新潟県内にも企業によるクラウドファンディングの成功事例が相次いで登場
初期費用不要で新しいユーザーを開拓
クラウドファンディング達成率1990%、約955万円の支援獲得に成功―。株式会社山谷産業(三条市)が独自に開発したダッチオーブンをクラウドファンディングサービス「Makuake」上で支援募集を実施した実績だ。
2011年に日本で始まった購入型クラウドファンディングは、当初は資金が不足している個人や団体が夢の実現のために資金調達の場として利用する傾向が強かった。しかし、2010年代中盤にはソニーが社名を伏せて新製品のテストマーケティングにMakuakeを使用した事例もあり、その頃から企業による新商品のPRなどの場としても活用される傾向が強まっている。
「クラウドファンディングは、メーカーにとって試作品さえあれば、在庫を抱えずにリスクなしで新製品を売り出すことができる、発信と販売が同時にできる場所なんです」と教えてくれたのは、株式会社マクアケ西日本事業部の松岡宏治マネージャー。マクアケは株式会社サイバーエージェントの子会社で、展開しているクラウドファンディングサービスMakuakeは、ものづくり関連のプロジェクトが特に多い。
完全報酬型で手数料20%という初期費用不要のシステムも、挑戦しやすさの大きな特徴になっている。また、マクアケのサイトには新しいプロダクトやサービスのプロジェクトが掲載されるため、ユーザーからも「支援」というよりも「新しく面白い商品をいち早く
購入できるサイト」という意識で見られることが増えているそうだ。
クラウドファンディング達成の大きな鍵を握っているのが、Webサイト上のプロジェクトページに掲載するコンテンツだ。動画や静止画、テキトを通じてプロジェクトの意義や価値、世界観をいかに伝えるかが重要になってくる。
Makuake上で数々のプロジェクトのコンテンツを作ってきたニューワールド株式会社の金子昌平取締役は「『今まであるものとどこが違い、どういうユーザーメリットがあるのか』を大切にしています。製造業は『いいものを作れば売れる』という考えが根強く、主観的な商品の良さに固執してしまいがちですが、今の時代、実際の市場ではそれではものは売れません。だからこそ外部の目として丁寧にターゲットや機能などをヒアリングしながら、客観的な魅力の発信に努めています」と語る。
松岡氏はクラウドファンディングを積極的に中小企業に勧めているが、その背景にはものづくりを取り巻く環境変化への危機意識ある。少子化が進み、高度経済成長を経てものがあふれている今の時代、新しいことをしないと製造業の中小企業は将来経営が厳しくなることが予想される。同時に、例え新しい自社製品を作っても販路がなく、在庫リスクを抱えたくないという思いを持つのも当然のこと。それに対して、Makuakeであれば初期費用不要で新しいユーザーの開拓ができ、新しい流通経路になりうる。
サイフクは公開初日に目標金額を達成
6月にプロジェクトを開始した五泉のニットメーカー株式会社サイフクも情報公開初日に目標金額を達成した。新潟には従来製造業が多く、松岡氏も金子氏も新潟とクラウドファンディングの相性の良さを確信している。「新潟は最終製品を作っている企業も多く、玉川堂や諏訪田製作所を見てブランディングの価値を分かっている。さらに山谷産業の成功事例も生まれたので、今後ますますクラウドファンディングを事業に生かす企業は増えていくのではないでしょうか」(金子氏)。
ものづくりの業界は後継者不足の問題も顕著だが、求人をしていない企業がクラウドファンディングを実施したことが新聞に載り、二人も入社希望者が現れた事例もあるとのこと。「せっかく継承者が現れても、職人が高齢化しすぎて技術の伝承ができなくなるのはもったいない。だからこそ、この10年が勝負だと思っています。製造業で成長してきた日本だからこそ、クラウドファンディングを活用することで次の日本の姿ができてくるんじゃないかと思います」(松岡氏)。