2021年を振り返る「今年も拉致問題に進展見られず」
今年もコロナ禍で活動が制限される状況が続いたが、1日も早い拉致被害者全員の帰国を願い、さまざまな活動が行われた。
1月2日、北朝鮮による拉致の疑いがある新潟市西蒲区出身の特定失踪者、大澤孝司さんの救出を目指し活動を行っている「大澤孝司さんと再開を果たす会」が、初詣参拝者で賑わう新潟県弥彦村の彌彦神社で署名活動を行なった。特定失踪者である大澤孝司さんの兄である大澤昭一さんは、「平成14年(2002年)の拉致被害者5名の帰国以降、拉致問題に対する成果が出ていない。拉致問題について他国の協力を仰ぐのも良いが、やはり国内の問題なので政府には日朝交渉で解決に向かって取り組んで欲しい」と語っていた。
5月20日には、救う会新潟など県内で拉致問題解決へ向けた活動を続ける4つの団体が、新潟県市長会長の二階堂馨新発田市長へ、拉致問題解決のための市長有志による会の立ち上げを求める要望書を提出した。要望にあたっては、「救う会新潟」の高橋正会長、「大澤孝司さんと再開を果たす会」会員で孝司さんの兄・大澤昭一さんと平岡一郎会長、「中村三奈子さんをさがす会」会員で三奈子さんの母・中村クニさんほか、「曽我さん母娘を救う会」など関係団体の関係者が集まった。
8月には、こうした要望を受けた形で、「北朝鮮による拉致問題に関する新潟県市町村長の会」(会長=二階堂馨新発田市長)が発足した。
一方、新潟県をはじめとする行政も、拉致問題の風化防止のため、啓発セミナーなど県内各地で開催するなど活動を展開した。
11月4日には新潟市西蒲区役所が、大澤孝司さんの救出を願う横断幕を新調し、同区庁舎へ掲出した。以前の横断幕が掲げられてから10年以上経過し、劣化が顕著になったことによるもの。大澤昭一さんは「行方不明から47年が経ち、私も85歳になった。なんとか解決が間に合ってほしい」と語った。続けて、「新潟市の支援で3枚目の横断幕を作ってもらったが、いかに(行方不明からの)期間が長かったか。問題を解決して今後はこの横断幕を撤去し、『大澤孝司が帰った』というものに変えることができれば」と横断幕へ願いを込めていた。
さらに11月14日には新潟日報社、新潟県、新潟市が、「忘れるな拉致県民集会」を新潟市中央区の新潟市民芸術文化会館「りゅーとぴあ」で開催した。県民集会は、北朝鮮による拉致被害者全員の一刻も早い帰国を訴えるため、横田めぐみさんが拉致された(1977年11月15日)にあわせて毎年開催しているもので、この日の県民集会には、松野博一内閣官房長官兼拉致問題担当大臣のほか、主催者である新潟日報社の小田敏三代表取締役社長、新潟県の花角英世知事、新潟市の中原八一市長が出席した。
また、横田めぐみさんの母親である横田早紀江さん(オンライン出席)、横田めぐみさんの弟である横田哲也さん、曽我ミヨシさんの娘である曽我ひとみさん、大澤孝司さんの兄である大澤昭一さん、中村三奈子さんの母親である中村クニさんが、この日の会に参加したおよそ600人に、一刻も早い拉致被害者や特定失踪者の帰国を訴えていた(なお新型ウイルス感染対策のため、入場者数を定員の半数以下の600人に制限した)。
来賓あいさつに立った松野大臣は、「先ほど(めぐみさんの弟である)横田哲也さんとともに、寄居中学校から海岸までの道を歩き、めぐみさんの拉致現場を視察した。ごく普通の通学路の途中で中学生だっためぐみさんが拉致されたという事実に改めて衝撃を受けるととともに強い憤りを感じた」などと話した。続けて「2002年に5人の拉致被害者が帰国されて以来、一人の拉致被害者の方の帰国も実現していない。一日千秋の思いで帰国を待ち望んでいる被害者、ご家族の皆様に対し忸怩たる思い。本当に申し訳なく思っている。岸田内閣においても拉致問題は最重要課題。岸田総理は就任早々、米国のバイデン大統領と電話会談を行い拉致問題の即時解決に向けて米国側の理解と協力を求め、バイデン大統領の支持を得た。イギリスを訪問した際にも各国首脳と会談し拉致問題を含む北朝鮮への対応において引き続き連携していくことを確認した。私自身もコロンビアの副大統領とお会いした際に、副大統領から全面的な支持を得た。今後も関係国と緊密に連携しながらすべての拉致被害者の1日も早い帰国を実現すべく全力を尽くす」と語っていた。
12月19日には、救う会新潟が、新潟市中央区の新潟日報メディアシップで開催されている「拉致問題を考えるパネル展(特別展)」の会場で、拉致被害者の早期救出を目指し署名活動を行った。また活動の冒頭、拉致被害者である田口八重子さんの兄で、家族会前代表の飯塚繁雄さんが18日に亡くなったことを受け、黙祷を捧げた。
救う会の高橋正会長によると、例年、署名活動は10回程度行っているが、今年はコロナ禍で、19日の活動を含め4回しかできなかったという。ただ、今年8月に北朝鮮による拉致問題に関する新潟県市町村長の会が発足したことから、来年は市町村の会と連携を図りながら、これまで署名活動を行っていない県内の市町村でも活動を展開していく方針だ。
残念ながら、今年も被害者の帰国は実現しなかった。被害者家族が高齢化していることを考えても一刻も早い被害者全員の帰国が望まれている。