五輪シンクロにも採用、水中スピーカー国内シェア80%のウエタックス株式会社(新潟県上越市)
水中スピーカーを製造販売しているウエタックス株式会社(新潟県上越市)。今夏の東京オリンピック、シンクロナイズドスイミングで同社の水中スピーカーが使用されたほか、映画「海猿」や映画「ウォーターボーイズ」でも同社の製品が用いられた。「国内では1社だけなので、何かがあるとうちに話が来る」とウエタックスの植木正孝社長の息子である植木正春専務は笑うが、メディアやスポーツ業界ではメジャーな存在だ。
同社の主力は現在水中スピーカーだが、この開発に至るには、痛ましい事故があったということはあまり知られていない。
植木社長が音響機器メーカーのティアック株式会社アメリカ支店勤務時代の1974年、休日にグループでスキューバダイビングしていた時に、グループの仲間が亡くなったという事故があった。「水中で会話できていれば死亡事故は防げた」という思いから、植木社長は水中スピーカーの開発に乗り出した。
こんな開発秘話もある。植木専務が子どものころ、壊してしまった水中スピーカーの試作品を、自宅の風呂の中で遊んでいたところ、お湯が機器の中に入り音が良くなったとことがあった。「水圧で圧力を加えれば均等になるということだった。そこで耐圧の構造のメカニズムが出来上がった。それを今なお応用として使われている」と植木専務は説明した。
「最初はなかなか売れなかった」(植木専務)という。しかし、当初は海外製の水中スピーカーを使用していた日本のシンクロナイズドスイミングのナショナルチームが「国内メーカーなら修理が効く」という理由で同社の製品が採用されることになったほか、2000年の沖縄サミットの海上警備でも納入され、警察に採用されたことがターニングポイントとなった。
沖縄サミットへの納入は、警察に資機材などを卸している商社にたまたま植木専務が営業に行ったことがあり、そこからの紹介で新規開拓に繋がったという。
また、同社はBtoBのビジネスモデルであり、一般消費者を対象にしたBtoCのビジネスは「応用製品と市場を見て検討する」と話す植木専務だが、「世界シェアを現状の1%から、将来的に3から5%の占有率にしたい」との考えを示した。
最後に植木専務は「自分たちだけが儲かるのではなく、取引先も大事にしたい。これからのグローバルの時代はウィンウィンでなければ競争に勝てない」と経営哲学を語った。
(文・梅川康輝)