アントレプレナーシップ論などが専門の伊藤龍史氏がスタートアップ・エコシステムについて講演
昨年末に立ち上げた「ベンチャリング・ラボ」についても紹介
新潟市産業振興財団(新潟IPC財団)は1月30日、新潟大学経済学部の伊藤龍史准教授を講師に招いて、「起業とベンチャービジネス」をテーマにしたセミナーを開催した。1月27日から31日にかけて開催した新春セミナーウィーク「IPC夜間大学」(全5回)の1コマとして開催した。
伊藤氏は、シリコンバレーで重要な役割を果たしているサンノゼ州立大学ビジネススクール客員研究員などを歴任し、アントレプレナーシップ論、ベンチャー経営戦略論、ベンチャーマーケティング論が専門分野。また伊藤ゼミは、ビジネスコンテストで優勝したり、起業する学生を輩出したりしていて人気が高く、直近の倍率は4.5倍だったという。
その伊藤氏は講演の中で、「スタートアップ・エコシステム」(成功した起業家、弁護士、大学、メンター、ベンチャーキャピタルなどの支援者がいて、起業家・企業家を循環的に生み出し続ける生態系)や、「新潟に適した起業のスタイル」などについて紹介していた。
スタートアップ・エコシステムの話題では、シリコンバレー、シアトル、宮城県女川町福岡市の事例を紹介。このうちコストコ、アマゾン、スターバックスなどが集まるシアトルのエコシステムでは、ボーイング大きな役割を果たしたという。ボーイングの社内にあるソフト関連の開発需要を外注したことで、ソフト関連の人材が集まってきたというのだ(また、あるサイトによると、ボーイングという巨大企業があることで地域のインフラが整備されたことも大きいようだ)。
女川町では、NPO法人アスヘノキボウが、地域を巻き込んで起業支援を行ってきて、これまでにギター製造会社など10人以上の起業家が生まれている。
アスヘノキボウ理事の小松氏は、故郷が東日本大震災で被災したことを機にリクルートを退社し、アスヘノキボウを設立した。
伊藤氏によると、優れたエコシステムには、グローバル・コントローラー(影響力のある人物)の「不在」が重要。そうしたなか、アスヘノキボウの小松氏は、影響力のある年配者の意見に引っ張られないよう、年配者には資金の提供だけを依頼する(口は出さないで見守って欲しい)というスタンスを取り、意図的にグローバル・コントローラーを不在にしたという。
ちなみに、優れたエコシステムの中には、グローバル・コントローラーの不在のほか、「復元力」(経営環境などが変化しても、復活できる力)、「共有の価値観」(例えば、失敗した起業家を失敗者ではなく、メンターと捉える価値観など)などがあるそうだ。
一方、新潟に目を転じると、昨年、新潟駅前にある「SN@P」などスタートアップ拠点が県内各地に誕生したほか、昨年末に伊藤氏が起業家の育成を目指す「ベンチャリング・ラボ」を設立したという。
先述の通り、伊藤ゼミを希望する学生は多く、潜在的な起業志望者は多い。そこで、ゼミとは別に、学生、社会人、研究者などの起業を支援するベンチャリング・を立ち上げたのだ。
活動拠点にはSN@Pなど使い、3分間ピッチ(短いプレゼン)などを行う。ピッチを通じて、「これがしたい!」という想いを発信していくことで、自分のやりたいことを明確にしていく。次に、起業の前段階となるチームを作る。タイプA(みずからがゼロから起業する人)、タイプB(企業とコラボする人、ベンチャー型事業承継をする人など)など、タイプ別チームが作られるようだ。
なお、ラボは設立荒れて間もないが、既に1組が起業し、1組が企業に向けて準備中という。
今後は、資金援助のほか、在学中に起業したものの、いったん社会人として経験を積みたいという学生特有の悩みなどに応えていける体制の整備なども視野に入れる。
新潟にあった起業スタイル
一方、起業の手法には、「手段」ありきのエフェクチュエーションと、「目的」ありきのコーゼーションがあるそうだ。コーゼーションがまず目指すべき目標を決めて、それに向かっていくのに対し、エフェクチュエーションは、想像した目標(やりたいこと?)に向けて、今の自分にどんな手持ちのカード(能力、経験、ネットワークなど)があるのかを見極めていくスタンスをとる。
東京のように起業の環境に恵まれていれば、コーゼーションのやり方でできるかもしれない。だが、新潟では、エフェクチュエーションの手法の方が適しており、実際こうしたやり方で会社を発展させてきた経営者は多いと、伊藤氏は述べていた。
なお先述のベンチャリング・ラボでもフェクチュエーションのスタイル担っている。