【劇団で地域活性化】新潟県上越市で劇団座長を務めるマルまるやまさん 「演劇は自分の人生そのもの」

「悪役商会」や三宅裕司主宰のスーパーエキセントリックシアターにも在籍していたマルまるやま

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初回掲載:2024年11月11日(再掲載:11月24日)

アングラ演劇の始祖で芥川賞作家でもある唐十郎が今年5月4日、84年の生涯を閉じた。今の読者には俳優の大鶴義丹のお父さんと言ったほうが早いかもしれない。マルまるやまはちょうどその日、弾丸観劇ツアーで東京にいた。「新宿に寄ったので、テント芝居の聖地・花園神社へふと足が向き、お参りに行った。そしてその日に亡くなった。命日当日にお参りさせてもらったことに、正直何となく唐さんに小さい努力を認めてもらったような誇らしい気持ちになった」。

 

新潟県妙高市出身の劇作家・清水邦夫

新潟県妙高市出身の劇作家、清水邦夫作の舞台「楽屋」をマルまるやまの演出で今年上演した

「わたしは……かもめ。いいえ、そうじゃない、わたしは女優。そ、そうよ!」

新潟県妙高市出身の劇作家、清水邦夫(2021年没)の名作「楽屋」の女優のセリフだ。演劇「楽屋」は日本国内で最も上演数が多い名作中の名作と言われている。清水邦夫と言えば、盟友・蜷川幸雄とともに日本の演劇界の一世を風靡した人物だが、地元上越地域や新潟県では意外と知られていない。しかも受賞は逃したが、3回も芥川賞の候補になっているのだ。マルまるやまは二度清水邦夫に会ったことがある。20年以上前の旧新井文化ホール主催の「清水邦夫とあなたと創る演劇祭」での懇親会でお酌に回った。「相手にされなかったけどね」と苦笑する。

劇作家つかこうへい。「蒲田行進曲」や「熱海殺人事件」で有名だが、演劇界では「つか以前」と「つか以後」という言葉もあるほど、影響を与えた人物だ。マルまるやまは次回新作に「熱海殺人事件」「売春捜査官」の主演と演出を務める。「つか芝居の圧倒的な熱量を上越高田に落としたい。演劇界の芥川賞と言われる岸田國士戯曲賞をつかさんが1973年に清水さんと同時受賞している。いつか、清水とつかの受賞作品『僕らが非情の大河をくだる時』と『熱海殺人事件』を同じ日に一挙上映し、1973年が産み出した天才作家の美しい台詞群を自分たちの手で演じ分けてみたい」と夢を語る。

上越ガテンボーイズは2000年旗揚げ。男性はガテンボーイズ、女性はタカダshow劇場と所属を区分けしているが、今は一緒にやることが多い。そんな劇団から今年東京のプロダクションに入った若者がいる。石田智輝だ。マルまるやまは言う。「中学2年でうちに入った時から、将来プロになると言っていた」。上越生え抜きの俳優として大活躍していく日が必ず訪れると信じて、目を細めている。

 

三宅裕司主宰の劇団へ入部

マルまるやまは、専門学校進学のために上京し、18歳で劇団ひまわりに入った。「たまたま、ひまわりの看板を見て。昔から目立ちたがり屋で、人前に出ることが好きだった」と笑うが、「悪役商会」や三宅裕司主宰のスーパーエキセントリックシアターにも在籍していたほどだ。「スーパーエキセントリックシアターの昇格試験で落選、泣く泣く上越にUターンした。若手大先輩にはブレイク直前の岸谷五郎さんや寺脇康文さんが僕たち3期研究生をとてもカッコよく激励してくれた姿が今でも瞼に焼き付いている」。

倉本聰脚本の「北の国から」が好きで、主演の故田中邦衛のファンを公言するマルまるやま。10年くらい前だが、全国ネットのドラマに出たこともある。テレビ朝日系列の松本清張ドラマ「坂道の家」で、糸魚川の警官役のエキストラだったが、映画「君の膵臓を食べたい」でブレイクする直前の中学生の頃の浜辺美波と共演した。浜辺は2023年にNHK連続テレビ小説「らんまん」にも出演するほどの売れっ子となっている。

 

「あなたにとって、演劇とは」

 

小劇場MGPでの稽古風景。ところどころにマルまるやまの熱血指導が入る

「客席と30㎝で見られる演劇をやりたい。東京にも負けない演劇を作りたい」と語るマルまるやま。「大上段には構えない。自分の肉体を通じて、作品を通じて伝えたいこと伝える。高田の人間でないと、雪国の人間でしかわからない滲みた味や人情、優しさ、方言がある。高田瞽女と呼ばれる重要無形文化財にも地元で俳優やっている限り、目を背けてはいけないと感じている。歳を重ねるごとに盲目であった女旅芸人の生きざまが胸に染みてくる」と語る。

「あなたにとって、演劇とは」と質問した。それにマルまるやまはこう答えた。

「演劇は自分の人生そのもの。日本最古の映画館・高田世界館はもともとは芝居小屋だったが、29歳の時に初めて世界館に入ったときに衝撃を受けた。『俺はホントは日活ロマンポルノを上演したいわけではないんだよ。ホントは名作映画や名作演劇をやってほしいんだ』という悲鳴が舞台から聞こえてきた感じがした。絶対にこの小屋で、100余年前の高田の俳優の英霊の前で、演劇を復活させてみせると誓った。2011年5月にはじめて演劇をやった。まさに100年前の世界館の怪人となられた方々が天井から観てくれていて、『まるやま頼むぞ!』と言われた。独特のおごそかな雰囲気があり、やる気がいつもより増す」。

劇団の将来像についてはこう語る。

「演劇の街・下北沢の本多さんに憧れ始めた小劇場創りもMGPで3つ目の経験を積んでいる。いつか本町通りにも作りたい。うちは、十日町や糸魚川、柏崎、新潟市でもやっているが、ホームでやっているだけなら楽だが、アウェイでやった方が劇団筋力は圧倒的に伸びる。時間はかかるが、いつか首都圏でもやってみたい」と。

 

11月17日から「贋作・太陽にほえろ」の上演

11月17日から、昭和の刑事ドラマの金字塔と言われる「太陽にほえろ」をオマージュし、脚本をマルまるやまが書いた「贋作・太陽にほえろ」の上演がMGP、高田世界館、高田小町、妙高と柏崎の演劇フェスで始まる。

上越市では貴重な存在の劇団であり、その座長であるマルまるやま。地域活性化や交流人口拡大にはいろいろな手段があるとは思うが、ぜひ「劇団」というツールで上越市を盛り上げていってもらいたいものである。

屋根の上で白塗りで一人芝居するマルまるやま

 

(敬称略)

(文・撮影 梅川康輝)

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