【インタビュー】(株)北信越地域資源研究所(新潟県上越市) 平原匡代表取締役「これからは年間を通じた滞在型観光を目指すべき」
新潟県上越市の上越妙高駅西口でコンテナ型商業施設「フルサット」を運営する株式会社北信越地域資源研究所(新潟県上越市)の平原匡代表取締役は上越市の出身だが、都内の理工系大学院を修了後に新潟県佐渡市に移住し、佐渡観光協会に在籍した経験を持つなど観光分野に明るい。そんな平原代表に上越地域のアフターコロナを見据えた観光戦略などについて語った。
上越市、妙高市の連携に期待
上越妙高エリアに可能性を見出している平原代表取締は地元の上越市の奮起に期待する。
「アフターコロナの観光戦略をどうすべきかを上越市が示さなければならない。一方、いま、国立公園エリアを抱える妙高市はとても注目されているし、プレスリリースが多い。若い人たちを下から巻き込んで地域でやろうとしているし、ワーケーションにも先駆的に取り組んでいる。上越市はいま、アフターコロナに向けて何をすべきなのか。これを機会に新しい時代の観光への取り組みへと変革が起こることを期待する」
続けて上越妙高駅についてこう語る。
「上越妙高駅が出来て6年が経つが、地域の生活から見れば上越妙高駅は上越市街地の南のはずれにあって、『新幹線の駅をなぜここに作ったのか』という人はまだ沢山いる。駅ができ、レンタカー会社ができ、温浴施設ができ、ホテルができ、商業ビルが生まれたのを目の当たりにしてきた我々としては、上越妙高駅は新幹線駅という単なる『機能』ではなく、この6年間で上越市と妙高市をつなぐ重要な『機能の集積』へと変化してきたということに気づいてほしい。上越市と妙高市のこの間(はざま)の場所を行政区域として線引きをするのではなく、妙高市と連携して観光客が回遊したくなるような大きな観光動線を作るという発想に立って、妙高市に働きかけて、『一緒にやりましょう』と言うべきだ」
一方、平原代表取締役は上越エリアの観光振興に向けては、妙高エリアとの連携も含めた宿泊機能の補完が必要だと説く。
「アフターコロナで大きく変わるといわれているのは、密を避けるアウトドア型へのシフト、そして、リスクの大きい移動型・通過型の観光から、宿泊施設を起点にした滞在型観光へのシフトである。いままで通りの観光客数のみを追いかけるイベント型の観光コンテンツだけではニーズを満たさないし、滞在時間が短く、観光消費額にも期待できない。これからは年間を通じて、泊まりに来たいと思わせる場所にするという面を強めていくことが必要だ」
その実現に向けた課題についてこう語る。
「宿泊が伴うことにより、観光市場規模は大きくなる。しかしながら、現実的には上越市には観光向けの宿泊施設が少ない。そこで大切なのは、行政区域の発想を離れ、赤倉温泉など宿泊施設が集中している妙高市と上越妙高エリアの観光を連携させてエリアとしての魅力を高めていくという発想に立つことである。その点は、えちごトキめき鉄道が先にやっている。リゾート列車の雪月花が上越市のみならず、妙高市や糸魚川市と市をまたいで仕事をしている。いま、上越妙高駅周辺にホテルが3つあって、全部で約500室ある。すべて埋まると500人以上がここに滞在していることになるが、このエリアに上越を代表するような食事処が作れていない」
なぜかと言えば、答えはデータがないからだという。
「『このエリアの新しいホテルに宿泊客が翌日どこに行ったのか』『宿泊目的は』『夕食はどこでなにを食べたのか』というきちんとしたデータを持つことが、観光戦略としても重要だと思う。この駅が上越市と妙高市をつなぐ重要な『機能集積』へと変化してきたことをデータで立証し、不足する機能を底上げし、次のステージへと高める段階に来ている。上越妙高駅が直江津港から渡ることが出来る世界遺産登録を目指す佐渡への入口となることも更に意識すべきだろう」(平原代表取締役)。
ワーク・ライフ・バケーションの提唱
平原代表取締役は新たな概念の提唱も始めている。
「今、ワーケーションという言葉が定着しつつあるが、この言葉は少し極端だ。リゾートに行って働くことだが、それができる人は実は限られている。すべての領域でできるわけではない。建設業などもそうだが、ワークのために泊まったりしている人もいる。そこで必要な食事はバケーションのものではなく、日常(ライフ)のものでよい。つまり、ワークとバケーションの間にライフの側面があったほうが現実的だといえる。我々は他の専門家とワーク・ライフ・バケーションを言い始めている。そういうことができる街になることが、上越市という都市規模を考えた時に重要なのではないか」
さらに続けてこう語る。
「泊まったら、当然日用品も買わないと長く滞在できないので、コンビニエンスストアやスーパーで買い物するのもライフだし、長期の滞在に向けてライフの部分を充実させることが大事で、上越市くらいの都市規模ならば、そこが充実さえしていれば滞在できる。上越市と似ているのは、北陸新幹線沿いでは、富山県新高岡駅や長野県佐久平駅、上田駅だ。また、会議や学会など長期的に滞在する時にどうやって街中で楽しんでもらうか。ワーク・ライフ・バケーションは上越市にとっては、ワーケーションよりも現実的だと思う。観光は観光業者だけがやるのではない。滞在する人と交流する時間を増やすことで自分たちの地域について知ってもらって、楽しんでもらって、お金を落としてもらい、地域全体に還流するビジネスとして成り立つのがこれからの観光産業だ」
最後に平原代表取締役は上越妙高駅について提言し、インタビューを締めくくった。
「今まで上越妙高駅はゲートウェイ(玄関口)だった。行政も『ここはあくまで玄関で、目的地は他にある』という考え方だった。ただ、その玄関の整備をもう少ししないと、人が通り過ぎていくだけになってしまう。玄関には何もないと印象付けて終わってしまうことがこの6年間続いている。例えば、長期滞在者や移住希望者に向けて、街のことを紹介するフロント機能を持たせてもいいのではないか。また、新幹線に乗る前に1時間でも2時間でも過ごす目的となる場所がもっとたくさんあってもいい。上越妙高のカルチャーを伝えるような場所が駅前に1つほしい。地元所縁の作家を集めた美術館を作ってもいいと思う。美術は潜在的に重要なものだと私は思う。同じお金をかけるのならば、何にお金をかけるのか、どこにかけるべきかをもう一度考えた方がいい時期である」
(文・梅川康輝)