連載⑧ 上松恵理子の新潟・ICT・教育「医療データでより良い社会に “新潟を健康寿命日本一に”を目標にしたアイセックの取り組みー」

アイセックの木村代表取締役CEOと上松恵理子氏

前回:連載⑦ 上松恵理子の新潟・ICT・教育「先生が学び続けることのできる環境が未来の活力ある社会に繋がる」

突然の大けがの時、救急車に電話しマイナンバーを伝えると、医療データを見て、輸血の用意や病歴によって最善の病院まで提供する、ということが医療先進国では行われている。日本ではコロナになって、救急車が来てから救急隊員が病院に1本1本電話をかけて病床の空きを確認し、20の病院で断られたというニュースがあったが、電話をあちこちかけている間に病状が悪化するということもあったという。

最近では、人口約78万人の新潟市の12歳未満を除いた全ての市民に、紙のワクチン接種券を封筒詰めし郵送したことは記憶に新しいが、すでにスマートフォンで新型コロナウィルスのワクチン接種証明を活用しているEU諸国との乖離はどんどん広まってきた。

紙は偽造される可能性が高いため、世界で使用されることは少ない。例えばタクシーの領収書も、シアトルの会社ではUberで決済することを義務づける会社もある。

さすがに、世界とビジネスを行う経済界からも催促されたのか、日本で新しくスタートするデジタル庁の最初の仕事はワクチン接種証明書のデジタル化だという。

このようにまだまだ医療先進国とは言い難い日本の中で、新潟県を日本一の健康寿命にしようという思いから、健康医療ビッグデータ分析の会社を立ち上げたアイセック株式会社について取り上げたい。なお、アイセックについてはこれまでこのにいがた経済新聞でも取り上げている。

 

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「新潟大学発ベンチャー制度」の第1号に認定された健康医療ビッグデータ分析会社のアイセック(新潟市)(2020年8月27日)

株式会社アイセック(新潟市中央区)、「新潟大学発ベンチャー制度」の第1号に認定(2020年7月10日)

 

アイセックの木村代表取締役CEO

前編は、起業のいきさつについて、アイセックの木村代表取締役CEOにインタビューした。

上松:木村さんの会社が、新潟大学発ベンチャー制度としては第1号に認定されたというニュースが、テレビや新聞で賑わいました。多くのベンチャーがある中で素晴らしいことと思います。このような医療データの会社に関わろうと思ったのには何かきっかけがあったのでしょうか。

木村:幼少期よりお世話になった、剣道の恩師の死を中学校の時に経験したことがきっかけとなったと思います。

上松:中学校とはかなり遡りますが、その当時の経験が今に至っているのですね。どんな状況だったのでしょうか。

木村:7歳から剣道を始めました。ずっと大好きだった剣道の先生がいたのですが、中学に上がる前に突然先生から「声が出なくなった」という電話があったんです。剣道の先生は喉頭がんになったのです。そしてその後、2年間闘病生活を行って亡くなりました。

上松:それはショックでしたね。

木村:そうですね、その体験はずっと心に残っています。先生はまだ49歳でしたから。

私は先生の死から、「人はどう死んでいくのか」を学びました。そしてもう一つは、「人はどうやって後悔して死んでいくのか」を学びました。先生が亡くなる半年位前に、私と幼馴染が病院の待合室に呼ばれ、「1%の確率という手術を受けることにした。死にたくない」──15才の中学生2人を前に号泣された先生の姿は今でも鮮明に記憶に残っています。それで、お葬式の時に奥さんが「検診受けていればね」と言ったのです。

その言葉に私は、検診を受けてさえいれば大好きな先生がこんな亡くなりかたをしなくてもすんだのか、と強い衝撃を受けました。それが15歳の時でした。

上松:剣道の先生はきっと木村さんの起業を天国からとっても応援していると思います。そのような経験があってもなかなか起業には結びつかない人がほとんどだと思うのですが素晴らしいですね。

木村:これまで「何でも諦めず努力すれば叶うものだ」と思っていました。例えば、剣道も最初は補欠の補欠だったのが最後はレギュラーになるということを繰り返したり、地頭は良くないので最初は勉強はできなくとも、最後はなんとかわかるようになってくる。

また、両親や祖父母もとても信頼してくれていたので、人を信じることと、自分を信じることが大事だと思って育ちました。起業家には、自分の考えやビジョンを「信じ続ける」ということは必要だと思います。

上松:私も多くの起業家を取材しておりますが、しっかりとした明確なビジョンを持たれている方ばかりです。木村さんの信じ続けるということが今日に繋がっているのですね。

高校時代の木村代表

木村:時代の流れとしては、メタボ健診がスタートし、全国の規格が統一されたということがあります。

東京の厚労省のシステムを受託する企業でマネジメントを3年間行ったのちに、2011年に30歳でリンケージという会社を作りました。大手企業の従業員の健康支援事業として海外駐在員のメンタルヘルス対策を、当時は珍しかったオンライン診療として提供していました。今はコロナ禍でようやく全国に普及し始めたオンライン診療ですが、かなり前から取り組み、日本で初めて協会けんぽという中小企業向けの健康保険組合と契約し、離島住民の保健指導なんかもやっていました。

そんな実績が評価され、日本初のオンライン診療禁煙外来も構築し、多くの大手企業と契約し、厚労省の公募事業も数多く採択しコンソーシアムでの実証で効果検証を繰り返してきました。

最終的には内閣府で提言し、日本の医師法の規制緩和を実現しました。

上松:すごい先進的なことをされていらっしゃったのですね。全国の会社をみてみると良い会社は健康経営をしっかりしていますね。社員の健康が一番ですから。日本の大企業が簡単にあちこち転勤させるのをみると、海外の方はびっくりされますね。

……

シンガポールではお年寄りに万歩計を配り、歩数の多い人には買い物券がもらえる健康増進取り組み事例があった。個人がどれくらい歩いたかをデータ分析しオンタイムにチケット配布が可能となっている。

先進国では電子カルテや医療データの利用は年々高まってきている。世界に先駆けて電子カルテを全国に取り入れたニュージーランドは、コロナの給付金の振り込みが早いが、その理由の一つが色々なデータが紐付いているからだという。

 

【連載 上松恵理子の新潟・ICT・教育】
前回:連載⑦ 上松恵理子の新潟・ICT・教育「先生が学び続けることのできる環境が未来の活力ある社会に繋がる」

初回:連載① 上松恵理子の新潟・ICT・教育「新潟がメインとしていた第一次産業にもデジタル化の流れ」

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上松恵理子 略歴
博士(教育学)
武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授
東京大学先端科学技術研究センター客員研究員
早稲田大学情報教育研究所研究員
明治大学サービス創新研究所客員研究員
東洋大学非常勤講師
教育における情報通信(ICT)の利活用促進をめざす議員連盟」有識者アドバイザー
総務省プログラミング教育推進事業会議委員(H28.29)
文部科学省委託事業欧州調査主査(H29)

大学では情報リテラシー、モバイルコミュニケーション、コンピュータリテラシーの授業を担当。研究では最新のテクノロジーを使った最先端の教育についても国内外の調査研究。国内外での招待講演多数。著書に『小学校にプログラミングがやってきた!超入門編』、『小学校にオンライン教育がやってきた!』(三省堂)など。

新潟大学大学院情報文化研究科修了、新潟大学大学院後期博士課程修了

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うえまつえりこオフィシャルサイト  https://uefll.co.jp/

上松恵理子研究室 https://uematsu-lab.org/

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