【コラム第2回】「許容可能な損失を考える—古民家再生へ一歩を踏み出すため」蔡紋如「MAHORA西野谷」代表

居間には昔ながらの囲炉裏がある

前回は自分の手持ち資源をリストアップし、それを基にできるアイデアを整理した。次のステップとして「許容可能な損失」を棚卸しし、失敗した場合に失うものと、挑戦しなかった場合に失うものを明確にした。

許容可能な損失を見直す

エフェクチュエーションの講義を通じて、自分の許容可能な損失を理解したが、実際に行動に移すには勇気が必要だった。自分の許容可能な損失は、金銭的な損失や時間、地域の方々との信頼関係だった。一方で、挑戦しなかった場合に失うものは、新しい人との出会いや人生の新たな可能性、自分自身への期待、地域に貢献するチャンスだった。

最初の一歩を踏み出す際に、自分自身に対する疑いが生じた。本当に借金をしてまで取り組む必要があるのか、他の選択肢のほうが楽ではないのか—そうした葛藤と向き合うことになった。しかし、ネガティブな考えに囚われすぎると行動の意欲を失ってしまう。そこで、棚卸しをより丁寧にやり直し、自分の可能な範囲内で、まずは小さな一歩を踏み出すことにした。

問題の解決に向けて

行動の第一歩として取り組んだのは、古民家再生における現実的な金銭問題の解決だった。補助金を探し、地元の人々や専門家に相談し、金融機関への融資相談を行うなど、あらゆる手段を試した。その過程で、自分のやりたいことを自分の言葉で説明し、周囲の協力を得ながら少しずつ目標に近づけていった。

エフェクチュエーション理論では、最終目標を固定せず、不確実な環境下でできることに焦点を当てる。この考え方を活用し、失敗の可能性を洗い出すことで、行動へのハードルを下げることができた。

古民家宿の開業と試行錯誤

古民家宿を開業して約10か月が経過した。成功か失敗かは明確には言えないが、新しい出会いや機会が得られたことは確実だ。さまざまな人々と協力しながら、作品展や料理イベントを実現し、新しい形での交流の場を築くことができた。

これらの活動を通じて、持続可能な事業として成長させるための試行錯誤を続けている。振り返ると、大きな目標を設定するよりも、手持ち資源でできることからスタートすることの重要性を改めて実感している。この考え方は新規事業だけでなく、日常生活にも応用できる。

許容可能な損失—挑戦を続ける鍵

「許容可能な損失」の概念は、一歩を踏み出す際の重要な指針となる。失敗を恐れるあまり行動をためらうのではなく、失敗しても自分がコントロールできる範囲にとどめることが大切だと感じた。行動を重ねる中で、自分がなぜこの事業に取り組みたいのかを深く掘り下げることができた。

未来は予測できない—まずは行動を

未来は予測できないが、だからこそ現在できることに集中する。取れるリスクを明確にすることで、行動を続けやすくなる。失敗は起業の一部であり、自分でコントロール可能な活動に集中することが、継続的な挑戦の鍵となる。

When life gives you lemons, make lemonade.次回は、元持ち主が10年以上放置していた空き古民家を早く手放したいと願っていた背景を活かし、この「レモン」のような資産をいかに「レモネード」、すなわち古民家宿兼交流スペースへと変身させたのかを紹介する。

 

蔡紋如(サイ・ウェンル)

台湾出身。2014年に結婚し、夫とともに妙高へ移住。独学で総合旅行業務取扱管理者の資格を取得し、妙高市観光協会に積極的にアプローチしてインバウンド専門員として採用される。主にアジアの華僑系顧客をターゲットにプロモーションを展開し、企画制作を担当。また、FacebookなどのSNSを活用して日本での生活をPRする活動も行う。コロナ禍で観光業が大きな打撃を受けたことで、地域のために何ができるのかという強い危機感を抱くようになる。2023年、農業と観光業を通じて地域を活性化することを目指し、合同会社穀宇を設立。2024年には京都大学経営管理大学院観光経営科学コースを卒業。同年4月に築120年の文化複合施設「MAHORA西野谷」を開業する。

こんな記事も

 

── にいがた経済新聞アプリ 配信中 ──

にいがた経済新聞は、気になった記事を登録できるお気に入り機能や、速報などの重要な記事を見逃さないプッシュ通知機能がついた専用アプリでもご覧いただけます。 読者の皆様により快適にご利用いただけるよう、今後も随時改善を行っていく予定です。

↓アプリのダウンロードは下のリンクから!↓