【上越特集第3弾】新潟県上越市内に本社を置く注目経営者たちにズバリ経営戦略を聞く!

上越特集第3弾

今年6月に第1回目の上越地域の経営者&クリエーター特集を掲載し、7月の第2回目の職人経営者特集も好評だったことを受け、今回第3回目の特集を組むこととなった。今回も新潟県上越市内に本社を置く、ヤリ手経営者たちに農業の差別化戦略やM&Aによる拡大戦略、シンガポールにおける海外戦略などを聞いた。「静かなる危機」とも言われる人口減少の波が押し寄せる中、この記事を読めば、新潟県第3の都市・上越市もどっこい負けていないと納得いただけるだろう。

 

イタリア産米、かに殻と米ぬか肥料の米を栽培する花の米

株式会社花の米の黒川義治代表取締役

まずは、イタリア産カルナローリ米なども栽培し、全国ネットにも出演した経験を持つ米農家の株式会社花の米(まい)の黒川義治代表取締役にご登場いただこう。

イタリア産カルナローリ米の栽培は、新潟県内でも珍しく、全国でも石川県など数件しかないという。イタリア産カルナローリ米「RISO」は、刈り取り後、乾燥機で2日間乾燥させ、その後4°C冷蔵庫で1年以上熱成させる。この熟成により米が硬化、でんぷん質が糖化し、米本来の旨味が増すと同時に煮崩れしづらく、米に水分を含みやすいリゾットに最適な米となるのだ。「RISO」の栽培はわずか一握りの玄米から始まった。毎年5月に田植えをし、9月上旬に稲刈りを行う頃には約150cm(コシヒカリの背丈の約1.5倍)にもなる。普通の米は1反で約8俵だが、イタリア米は1反で約3 俵から4俵しかとれず、希少価値が高い。

一方、かにの甲羅を肥料にした米も栽培している。「越後かに米こしひかり」は、かに殻と米ぬかで作られた肥料のみで育てられ、化学肥料などの人工的な肥料は一切使用していない。薬の使用も田植え初期に除草剤を一度使用するだけで、その他の殺菌剤や殺虫剤などはまったく使わない。通常より80%以上削減した減農薬栽培のため、安全で安心して食べることができる。

自宅倉庫にある大量の新米

同社は、一般的な農法よりも手間のかかる「への字農法」を採用している。一般的な農法は、人間の都合に合わせ効率重視で生産しているが、これは稲にとって負担の大きい農法と言える。それに対して「への字農法」は、稲が本来持っている成長曲線に合わせて肥料を与え、成長したい時にそれを助けてあげる育て方なので、とても手間がかかる農法だが、稲に余計な負担をかけずストレスなく元気で丈夫に育ち、おいしい米がとれるようになるという。

黒川代表の徹底したこだわりと独自の栽培方法が美味しいお米につながっている。

 

 

 M&Aによる新たなジャンルへの挑戦~美容室グループみょんみょん~

みょんみょんグループの宮村竜士代表取締役

次に登場してもらうのは、新潟県内のほか、長野県や富山県、東京都、埼玉県で111店舗を展開する美容室みょんみょんグループ。名古屋出身の同グループ宮村竜士代表取締役がコロナ禍にM&Aで買収した。

「常々新しいジャンルへの挑戦を考え、とりわけ興味を惹かれるサービス業界への進出を目論んでいる中でM &Aの話が来て、もともと興味をひかれていた美容業ということ、数多ある美容室の中で時代を先どった面白いビジネスモデルであったことから、新事業へのチャレンジとして事業買収を決めた。現在も建設業経営者であり、以前は考えてもみなかった美容室の経営だが、サービス業という新たな分野での経営に挑戦すること、そして『美への意識は永遠』ということをテーマにさらなる事業拡大を目標にして、事業を展開していきたいと考えている。」(宮村代表)。

日本の企業が成熟化していく中で、今後の企業存続に後継者問題はつきものとしてM&Aがトレンド化しつつある今日、M&A案件については常に高いアンテナを張り巡らせてきた。案件の中で特に興味をもって進んできたみょんみょんグループの買収案件であったが、上越市の存在も知らず、初めての面談で降り立った3月はどんよりとした雲のなか、「外に人がひとりも歩いていない、人が住んいるのか?という不安がよぎった」と苦笑する。

「会社を買った時はコロナ禍で赤字。この美容室はお客さんの年齢層が高めで50代から70代女性で元気な方が多いが、やはり外出制限などコロナの影響は大きく、この美容室を懇意にしていただいているお客様からの来店が上向いてくるまで我慢の経営だった。広告宣伝費の大幅なカットやその他経費の削減にまずは尽力した」。

その反面、スタッフの給与を上げるなど待遇の改善に還元した。スタッフの力がすべて、こんな時こそスタッフと力を合わせて会社をよくしていこうという考えのもとで、上越市を含めた新潟、長野、富山、埼玉、東京で全社に在籍する約300人の従業員に声をかけ、ちょうど会社設立40周年を機に真ん中の長野県でパーティーを開催した。200人以上が参加し、店舗の業績表彰をしたり、大いに盛り上がった。従業員に向き合う姿勢を示すこともでき従業員同士の結束も高まった。

アトリエみょんみょん(上越市木田)の店内

「自分が髪が切れるわけではないが、この会社で、従業員みんなが美容師としてプライドを持ち、気持ちよく働いてもらうという環境を作りたい」。労働環境の改善や働き方改革を着実に実行した結果、M&Aから3年で「みょんみょん」を黒字化することができた。

「11月には千葉の美容室を買収し、同業界ではあるが客層やブランドなど異なる事業展開でありシナジー効果を狙う。M&A から4年目、毎週通っている上越で地域貢献やイベントなどをやっていきたい。私が名古屋出身なので、いずれ名古屋に出店していきたい」と語る宮村代表。上越市では数少ない拡大志向の企業であり、今後も同社の動向に注目していきたい。

 

 

富寿しグループのシンガポール戦略

ノベナ店エントランス

資源もなく、国土も狭い。建国から59年でここまで成長したのは東南アジアでも別格と言われるシンガポール。1人あたりのGDPも高く、ここ数年は中国化が著しい香港からの移住が増え、人口が600万人と増えて続けている。お隣長野県地盤の八十二銀行も香港支店を閉鎖し、シンガポール支店を出したという。

そんなシンガポールに2010年に第1号店を出店し、現在5店舗体制を敷く「富寿し」を展開する株式会社宮崎商店の宮嵜富夫取締役副社長は「シンガポールはアジアでは頭抜けている。当初からも目標として5店舗体制があった」と当時を振り返る。

「シンガポールで寿司や和食を知らない人はいない。ドンキホーテが16店舗くらいあり、吉野家、すき家もある。日系の寿司や刺身、焼肉、ラーメンは完全に定着している。シンガポールの富寿しでは日本人客は全体の5%〜10%くらいしかいないが、日本人がオピニオンリーダーになっている。新潟のメニューとほとんど同じで、価格は日本の1.5倍程度で、客単価は40から45ドル」(宮嵜副社長)だという。

2008年に初めて視察に行き、2009年に現地法人を設立。「2008年にシンガポールから営業メールが来た。その10月に初めて行った。寿司や和食がすごく売れていた。認知度も高く、日本に対する認知度も高かったので、ここだなと思った」(宮嵜副社長)。

ちょうど、日本の外食市場が少子高齢化で萎んでいくのが見えた矢先だった。米ドルが100円くらいで円高だったこともあり、ITが発達し、距離の問題が解消されたこともあった。

第1号店から1年後に2号店を出店。2010年ころは円高だったため、日本よりも投資が若干安かったという。2018年に5号店ができたが、コロナ禍で夜営業のみだった4号店を閉めた。今年8月にオープンした新5号店「富寿しパシリス店」はシティエリアではない。立地は中心部から北東へ約15キロの郊外にあるショッピングモール内。

パシリス店

宮嵜副社長は、「あえてここにしたのは、この先国民への認知度を上げるためには住宅街に出す必要があると判断したため。今回トライしてみる。富寿しブランドを浸透させたい。ここで成功できれば、他の国土にも出していける。冒険だが、浸透して行けるかの試金石となる。上越でも地域に愛されてきたので、われわれのDNAとも言える」と力を込める。

現在72期で、創業80周年に向けては、東南アジアを中心に展開し、新潟の寿司和食文化を広く広めることをモットーに、現在、海外4割になりつつある売上高を国内50%・海外50%の比率にするのが目標だ。将来的に売上高40億企業への飛躍を目指している。

 

パナソニックの新井工場(現妙高市)が建設された時に、ナショナル創業者で「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助は「雪国の人は粘り強いから」と言ったそうだ。実は上越地域3市(上越市、妙高市、糸魚川市)では、上場企業が有沢製作所、田辺工業、サトウ産業、清鋼材のまだ4社しかない。ぜひ「雪国パワー」で、上越地域の企業もどんどんIPO(新規上場)してほしいものである。

 

(文・撮影 梅川康輝)

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