アメリカ市場の開拓に取り組む1881年創業の菊水酒造(新発田市)

直近のアメリカへの輸出額は2000年と比べて21倍に

1881年創業の酒蔵の菊水酒造(新発田市)がアメリカ市場の開拓に力を入れている。2010年には現地法人を設立して市場開拓を加速するなど、堅調に輸出額を伸ばしている。「直近の輸出額は2000年と比べ、21倍、2011年と比べ3倍に拡大しています」と高澤大介代表取締役社長は語る。

同社がアメリカ市場の開拓を始めたのは、1995年のこと。きっかけはミューチャルトレーディング社代表取締役の金井紀年氏との出会いだ。東京商科大学(現一橋大学)時代に学徒出陣でインパール作戦に従事したことのある金井氏は、1964年に家族でアメリカ・ロサンゼルスに移住した。1976年にはミューチャルトレーディング社に就任し、アメリカにおける寿司ブームの仕掛人といわれている人物だ。

その金井氏が「これからは日本酒が伸びる」と考え、新潟清酒に注目。新潟を訪れて新潟清酒を探していた時に、菊水酒造を飛び込みで訪問。会社にたまたま、先代の高澤英介社長がいて、日本酒の輸出をすることになったのだ。

1995年に輸出を始めて徐々に販売量は増えていき、2005年頃からは本格的に売れ始めた。そこで、高澤社長も自らアメリカ市場の開拓に乗り出した。その中で「これは伸びていく。ただ日本から行っているよう(片手間)ではダメだ」と感じたという。そこで、2010年に現地法人「KIKUSUI SAKE USA,INC.」(以下、菊水USA)を設立。現在は、現地採用の社員を含めた4人体制で、アメリカ市場の開拓に取り組んでいる。

なお菊水USAの社長は高澤社長が兼任しており、月1回のペースでアメリカに行き、市場開拓を行っている。そして、ときには、高澤社長自ら、酒蔵に来た人だけに振る舞っていた門外不出の酒を缶入りにした『ふなぐち』のキャラクター『ふなぐち君』の着ぐるみをかぶって、来場者(レストラン関係者)にPRすることもあるという。

髙澤代表取締役とふなスパ君

 

今後もターゲットを決めて商品を投入

菊水酒造の日本酒を取り扱っているレストランやスーパーなどは全米にある約5000あり、そのほとんどが、高級レストランや、(アマゾンが買収したホールフーズなどの)高級スーパーだ。以前、日本酒の購買客と言えば、現地駐在の日本人が多いというイメージだったが、いまは多くがアメリカ人だという。

「ニューヨークの日本酒バーでは、30代の若い人が升酒で塩をなめながら日本酒を楽しんでいる。そうした人になぜ日本酒が好きになったのか聞いたことがあります。その結果、飲み始めた時に(純米大吟醸など)いい酒から飲み始めていていることが分かりました」(高澤社長)。

また高級レストランでは、マリアージュ(日本酒と料理との組み合わせ)を楽しむ姿も見られる。高級レストランでは、サーバー(給仕人)が一生懸命勉強し、この酒にはこの料理が合うということを調べ、来店者に推薦しているのだ。こうした光景は、日本でいうワインを楽しむ人々の姿と重なるといえるかもしれない。

ただ、同じアメリカといえども東海岸と西海岸では嗜好が全く違う。カリフォルニアなどの西海岸では、『菊水 純米吟醸』が人気商品。対して、ニューヨークを有する東海岸エリアでは『ふなぐち』が人気。当初は「缶入りなんて安っぽい」と敬遠されていたが、今では”缶のまま飲むのがクール”と言われているほどになっている。

「『何で缶に入っているのか』という説明文を、ふなぐちの缶パッケージに記しています」(同)。この説明文には、「缶は容器のぎりぎりまで酒を入れ、缶の中の空気量を極力少なくしたり、光をシャットアウトしたりすることができるため、品質を保持することができる」といったことが書かれている。こうしたパッケージも、缶入りのふなぐちがクールになったことに貢献したといえる。

アメリカ市場向けの商品パンフレット

さらに、純米吟醸、ふなぐちに続いて、2011年に、海外専用のにごり酒『パーフェクトスノー』の販売も始めており、人気が高い。

今後も新たな商品の投入は検討中であるが、やみくもに商品の販売を始めるつもりはない。高澤社長は、「ゼネラルな商品を出しても大手にかなわない。マーケティングをしっかりと行い、客層(ターゲット)を決めて商品を投入していく」と語っていた。

ところで、アメリカ現地法人を立ち上げた、この10年弱で菊水は、グローバルな要素が強くなった。いまでは、アメリカが圧倒的に多いとはいえ、約20の国・地域に酒を輸出している。また社内の海外関連担部署には、中国籍2人を含む5人が働いているという。次の10年間、菊水はさらにグローバル企業へとなり、新潟清酒をもっと海外に広めている存在になっているかもしれない。

高澤大介代表取締役

 

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biz Link2019年11月10日号より転載

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