幻の酒米「菊水」を復活させて誕生した菊水酒造株式会社(新潟県新発田市)の「酒米菊水純米大吟醸」

酒米菊水純米大吟醸(720ml)

酒蔵数が全国1位の新潟県内には多くの酒蔵があるが、その中でも屈指の規模と知名度を誇る菊水酒造株式会社(新潟県新発田市)。その菊水酒造には、会社名と“同姓同名”の「菊水」という純米大吟醸がある。だが、この清酒の名前は社名にちなんで命名されたものではない。酒米「五百万石」の母親で、わずか25粒の種籾から五十数年ぶりに復活させた幻の酒米「菊水」に因んで名付けられたのだという。

「酒米菊水純米大吟醸」——。芳醇な香りと、豊かな旨味のある清酒で、程よく脂ののった白身魚によく合うという。「社名と同じ名の米への愛着心が一人ひとりの酒造りの気概となり、丹念に時間をかけて造りあげています」。髙澤大介代表取締役社長はこう話す。

その大吟醸酒「菊水」に使われている酒米「菊水」は、古くから知られる名酒米「雄町」を母親に人工交配し、その後、苗を選抜して育て上げた品種。雄町の背丈が高くなるという欠点を克服しながら、品質は雄町に勝るとも劣らぬ酒米になったという。そして昭和12年(1937年)、愛知県の農業試験場で開発された。

だが、「菊水」は害虫に弱かったため、この酒米を母親に人工交配した「白菊」と交代させられることとなり、太平洋戦争の終わった昭和20年(1945年)頃には、戦後の主食米優先の政策もありすっかり姿を消したという。

なお新潟県の農業試験場は、「菊水」の酒造好適米としての特徴に関心を抱き、「菊水」を使った人工交配をすすめ、「菊水」を継承する新たな品種を誕生させた。それが、代表的な酒米として知られる「五百万石」である。

菊水酒造の資料より

 

五十数年ぶりの復活した酒米「菊水」

それから時を経ること五十数年、菊水酒造の原料米の生産者でもある農業集団「共生の大地 にいがた21」(新潟県新発田市)の中で、酒米菊水を復活させようという話が持ち上がり、菊水側に「ロマンを感じることをやってみないか」と打診があった。高澤社長は、「もはや菊水米はこの世にはないのではないか」と感じつつも、つくば市の種子センターに保存用として僅かながら残っていることが判明。平成9年(1997年)、愛知県の農業試験場の紹介で、このセンターから25粒の種籾を譲り受け、長岡市にある県の農業試験場に持ち込んだという。

その後、同試験場菊水を増やす取り組みが始まった。平成11年(1999年)には6アールで酒米を栽培し小さなタンクで清酒を作れるまでに広がり、平成12年(2000年)12月、菊水米だけで醸した清酒「酒米菊水純米大吟醸」が誕生した。

その後も菊水米の品種改良は続き、新潟大学農学部により平成24年(2012年)に「菊水-HD1号」が完成。晩生品種で収穫時期が遅かった点が改良されるなど進化を続けている。

現在、酒米「菊水」は全国酒類鑑評会の出品酒や、菊水最高峰の酒「蔵光」、「純米大吟醸原酒酒米菊水」、「酒米菊水純米大吟醸」といった大吟醸クラスの原料米として主に使用されており、菊水酒造にとって大切な品種であるといえよう。さらに、それを体現しているのが、菊水米の復活の立役者でもある「共生の大地21にいがた」と菊水酒造が共同で行っているイベントが秋の収穫祭だ。

20年以上にわたり毎年行っていた当イベントは昨年のコロナ禍で中止になった。今年もイベントとしての実施は行わないとのことだが、「収束後には再び稲刈りイベントができれば」と高澤社長は話していた。

 

◎「蔵光」純米大吟醸 蔵光|菊水酒造 (kikusui-sake.com

(上写真2枚)稲刈りイベントの様子

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