新潟県水産海洋研究所が研究発表会
陸上養殖の研究成果などを発表
新潟県水産海洋研究所は30日、新潟市内で令和元年度の研究発表会を行った。水産研究に関する理解や関心を深めてもらうことを目的に開催しており、水産関係者が「陸上養殖技術」「グレーズ処理」「稚ガニの混獲を防ぐ底引き網漁具」に関する研究発表を聴講していた。
このうち陸上養殖については、新潟県内は、遠浅の海岸が多かったり、冬の時化が頻繁だったりして養殖生け簀の適地が限られることから、佐渡など限られた地区や錦鯉で行われているだけという。こうした事情もあり、同研究所では、陸上に水槽を設置して海水を循環させながら魚を育てる「循環式陸上養殖」の研究を進めている。今回、この循環式陸上養殖の成果について発表していた。
循環式陸上養殖はかけ流しに比べて、水量が抑えられることから疫病発生リスクや環境負荷を低減できる。反面、設備の投資コストやランニングコストが高額になるデメリットがある。これらのデメリットを克服するためには、海水の希釈化などで海水使用量を減らしコストを削減したり、高密度飼育などで利益増大させたりすることが必要という。
そこで、研究所では、ウルトラファインバブル(UFB)を使った循環ろ過システムの効果を検証してきた。同システムでは、肉眼では見えない1マイクロメートル以下の気泡(UFB)をつくり、水中にとどまらせる(浮上させないこと)で、水中の酸素濃度を維持するシステム。養殖魚の酸欠防止になるほか、気泡が破裂(消滅)するときに高圧エネルギーが放出されて水中の殺菌も行うことができるという。
ただ、経営的なシミュレーションでは、養殖がうまくいった場合でも利益がそれほど出るわけでないという。そうしたなかでも、(販売単価の高い)錦鯉などへの応用には期待がもてるそうだ。
また同研究所で平成26年から30年まで、ウロウミウマの循環式陸上養殖を実施し、平成28年に完全養殖を実現している。ウロウミウマとは大型のタツノオトシゴで、乾燥品が薬用として流通しているほか、観賞用の市場もあるという。また中国や台湾でも取引されているが、ワシントン条約で輸出入には制限がある。
同研究所では、50尾の親魚から1年間で約5400尾(月平均454尾×12)の稚魚を産出したという。その後、稚魚は別の水槽で育成され、180日後には平均100mmまで成長。生存率は50%弱だったという。「1年もあれば、(出荷可能な)150mmまで成功するだろう」と発表者は話していた。
ただ、こちらも収益的なシミュレーションの結果は厳しく、4800尾以上生産して1尾あたり3000円以上で出荷する必要がある。ちなみに相場は、薬用で3000~5000円/尾、観賞用が2500~5000円/尾で、市場規模なども考慮すると、薬用+観賞用での事業展開が最適とのことだった。
同研究所では安全で安心な県産の水産物が安定的に供給されるよう、漁業、資源管理、増養殖、水産加工などの調査研究を行っている。