【忘れるな拉致・県民集会】「失望と不信感」日朝関係が明らかに過渡期でも石破首相の口から出ない「救い出す」の一言
11月16日、新潟市中央区の新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)コンサートホールにおいて「忘れるな拉致 県民集会」が開かれ、国会拉致議連メンバーなど来賓のほか多くの来場者が詰めかけた。
今年は1977年11月15日に中学校からの下校途中、北朝鮮工作員によって拉致された横田めぐみさん(当時13歳)が60歳の還暦の年になる。この間47年もの月日はあまりに長く、母の横田早紀江さんが今年で88歳になる。父親の横田滋さんは2020年に他界した。「北朝鮮に拉致被害者家族連絡会」(家族会)の親世代は、拉致された家族や兄弟との再会も果たせないまま、この間に幾人もが鬼籍に入られ、残ったのは早紀江さんと有本恵子さんの父明弘さん(96歳)のみとなった。
あまりに口惜しいことだが、タイムリミットは迫っている。
水面下で積まれた積み木が音を立てて瓦解
2002年の日朝首脳会談で当時の指導者・金成日が拉致の事実を認め謝罪、2004年に蓮池薫さんら5名と曽我ひとみさんが日本に帰国してから、拉致問題に実質的な前進はない。
この日の県民集会で東京国際大学特命教授の伊豆見元氏が、昨今の北朝鮮外交情勢と拉致問題の関係について講演を行った。伊豆見氏は日朝関係に関して、岸田文雄前首相の尽力に一定の評価を与えている。
自民党の裏金問題や増税、外圧によるLGBT法案の成立などもあり、多くのマスコミからは芳しからない評価だった岸田前首相ではあったが、実は20年風穴があかなかった拉致問題を水面下で動かそうという熱意はあった。「拉致問題解決で、双方に実りある日朝関係」「日朝関係は新たなステージへ」と秋波を送り、日朝首脳会談に向けてひとつひとつ積み上げていたという。一方で北朝鮮側は「拉致問題は既に解決済み。首脳会談を行っても事態は変わらない」という姿勢は崩さなかったが、それでも「双方の実り」に対して動かされてはいた。
「私直轄のハイレベル協議を行いたい。さまざまなルートで働き方を続けている」という岸田前首相の発言は、家族会や関係者が一縷の望みを託すにふさわしかった。実際「今秋には日朝首脳会談が実現か」というと段階まで来ていたのだという。
ところが、あと一歩のところで岸田内閣が退陣した。特に国際問題においては、国の体制が新しくなった時点で、積み重ねてきた事案がいったんゼロベースになることが多い。この時の家族会の落胆ぶりは相当なものだった。
「私たちの願いはきわめてシンプルで、被害者の親世代が生きているうちに帰国を果たし、抱き合う姿を見たいということ。それが果たされて初めて(北朝鮮への)人道支援ということ。それについては異論をはさむ余地はないが、親世代が亡くなった後に帰国を果たしたとしてもそれは無効だ」(横田拓也拉致被害者家族会代表)
家族会としては、親世代が健在なうちにすべての被害者が帰されてこそ拉致問題の終結である、という認識は不変である。それ以外は「北朝鮮の逃げ切り」に他ならない。
「既に拉致問題については『解決』という言葉はない」これは特定失踪者問題調査会代表の拓殖大学教授・荒木和博氏の言葉だが、まさにその通りで、失われた月日はあまりにも長く、その間の拉致被害者や家族の悲しみ、苦しみはどうやっても消せない。
石破首相の施政に、拭えない不信感
「お互いに連絡事務所を持ち、北朝鮮が拉致被害者の消息を述べていることは真実なのかを公の場で検証することが必要。首脳会談も当然必要だが、準備も無しにいきなり会っても仕方ない」
「北朝鮮の問題では、当然韓国に行ったような経済支援をどう考えるかというのも準備しなければならない」
上記は自民総裁選時に石破首相が報道陣に語った内容である。
「石破が首相になることで拉致問題がどう動くのか」は戦前から大いに注目の的だった。石破氏はかつて「北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟」(拉致議連)の会長を務めたが、一方で「親北朝鮮ではないか」と家族会周辺が懸念する「日朝国交正常化推進議員連盟」にも属しているという背景からだ。
そんな石破氏から出た拉致問題解決の施策が「東京と平壌にそれぞれの連絡事務所を開設し、新たな情報の足掛かりとする」というものだった。首相就任後に、この意向を家族会に向けて発信している。
家族会はこれに反発した。この日の県民集会で横田拓也代表は「そんなことをしたら、北朝鮮に利用されて、向こうに都合の良い情報を一方的に流され、ひいては拉致問題を幕引きに向かわせるだろう」と話していた。
これには多くの関係者が「既に拉致被害者は金総帥のもとで完全に管理されており、新たな情報が出てくる可能性はない」とも話している。
「何の準備もなく会っても仕方ない」という石破氏の発言にも耳を疑う。先の日朝首脳会談で5(+1)人の帰国が果たされてから20年以上が経っており、以降何らの進展もないのである。この発言は、岸田首相が重ねてきた水面下での交渉を引き継ぐ意向も一切無いという表れでもある。繰り返しになるが、時間は多く残されていない。
横田代表は「決して北朝鮮が画策する時間稼ぎや幕引きの工作に加担することがないようにしてほしい」と語ったが、まさしくその通り。一日も早い両国首脳会談の開催を希望する家族会と、双方の事務所開設を優先しようとする石破首相。今ここで政府と家族会の足並みがそろっていないとすれば、時間だけが過ぎていく。
この日の集会にオンライン中継で参加した横田早紀江さんもこう絞り出す
「あまりに長い時間が過ぎた。解決できない背景には『いったい何があるのだろう』と思う。どこかで扉が開いてほしい、今はその願いだけ」
仮に日朝国交正常化への道があるとすれば、全ての拉致被害者が日本に帰されることが前提となる以外にはあり得ない。このまま手をこまねいていては、主権国家が他国により大事な国民の生命を脅かされる、その現状を肯定することになりはしまいか。
(記者 伊藤 直樹)
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