2021年を振り返る「洋上風力、離島の再エネ、新潟港への集積…新潟県内で進むカーボンニュートラル」
「脱炭素」あるいは「カーボンニュートラル」が世界的なキーワードとなっている。国内でも2020年10月、菅前内閣総理大臣が2050年までの脱炭素社会実現を表明し、にわかに関連産業が注目されるようになった。新潟県内でも先立つ同年9月の県議会定例会で花角英世知事が「2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロ」の目標を表明。古くから原油・天然ガスを産出し、現在もエネルギー分野で重要な地位を占める新潟県にとって、今後の転換は重要な課題である。
そうしたなか県は1月、「新潟カーボンニュートラル拠点化・水素利活用促進協議会」を立ち上げ、3月30日にその中間とりまとめとして「県カーボンニュートラル産業ビジョン」などを策定した。
その内容は、県固有の地域資源などを活かし、カーボンニュートラルの3つの産業領域、つまりは「脱炭素燃料・素材への転換と新産業創出」、「脱炭素電源への転換に向けた投資誘発・O&M産業育成」、「脱炭素エネルギーの供給新サービス開発」において、新規開発投資や新たな産業創出を図る事業モデルの設定と実現に向けたロードマップである。
【関連リンク】
新潟県公式 「新潟県カーボンニュートラル産業ビジョン(全体像) 」
県内のカーボンニュートラルの話題で特に注目されているのが「洋上風力」だ。9月13日には、かねてより導入が検討されていた村上市と胎内市沖が、経済産業省(資源エネルギー庁)と国土交通省が定める「再エネ海域利用法における洋上風力発電事業の有望な区域」の1つに選定された。
「有望な区域」に選定されたことで、今後順調に進めば、法定協議会を設置し、工事時期、地域振興策、漁業への影響などを協議していく。その後、協議会で合意に至った場合、促進区域への指定、事業者の公募・選定・認定、環境アセスメントの実施、建設工事、操業と進んでいくこととなる。当時の報道資料によると、協議会の開催期間はおよそ1年間。その後、協議会での合意から操業まで7〜9年程度かかる見通しである。
地元・胎内市では井畑明彦市長が10月12日開催の市議会定例会にて「『有望な地域』への選定は、極めて重要な一歩」と話し、「新たな産業創出を企図して雇用の創出に繋げるほか、カーボンニュートラルの先駆的自治体として市民の誇りを醸成していきたい」と語った。
一方で村上市は鮭の養殖が盛んな地域であることから、漁業関係者からは「洋上風力発電設備の設置が鮭の生態に影響を及ぼすのではないか」との懸念の声も上がっている。協議会以外にも、市民を対象としたシンポジウムなども開催されており、地元との意見交換や勉強会などの積み重ねが重要だ。
離島は本土とは独立した電力系統であることから、再生可能エネルギーの導入が難しいという課題があり、県では佐渡島と粟島における再エネ導入の検討会を開催し、専門家や企業の意見も取り入れている。
県が3月に行った中間とりまとめでは、離島での一次エネルギーのカーボンニュートラル化を2050年で達成することを目標とし、将来のエネルギー供給シナリオとして、「島の電力の約7割を再エネ、残りの電力と非電力部分は水素などの脱炭素電源や燃料で補う」と仮定したシナリオを発表した。
しかし前述の課題もあることから、12月22日に開催された「第5回 新潟県自然エネルギーの島構想検討会」では、中間とりまとめで発表したものとは異なるシナリオ設定。再エネ比率を7割以下にしたものや、人口減少に歯止めがかかった場合(電力の需要が多い場合)などを想定した複数のパターンを用意し、今後専門家との協議の中で、より適切なシナリオを模索していき、2月から3月までに第6回を開催して今年度中に構想の最終版策定を目指す。
本土に視線を戻すと、再生可能エネルギー自給率県内1位は糸魚川市で173.5%。2位は津南町で89.1%。同町は町直営の水力発電が1基あり、東京電力の大規模水力発電を含まずに再エネ県内2位となっており、供給電力に余裕があるため、曾祖父が津南町出身という保坂展人世田谷区長のオファーで、東京都世田谷区へ売電することとなっている。
今後は売電ビジネスとして、民間資本を入れることも含めて検討するという。さらに、「国は、電力は地産地消にすべきと言っているので、町内で安定価格になれば、町民にもメリットがある」と津南町の桑原悠町長は9月30日掲載のインタビューの中で話す。
一方、県内では企業の取り組みも加速している。
株式会社INPEX(東京都港区)と大阪ガス株式会社(大阪府大阪市)は11月15日、ガスのカーボンニュートラル化に向けたCO2-メタネーションシステムの実用化を目指した技術開発事業の開始を発表。同事業の実証は、INPEX長岡鉱場(新潟県長岡市)越路原プラントに接続して行われる予定である。これまでに培ってきた新潟のエネルギー王国としての設備が活用される形だ。
さらに、東北電力株式会社(宮城県仙台市)は10月26日に、Equis Development Pte. Ltd.(エクイス 本社:シンガポール)が設立した新潟東港バイオマス発電合同会社へ出資参画し、エクイスと共同でバイオマス発電事業へ取り組むことを発表した。東北電力グループとしては新潟県内で初めての再エネ開発事業への出資案件、エクイスにとっては国内3番目のバイオマス発電プロジェクトとなる。
新潟港では昨年、イーレックス株式会社(東京都中央区)がENEOS株式会社(東京都千代田区)と、新設としては世界最大級の大型バイオマス発電所に関して共同で事業化を検討することに合意。2023年中に本工事の着工を経て、26年度の営業運転開始を目指すこともあって、エネルギー分野がさらに集積し始めている印象にある。
株式会社スノーピーク(新潟県三条市)は4月9日、環境保全の観点から全国10カ所の主要拠点と直営キャンプフィールドで使用する電力をCO2(二酸化炭素)排出量ゼロの自然エネルギーに順次転換していくとを明らかにし、9月には、みんな電力株式会社(東京都世田谷区)を通じて供給される「自然エネルギー」に切り替えたと発表した。
加えて、同社製品の製造に関わっている株式会社有本製作所(新潟県三条市)の電力も「自然エネルギー」に転換。さらに今後より多くのサプライヤーに同様の切り替えを要請していく。
ESG投資(企業の環境貢献、社会貢献、ガバナンスを分析しての投資)が注目されたこともあって、海外の大企業が環境配慮などをサプライヤーに求める動きが加速したが、県内でもすでに他人事ではなくなっている。
また、大企業だけでなく県内中小企業も、脱炭素経営支援プラットフォーム事業や0円ソーラー事業といった脱炭素へ向けたサービスに取り組み始めており、経済界に止まらない流れに期待が高まる。
一方、新潟大学の研究室からは世界最高の効率で水電解(水から水素を生成)を可能にする触媒が誕生したと5月28日に発表。
既存の研究と比べて約2割の使用エネルギーを削減可能であるという高効率に加え、今までの触媒に用いられてきた白金などに比べると材料費が安く、製造方法も比較的容易であることも重要だ。開発に取り組んだ新潟大学大学院の八木政行教授は今後、企業との協力も交えてより大きなプロジェクトにしていきたいと意欲を燃やす。
これまで産業を支えてきた石油・石炭によるエネルギーから転換することは簡単なことではない。しかし、環境配慮だけでなく、基本的に海外に依存していたエネルギー供給から「地産地消」の割合を増やせるのは国内の産業、あるいは地域の暮らしにとっては魅力的だ。
特に新潟は、国内へのエネルギー供給のパイプラインと、材料などを取り寄せるための国外との航路がある。今後日本がエネルギー分野で欧州などに追いつくためにも、新潟のカーボンニュートラル関連産業には注目だ。
(文・鈴木琢真)