新しい酒造りの形を発信する笹祝酒造株式会社(新潟市西蒲区)
明治23年創業の笹祝酒造株式会社(新潟市西蒲区)から、今年「サササンデー」という新酒が誕生した。同社は昨年12月に社長が交代し、現在34歳の笹口亮介代表取締役が舵取りをしているが、笹口氏は就任前よりウェブサイトのリニューアルやSNSの発信、蔵見学用の動線作り、イベント出店など様々な新しい施策を展開。「サササンデー」も笹口氏が立ち上げた新しい酒造りのプロジェクト「チャレンジブリュー」の一環で誕生したものだ。新しいチャレンジに挑みながらも、“古き良き”日本酒文化の継承、そして蔵を横断した西蒲エリアの振興にも力を注ぐ、新社長の挑戦に迫る。
ボーダレスなメンバーと新酒を開発
2016年に始まった「チャレンジブリュー」は、飲食店、酒屋、大学生など様々な顔ぶれのメンバー約50人が集い、1年に1企画、新しい酒の方向性やプロモーション方法を決め、ラベル貼りなども行う。「チャレンジブリュー」で誕生した日本酒で評価され、生産工程の課題もクリアしたものは、継続的な生産・販売の可能性もある。第一弾に生酛仕込みの日本酒、第二弾には生酛仕込みの日本酒の活性濁りとお燗向けの濁り、そして第三弾が冒頭で紹介した「サササンデー」になる。
この日本酒は若者をターゲットに、りんご酸が感じられる酸っぱい風味とアルコールが控えめという飲みやすさが特徴で、デザインも従来の日本酒のイメージとは一線を画すものに仕上がっている。さらにレモンを添えて絞って飲む提案や、動画を使ったプロモーションなども行い、「サササンデー」は高い評価を獲得。若者や女性など、新しい日本酒人口の裾野を広げており、笹口氏は手応えを感じつつも「まだまだ作り込みが甘かった部分もあるので、デザインや売り場、売り方などもっとブラッシュアップしていきたいと思っています」と、さらなる市場拡大の可能性を見出している。
古い製造方法に敢えて戻す場面も
新しい取り組みに力を入れる一方で、酒造りは敢えて古さを大事に捉えている。笹口氏が5年前に修業先である酒販店から蔵に戻った際は、笹祝酒造は酒米を蒸すためにコンピューター制御の連続蒸米機を導入していたが、現在はそれを敢えて廃棄し、大吟醸を作る時にだけ使っていた和釜を使った人力に頼る蒸し方に変更。「自分たちでメンテナンスしきれないものを使うことに疑問があり、日本酒文化を発信していく上でも昔ながらの造り方を残していくことも大事だと思い、切り替えました」(笹口氏)。さらに笹口氏はこのような受け継がれる酒造りの様子を見学できるよう蔵の整備も実施している。整理し出てきた廃材は、社屋入り口のカウンターにリユースするなど、古いものを残したり手を加えたりしながら、現代にフィットするよう個性に磨きをかけている。
西蒲5蔵で始めた山林保護プロジェクト
酒造り文化の将来を見据えた取り組みは、酒蔵の枠を超える。昨年、西蒲区の酒蔵5社は共同で山林保護プロジェクトを発足させた。共通の首掛けが付いた日本酒を購入すると、近郊の山林の松枯れ被害を防止する微生物散布への募金につながる。山を守ることは水を守ることであり、水を守ることは酒米や仕込み水を守ることにつながる。さらに「西蒲は良い料理人もいて、酒蔵もワイナリーもある。そして自然もたっぷりある。田舎としての魅力が詰まっている土地なので、もっと来る人を増やしたいですね」と展望を語る笹口氏。点から面へ、酒どころ新潟の魅力を深める取り組みに、大きな期待が寄せられる。
※biz Link2019年12月10日号より転載