新潟市西区の明倫短期大学で「拉致問題啓発セミナー」が開催、若い世代に拉致の残酷さと解決への協力を呼びかける
6日、新潟市西区の明倫短期大学で「拉致問題啓発セミナー」が開催された。内閣官房拉致問題対策本部事務局と新潟県の主催で、共催は明倫短期大学。北朝鮮による拉致問題に対する若年層の理解促進を図ることに加え、拉致問題を人権問題ならびに国際問題として考える契機となるようにと開催した。
受講者は明倫短期大学の1年生77名。歯科衛生士学科57名が対面、歯科技工士学科20名がオンラインでの受講となった。
セミナーは2部に分かれ、1部では「めぐみ-引き裂かれた家族の30年」を上映。拉致問題をリアルタイムで知らない世代の心に、映像を通じてこの問題の大きさを伝えた。
2部では、新潟県出身の特定失踪者・大澤孝司さんの兄・大澤昭一さんと、孝司さんの同級生で「大澤孝司さんと再会を果たす会」副会長を務める宮崎直樹さんが、1日も早い拉致問題の解決を訴えた。
1974年2月24日、孝司さんは勤務先近くの独身寮から近所の焼肉店で夕食を済ませた後、いったん寮に向かい始めたが途中で趣味である猟銃の許可証を返納するため店に立ち寄った。店から外に出ようとした際、2~3人連れと交錯し、その後、孝司さんはこつぜんと姿を消した。後日、近所の人が急発進によるタイヤのきしむ音が聞こえたと証言した。孝司さんは、拉致被害者として政府認定されていない。しかし、特定失踪者調査会の調査では、拉致の可能性が大きいとされている。
昭一さんは「将来歯科で働く、今日集まっていただいた皆さんに訴えるとすれば、虫歯は小さなうちに、歯石は早めに取らなければいけない。なのに拉致問題は長い間政府に放置されている。私は85歳になり、先のことを考えるようになりました。生きているうちに孝司との再会を果たしたいのです。その時までご支援、ご協力をお願いします」と話した。
宮崎さんは「大澤君とは県庁でも同僚として仕事をしていました。土地改良の仕事に情熱を燃やしていた彼が、自ら姿を消す理由はありません。拉致されたとしたら、最後まで仕事を全うできなかった彼の無念は計り知れない。署名活動もコロナ禍で思うようにできない状況です。以前に比べると署名の数は少なくなり、関心も薄れてきているのかなと残念に感じています。いただいた署名は政府へ提出し、皆さんが拉致を忘れていない、許さないと伝えたいのです。すべての拉致被害者をご家族のもとへ取り戻すべく、どうぞ署名をお願いします」と力強く訴えた。
その後の学生による質疑応答では、「拉致問題について詳しく知ることができてよかった。先が見えない問題に向き合う姿を見て、何とも言えない気持ちになった。今日はありがとうございました」「横田めぐみさんのニュースを目にすることはあったが、詳しくは分かっていなかった。めぐみさんのドキュメンタリー映画や大澤さんのお話で、私たちに何かできることはないかと考えた。署名がその手段だと知ったので、今日は署名をして帰ります」と、昭一さんと宮崎さんへの激励メッセージもあった。
大切な家族がある日突然姿を消す。拉致被害者はもちろん、高齢となった家族も人生が大きく変わってしまった。こんな残酷なことが長きにわたり未解決となっているのが現実だ。
北朝鮮による拉致の可能性がある失踪者は、公開されているだけで543人。ほかに300人以上、非公開者や申し出のない人がいるとされている。
「ただいま」も「おかえり」も言えない家族がこんなにもいることを決して風化させてはならない。そのためにも、蓮池薫さんらの生存が確認された2002年、まだ生まれていないかもしれない世代に向けてのセミナーは、大きな意義があったであろう。
(文/太田広美)