連載 新潟の逸品 その1 餅屋の「豆大福」など
やまの辺(新発田市)「季節の和菓子」
新潟で最も盛んな茶道の流派は「石州流(越後怡渓(いけい)派)」で、その中心地が新発田だという。かつて新発田藩では歴代の藩主が茶道に力を注いだ。こうした経緯から、城下町新発田では茶道に欠かせない和菓子の文化も育まれたという。
「新発田の和菓子はレベルが高く、どの店で買っても間違いない」とされる。中でも秀逸なのが「やまの辺」(新発田市住吉町1丁目5-6)に並ぶ「季節の和菓子」だろう。
やまの辺はJR新発田駅から西に延びる商店街の西端にある。明治期の創業という同店だが、現在はフランス菓子も多く、定番のフルーツ生ロールが人気だ。店の奥には新潟市北区出身の書家で、この地で書道教育に携わった鶴巻松陰の書がかかっている。
「季節の和菓子」は四季の移ろいにあわせ、二週間ごとに替わる生菓子で、写真は5月後半のもの。折々の季節を象徴する題材をテーマに生菓子がつくられる。その名は写真左が「新緑(しんみどり)」、右は「薔薇」。やまの辺にはこうした和菓子が常に10種類近く並んでいる。
いずれも職人がつくり上げた芸術作品のようで、その色彩や味わいは淡く優しい。やまの辺は国道7号新新バイパス新発田ICに近く、数台の駐車スペースもあるので、車で訪れることも可能だ。
笹川餅屋(新潟市中央区)「豆大福」
笹川餅屋(新潟市中央区西堀前通4-739)は、新潟市の中心部、西堀通と鍛冶小路の交差点に位置する。古い店構えの同店は、明治16(1883)年の創業。現在の当主(笹川太朗氏)は六代目だが、四代目の故勇吉氏はまさに当地の生き字引だった。郷土史家として、あるいは絵葉書のコレクターとしても知られ、昭和60(1985)年に地域文化功労者として文部大臣賞を受賞した。
笹川餅屋の看板商品は笹団子。この笹団子を新潟名物として世に知らしめたのが同店だったという。昭和39(1964)年に開催された第1回目の新潟国体でのこと。新潟らしい土産物が模索され、その際に浮上したのが一般家庭で作られる笹団子だった。これに日持ちするよう改良を加えたのが四代目の故勇吉氏だったという。
伝統の笹川餅屋だが、常にチャレンジングでもある。平成12(2000)年には「鮭まんじゅう」が、同20年(2008)年には「チョコっと新潟」が、平成25年(2013)年には「新潟米粉のかわいい友達」が、新潟市土産品コンクールで金賞などを受賞している。
笹川餅屋の笹団子や、ちまきは通年販売で、インターネットでも購入できる。だがやはり新潟の情緒が漂う店頭で直接商品を求めたいものだ。狙い目は写真の「豆大福」。ふんわり、しっとりした豆大福の解説は特に不要だろう。よく観察すると、形と大きさが微妙に違う。まさに手作りの逸品で、買ってその日に味わってしまわないと硬くなるので要注意。売り切れとなっていることも多い。
菓房処 京家(加茂市)「かりんとう饅頭 鬼の金棒」
新潟は米菓の主要な産地だが、小麦粉で作るかりんとうの伝統的な産地が県内にある。それが加茂市だ。同市は国産マカロニ発祥の地としても知られる。明治41(1908)年、当地の製麺業者が独自に開発した機械で製造をスタートさせたのが国産マカロニの始まりだとか。
同様に小麦粉を主原料とするかりんとうだが、加茂市発として知られるのが「たなべのかりん糖」(田辺菓子舗)だろう。新潟県のアンテナショップ、表参道新潟館ネスパス(東京都渋谷区)でも、常に売れ筋商品にランクされる。
「たなべのかりん糖」と双璧をなすのが、菓房処 京家(本店、加茂市駅前)の「かりんとうやまの辺の季節の和菓子(左が『新緑』、右が『薔薇』)饅頭 鬼の金棒」だろう。これもまた前出のネスパスで人気の商品だという。
「鬼の金棒」は揚げ饅頭の一種。だが皮がカリカリ食感のかりんとうで、沖縄産の黒糖を使っている。見た目が棒状で、表面がゴツゴツしていることから、「鬼の金棒」とネーミングされたとか。皮の食感とは対照的に、中身はしっとりしたこし餡で、十勝産の小豆を使っている。
京家は加茂駅前本店のほか、田上、村松(五泉市)、県央(燕市)に店舗展開している。「鬼の金棒」は製造から4日が賞味期限。