【インタビュー】「故人との時間を大切にできるのが家族葬の特徴」地元企業が立ち上げたポータルサイト「にいがたのお葬式」、広がるネット系葬儀会社へ挑む
COVID-19のパンデミックを経て、葬儀の主流となりつつある家族葬。「手間や料金がかからない」というイメージが強く、ネット上を検索すれば「定額」や「ワンパッケージ」などを強調する広告も多い。一方で、提示されている料金やプランはあくまで最低限の内容であり、追加料金の発生や粗悪な葬儀業者の対応などトラブルも絶えない。
「家族葬だからといって、必ずしも料金が安くなるわけではない。むしろ、(小規模だからこそ)故人と遺族の時間や思い出を大切にできるのが、家族葬の特徴」。そう語るのは、株式会社会津屋(新潟県村上市)の舩山博貴代表取締役社長。同社含め県内11の葬儀会社では昨年、ポータルサイト「にいがたのお葬式」を立ち上げた。地域密着と質の高い葬儀の提案で、宣伝力に勝るネット大手へ対抗する。
【関連リンク】
ポータルサイト にいがたのお葬式
目次
○増えるネット広告に落とし穴
○県内の葬儀会社が集まって立ち上げた「にいがたのお葬式」
○葬儀の本質へ向かう家族葬
増えるネット広告に落とし穴
普及しつつある家族葬だが、これまでの葬儀との間に明確な線引きはない。従来よりも小規模であることは確かだが、参列者に誰を何人含めるかという点や、葬儀の内容も結局は遺族の意向による。そのため、必ずしも費用が安くなるというわけではない。また、参列者の減少により香典が少なくなる点も度々指摘される。
一方で、家族葬の普及に乗り価格競争で急速に版図を広げるのが、ネット上の葬儀会社だ。舩山社長は「そういった会社が上手いのは、『一日葬』だとか『火葬のみ』のワンパッケージで広告に打ち出して、消費者が選んでしまうような価格戦略で展開しているところ」だと話す。
しかし表示されている料金は最低限のプランであり、実際にはさまざまなオプションが必要となって最終的には費用が跳ね上がるケースは多い。「一日葬の予定だったにも関わらず、お寺など地域の宗教者を呼ぶ段階になってから、通夜をしなければいけなくなるケースもある」(舩山社長)という。当然、予定が変わればオプションとして費用も嵩む。
また、こうした会社は基本的に受注のみで、実際の葬儀は下請けの葬儀会社が担当している。「例えば、父親の葬儀をネット上で頼んで、満足のいく葬儀だったとする。しかし次に、母親の葬儀を同じ会社へ頼んでも、同じ下請け会社が担当するとは限らない」(同)。必然的に、ネット上の葬儀会社は手数料の低い下請けを優先的に選ぶ。そうした下請けへ消費者を流していくの手法が、全国的に横行しているのが現状だ。
県内の葬儀会社が集まって立ち上げた「にいがたのお葬式」
そうした中、県内の老舗葬儀会社グループが立ち上げたポータルサイトが「にいがたのお葬式」だ。全日本葬祭業協同組合連合会など組合単位ではなく、地域の会社が集まり、こうしたサイトを作るのは珍しい。元々は葬儀用の共済事業を開始するためにつくったグループで、長年共同で研修や情報交換をしてきた。しかし舩山社長は「ネットの葬儀屋が増えている中で、我々が伝えたいことを伝えながら営業していくために、今回のポータルサイトを立ち上げた」という。
それぞれの地域にあるリアルな葬儀会社だからこそ、対面で事前相談を行い、質の高い葬儀を目指す。「どのような方(遺族)が、どのような故人を送るのか……。しっかりとヒアリングして提案をしていく。大切な方とのいい思い出を振り返っていただきたい」と舩山社長は力を込める。
グループには村上市から上越市まで、県内各地の企業が集まる。同じ県内でも「新潟市では通夜と葬儀をしてから火葬へ向かうが、県北地域だと通夜の後に火葬をして、それから葬儀を行う」(同)など、細かい点で文化が異なる。地元密着だからこそのノウハウも武器の一つだ。
また、グループ結成のきっかけでもある葬儀保険(少額短期保険)の「千の風」への加入も勧めている。月々定額の保険料を払うことで急な葬儀の費用に備えるもので、こちらも県内各地域にネットワークがあり、各地の加入者へ迅速に対応できる同グループが強みを持つ。
グループでは今後も加盟葬儀会社を増やしたい意向。舩山社長も「受注の入口を広げていきたい」と意欲を見せる。
葬儀の本質へ向かう家族葬
家族葬については一般的に価格についてのイメージが先行し、ネットの葬儀会社もそれを打ち出すが、むしろ家族葬のメリットは「葬儀を自分たちの思う形にできたり、近しい方々だけでゆったりと(故人を)送ることができる点だ」と舩山社長は強調する。
「葬儀の規模が大きくなるほど、参列者への対応や香典返しなどのボリュームも増え、本来は故人とのお別れをしたい時間なのに、遺族は気が気でなくなってしまう。そうした点で家族葬というのは、故人と向き合うという、葬式の本質的なところを求めることができる」(舩山社長)。
儀式としての形式に捉われる必要や参列者への対応がない分、出棺の際に思い出の場所を巡ったり、葬儀の中で故人の好きだった曲を流すなどの自由度も特徴の一つ。パンデミック以前から小規模な葬儀が出始めたのは、こうした「故人との別れの質を高めたい」というニーズがあったことが理由の一つだ。
葬式を主催する機会などそう多くない。両親のものと考えた場合は人生で二度。多くの人がノウハウを蓄積できないからこそ、それを支えるのが葬儀会社の役割だ。「大切な方をお送りするのがお葬式。そうした気持ちを汲みとり、形にできるのが我々の強みだと思っている。ネット上の価格に左右されず、地域に根ざした企業にお手伝いさせていただければ」。舩山社長はポータルサイトへ込めた想いをそう語った。
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