できる体制を築いている。アジャイル型のプロセスが、ツインバードの競争力を高め、顧客により価値の高い商品を提供し続ける原動力となっていることがわかる。
◆変化する時代に対応するツインバードのブランディング哲学
顧客に問い直しているのは、「自社の在り方」だ。それを問おうとするとき、逆の視点で見れば「顧客を知り尽くす」ための十分な努力が必要となる。
野水社長は、「経営とは環境適応業である」「今の時代に必要とされるものを生み出し、そして感動領域へ持っていく。」とも語った。
絶えず変転する世の中に対応していくという意味だろう。企業としての原理原則は変えないにしても、「変えていいもの」「変えてはならないもの」はある。「変えていいもの」を変えずに固執していると、ビジネスは間もなくしてシュリンクする。変えていいものの1つが「商品」そのものだ。
ツインバードのブランディングから学べることは、まず顧客との強い関係性を築くことにある。顧客の声を取り入れながら迅速に対応することが、競争の激しい市場で成功を収めるための鍵だ。
「エッセンシャル思考」も重要な役割を果たしている。本当に必要なものに集中し、余計な要素を排除することで、よりシンプルで効果的な商品を生み出す。この考え方により、ツインバードは顧客にとって価値のある要素だけを追求し、提供している。
◆まだ続く「足す・引く・磨く」のブランディング
メッキ加工の下請け工場として創業し、まもなくしてラジオや懐中電灯など、難易度の低い商品から参入し、メーカーへと事業を進めた。1984年には家電事業が本格的にスタートした。今思えば、これらも英断が実を結んだ経営の成功事例だ。
ブランディング元年(2014年)から10年が経過した。
野水社長は、商品軸から見たブランディングの本質は「足す・引く・磨く」であると、社内で使っているというキャッチーな一言を最後に教えてくれた。そして自社のブランディングについて「現時点での総括はできない」として、こう続ける。
『まずは切り分けた2ブランドラインのラインナップを増やしていく。「匠プレミアム」は海外へ持っていく。「感動シンプル」は小売店での販売戦略をさらに強くする。』
そう、ブランディングというのは、常に途中段階なのである。ツインバードのブランド価値ははるか先まで伸び代が想像できる。
1980年代、日本企業の飛躍は目覚ましかった。欧米が追い付けなかったこの時代を、いま、欧米の企業が当時の日本企業の飛躍原因を研究している。研究は半ばであるが、1つの原因として、「従業員同士のつながり(団結力)がパワーを生み出している」が浮かび上がったという。昭和が令和になったからといって、組織全体としての生産性や持続可能な成長を促進する原動力が「人材」であることに変わりはない。
従業員、そして顧客までもが一丸となって取り組む文化は、外部の競争環境が厳しくとも、企業が顕著な成果を出すためのエンジンになりうるのかもしれない。
燕市役所で読んだ「市民憲章」に、「世界と未来に向かって限りなく羽ばたくまち」とあった。
ツインバードの軌跡は、一対の鳥が変容の激しい時代を未来へ向かい力強く飛翔する姿そのものだった。逆風が強まるたびに羽ばたきが増し、遂にはその羽で青空を切り裂き、自由な空を舞う。しかし、これはまだ途中段階の姿にすぎず、さらに高みを目指し、新たな挑戦へと向かう。
ブレずに、全社一丸となって誠実に羽ばたく一対の鳥“ツインバード”は、光沢を増してなお飛び続ける。
濵畠 太
ビジネス書作家、マーケター、ブランドマネージャー。
東証プライム上場企業4社で広報、プロモーション領域責任者を歴任。2013年より、企業に所属しながらビジネス書の出版、研修講師など社外に活動の場を広げ、現在も複数地方の自治体や中小企業の経営コンサルティングを受託している。
<著書>
『小さくても愛される会社のつくり方』(明日香出版社)
『わさビーフしたたかに笑う。業界3位以下の会社のための商品戦略』(明日香出版社)
『20代でつくる、感性の仕事術』(東急エージェンシー)
『ヒット商品を生み出す最良最短の方法』(こう書房)
『「こち亀」両さんのビジネスをマーケティング的に分析してみた』(総合法令出版)
『倒産寸前だった鎌倉新書はなぜ東証一部上場できたのか』(方丈社)
<Biz Search>
ビジネス書作家・濵畠太が新潟企業の事例研究を通して、新潟ビジネスにおけるトレンドと戦略、地域の課題や未来を発信するレポート。マーケ、ブランド戦略の専門家である同氏が調査員となって、新潟企業のトップを訪問、地方発のイノベーションに斬り込む。
ディレクション 伊藤 ナヲキ
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