コロナ禍の子どもたちの思い出作りにLEDスカイランタンを打ち上げ、新潟市北区で「トライアングルプロジェクト」が開催
15日、新潟市北区の葛塚中学校、木崎中学校、葛塚東小学校でLEDスカイランタンが打ち上げられ、秋の夜空に幻想的な光が灯された。
夕方に降り出した雨が上がった時間を狙い打ち上げたスカイランタン。風が強く肌寒い中、葛塚中学校では3年生全員と1、2年生の希望者が参加した。
この催しは、「トライアングルプロジェクト」といい、明るさ・笑顔・伝統の三つを三角形のトライアングルのようにつなげたことから名付けられたものだ。
プロジェクトの主催は葛塚東協議会・教育文化部、葛塚中学校区コミュニティ・スクール学校運営協議会、新潟市立葛塚中学校、葛塚東小学校。豊栄ロータリークラブや豊栄商工会同友会などの団体が名を連ねている。実はこのほかに、発起から当日まで奔走しイベントを実現させた、どの資料にも名前の載っていない人物がいることが分かった。
新潟市北区の旧豊栄生まれ豊栄育ち、現在も豊栄在住の篠沢貴徳さんだ。
葛塚中学校と葛塚東小学校は、昨年度と今年度の2年間、文部科学省のコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)のモデル校に選定されている。これは、「学校と保護者、地域の人がともに知恵を出し合い、学校運営に意見を反映させることで、協働しながら子どもたちの豊かな成長を支え、地域とともにある学校づくりを進める法律(地教行法第47条の5)に基づいた仕組みのこと」という定義がある。モデル校として最終年度となる今年、何かしらの事業計画をという話があったのが、篠沢さんが動き出すことになったきっかけだった。
「同じ時期に、豊栄ロータリークラブの50周年事業をという話も持ち上がっていました。そこで、防災について学んでいた葛塚中学校の生徒に避難所で宿泊してもらい、夜のグラウンドでスカイランタンを上げようという計画を出しました。ロータリークラブから出た予算50万円があれば、ランタンを300基くらい用意できる。もう少しお金があれば400基…と考え、ほかの学校区に住むロータリークラブ会員にも声を掛けたんです。それが、コミュニティスクールの催しとして小学校でもやろうという流れになった始まりです。お金を集めるためあちこち打診しましたが一筋縄では行かず。そこで意地になって、全部俺が段取る!と(笑)。私は区のさまざまな団体と関わりがあったため、コロナ禍で予算が余っている団体があることも知っていました。閉塞感を感じている子どもたちの思い出と笑顔を作りたいという大義名分を口説き文句に、お金を集めることができたのです」(篠沢さん)
「子どもたちの思い出と笑顔を作りたい」この言葉は篠沢さんが2年前から言い続けてきたことだった。北区で毎年開催されていた福島潟自然文化祭が、コロナ禍で3年連続の中止。文化祭のために祝日である9月23日を登校日としていた中学生を思うと心苦しかったという。この日を空けている子どもたちのためにと、自然文化祭で毎年行っていた「雁迎灯(かんげいび)」の代替案としてプロジェクトの活動補助金を申請、受給が決定し、合わせて葛塚東コミュニティ協会からも同額の補助を得ることができた。
スカイランタンを上げるための予算確保はすべて篠沢さんが行なった。この行動力とバイタリティは、ある人の言葉が源になっているという。
「若いころ、知り合いもいない九州で仕事をしていたことがあるんです。当時行きつけだったパチンコ屋で守衛をしているおじちゃんと仲良くなってね。おじちゃんは会社を一つ潰してしまい守衛の仕事をしていた人で、私に『仕事は美しさと遊び心があって、創造的で感動させるものでなくちゃ』と言ったんです。若いころは深く考えなかったこの言葉がなぜかずっと心に残っていて、歳を重ねた今では座右の銘となっています。もう会えない人だけど、おじちゃんの言葉、全部クリアしたよと言いたいですね」と篠沢さん。
プロジェクトを進めていくにあたり、もう一つ心がけていたことがある。「イベント開催が決まった時、とある人から『誰がトップに立って、どのような指示系統を作ったのか教えてほしい』と言われたんです。私は『それをしなかったからうまく行ったんですよ』と答えました。誰かの傘下でやると、指示待ちで動かなかったり反発心が生まれたりでうまく行きません。みんなでアイディアを出したから、ここまで来たのだと思います。たくさん行動したし苦労もしましたが、自分はどこまでも黒子でいいと思っています」(篠沢さん)
15日に上げられた葛塚中学校280基、葛塚東小学校120基、木崎中学校100基のスカイランタンに続き、後日同区の岡方中学校でも100基が上がる予定だ。さらに同区の松浜地区などでも同様のイベント計画が始まり、篠沢さんの活動は広がる気配を見せている。「来年はすべての学校で同じ日にスカイランタンを上げて、北区全体が灯りに包まれる日にという楽しみもあります。3年間中止となっている雁迎灯の復活を待ちながら、LEDを灯し続けたいですね」(篠沢さん)。駆け回っていてランタンを見る時間もなかったが、それもまた「黒子だからいいんですよ」と笑うのかもしれない。
(文・太田広美)