【企業×若者×挑戦】3ヶ月で課題解決の事業立ち上げまで駆け抜ける『ローカルベンチャーシップ』の成果を発表
新潟県内の事業者4社が、それぞれ学生とタッグを組み、3ヶ月に渡り自社の課題解決に向けたプロジェクトを立ち上げ、実施まで行う新潟発のプログラム「ローカルベンチャーシップSeason1」。その成果報告会「ローカルベンチャーフェス」が11月9日、Sea Point NIIGATA×MOYORe:(新潟市中央区)にて開催された。
“ベンチャー”とは一見縁遠く思える老舗書店の挑戦や新潟から遠く離れた沖縄の大学生の参加など、既存の取り組みでは括りきれない、多彩な企業・若者の個性が光る取り組みの数々に、当日は オンライン視聴含め50人を超える参加者が熱心に耳を傾け、その大きな成果に刺激を受けた。
経営者×沖縄の大学生による老舗専門書店の未来づくり
「ローカルベンチャーシップ」は、ベンチャーバディ(外部人材)と呼ばれる若者と経営者・管理職が協働で、自らのポジションや固定概念を越境し、自社の未来につながる課題解決プロジェクトに挑戦するInquiry合同会社(新潟市)が企画・運営している独自のプログラム。2023年のトライアルを経て、2024年8月〜10月にSeason1が実施された。
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この度開催された「ローカルベンチャーフェス」は、地域でチャレンジしてきた挑戦者に称賛を送り、挑戦者を生み出す学びの祭典としての初めての試みになる。Season1参加者による中間成果発表や、ゲストによるトークセッション、交流型ワークショップなど密度の濃い1日となり、会場には、挑戦者たちへの称賛の拍手と、深い学びへの感嘆の声が溢れた。
会場でこの日、一際大きなどよめきが起きたのが、新潟市中央区上古町で1911年創業という古い歴史を持つ医学書専門書店「考古堂書店」代表取締役の柳本和貴さんと、バディである山城瞳さんの発表だ。
一世紀以上の歴史がある書店、しかも4代目で57歳の柳本さんは、20〜30代の経営者が多い“ベンチャー”の文脈からすると異色である。加えて、バディとして参画した山城さんは沖縄県出身・在住の大学3年生という組み合わせで、新潟に来たのはこの日が2回目だという。
本離れやネット通販の浸透により書店を取り巻く環境が厳しくなる中、コロナ禍でさらに客足が遠のいている実情に、柳本さんは医学書や書店の未来を危惧し、『医学書の考古堂』としてのブランドを復活させたいと、プログラムへのエントリーを決めた。
バディとなった山城さんは、X(旧Twitter)で今回のバディの募集を知り、書店巡りが趣味で、医学部図書館でのアルバイト経験もあったことから、大好きな書店という空間を守りたいという気持ちで参加に至った。
山城さんが医療系の学生や看護師などへのインタビューを通して考古堂の課題を洗い出した結果、コロナ禍を経て医療系学生にほとんど知られていないという仮説が浮上する。SNSを一切やっていなかったことに着目し、まずはインスタグラムを開設。さらに、突き詰める中で表面化してきた思いが、「新潟の地域医療を支えていきたい、関わる人たちを繋ぐ書店になっていきたい」というものだった。これまでの実績があるからこそできることを念頭に、人と人とを繋ぐメディア事業の立ち上げを検討した結果、通勤・通学中の医療従事者に向けたポッドキャスト番組『メディラジにいがた』の制作を決めた。
このプロジェクトを通して、メディア開発、学校への企画の持ち込みなど、新たな挑戦に挑み続けてきた柳本さん。老舗の暖簾に胡座をかかないチャレンジングな姿勢は、まさにベンチャーの精神そのもの。「今まで一人で仕事を抱えすぎて、新しいことに挑戦したくてもできずじまい。正直ローカルベンチャーシップの参加も不安でした。そんな中で受けた、運営側のコーディネーターの『医学書の考古堂』として医療関係者に知られているという自負には驕りがあるという指摘から、そこに固執することには無理がある、と思えたこと自体が私には大きな意識変化です。この3ヶ月で一人で頑張らずにチームで分担することも少しずつできるようになり、より積極的に働けるようになったと思います」と、日頃の働き方や会社の変化も実感しているそうだ。
期間中、二人が直接顔を合わせたのは8月のスタート時に1回のみで、あとはオンラインでプロジェクトは進められていった。今後も遠隔で音声収録を行いながら継続してい取り組み、医療系の学校とのコラボの予定もあるとのこと。本イベントに参加していた医療従事者からは、「医療業界の人たちが悩むことは共通するものも多いので、そんな人たちが繋がり、学べるプラットフォームを作ってもらえると嬉しい」という声も寄せられた。
門外漢の第三者が関わることで生まれる打開策
考古堂書店の他にも、Season1の各チームそれぞれに企業の悩みにフィットし、さらに地域や業界に波及していく可能性を感じさせるプロジェクトが完成した。
南魚沼市の建設会社・株式会社島田組は、今年事業承継による代表交代をし、新社長によるビジョンや経営理念の浸透が不十分であるという課題に対して、今回のプロジェクトから社内向け音声メディア「社長ラジオ」と、noteの連載が誕生した。それぞれのメディアに社員も登場することで、「社員の心の内に秘めた炎みたいなものが見えることがあり、バディという第三者がいるからこそ引き出せた本音もあった」と島田奏大社長が手応えを感じるように、社長の思いを音声とテキストで伝え、さらに社員とのシナジーを生み出すきっかけが生まれている。
前回のSeason0にエントリーしたゆめのき学園は、前回バディだったメンバーが企業側で携わるという、発展的な展開を見せた。「放課後デザイナー(放課後学童支援員)の人材育成と採用」をテーマに、大学生アルバイトスタッフの評価システムの構築を目指し、バディが40人もの大学生からアンケートを回収。チームで検討した結果、スタッフのそれぞれできること、やりたいことの可視化につながるバッヂ制作とバッヂを紹介するパンフレットの制作に着地した。
新潟市南区の大通り歯科のプロジェクトでは、歯科業界の離職・転職率の高さや時短勤務の多さに着目。持続可能な歯科業界を実現する働き方を目指し、予約キャンセル防止策や入職ミスマッチを抑制する採用サイトの制作など様々な施策を考案。特に17時以降の勤務に対するインセンティブ制度の創設は、オーディエンスからも「自社の参考になる」と高い評価を獲得していた。
タッグを組むことで、助け合ったり、継続できたり、一人で苦しくなったりしない。「いろんな視点から分析することで新しい視点が開けることを強く感じました」という声も上がったが、社員や業界人ではない第三者、特に若者だからこそのブレイクスルーがあるという、ローカルベンチャーシップの仕組みならではの好循環が伝わってきた。
新しい事業立ち上げの鍵は「怒り」と「リフレーミング」
ローカルベンチャーフェスではこのほか、ベンチャー企業を実際に立ち上げ運営をしている実践者や前回のSeason0に参加したメンバーによるトークセッションや、参加者のこれからの挑戦にもスポットを当てた交流会&ワークショップなど、「挑戦」を切り口に、密度の濃いプログラムが繰り広げられた。
都心部と地域との情報格差への認識を、伊藤さんは「情報がないことが勝ち筋だと思う」と評価。人口8000人規模の湯沢に起業した理由もそこにあるという。競合がいないからこその余白に注目した“リフレーミング(視点を変えて新たな意味を見出すこと)”には、この日の司会で主催者のInquiry合同会社山本一輝代表社員CEOも事業におけるその重要性を説いた。
登壇者たちの挑戦に刺激を受けた参加者も多く、「チャレンジ精神旺盛な皆さんとお話できたことはすごく刺激になったし、チャレンジする気持ちに非常に勇気をもらえました」「交流会のピッチコーナーで今後挑戦してみたいことを発表したら、近いことに取り組まれている人からのアドバイスを頂けてとても参考になりました」と、自分の中に落とし込みながら参加している姿が印象的だった。
新潟から生まれる「課題解決×挑戦」の連鎖
主催する山本さんは「近年広がっている『静かな退職』『ゆるブラック』といった働き方に関する課題に対して、挑戦、越境、学びが地域の企業の人材課題の突破口になると考えています。昨年Season0をやってみて様々な変化や事業の可能性を感じたし、改めて業種やエリアは関係ないと実感しました。全国と連携しながら挑戦の生態系をつくる仲間づくりもしていきたいと思っています。次なる挑戦者をこの場から輩出し、挑戦の連鎖が生まれる震源地として今後も影響を広げていきたいです」と展望を語る。
それぞれのプロジェクト成果を見ると、元々は自社の課題を解決する目的だったところが、最終的には地域や業界の発展に直結するところになっているところが興味深い。
企業課題を打破し、業種も、立場も、年齢も、歴史も、地域も越境する「挑戦」から生まれる波紋。それは一歩ずつ着実に、うねりになりつつあるようだ。今後のさらなる展開にも期待したい。
【関連サイト】
ローカルベンチャーシップ