四半世紀をIDSコンペと共に歩み、成長した諏訪田製作所【NICOフォーラム2020企画第1弾】

2019年にIDS賞を受賞した、ステーキナイフセット

IDSコンペと共に歩んだ四半世紀

「覚えていないんですよね。たぶん、25年くらい前ですから」。こう話すのは、株式会社諏訪田製作所(新潟県三条市)の、小林知行代表取締役だ。新潟が世界に誇る金物のまち、三条で90年近くの歴史を持つ同社は、熟練の職人による質の高い、かつデザインにも優れた刃物を生産。県内外にその名をとどろかせ、多くのファンがいる。冒頭の発言は、同社が最初に「ニイガタIDS(イデス)デザインコンペティション(以下、IDSコンペ)」に出品した時の話を伺った際の返事である。

ここ約四半世紀の諏訪田製作所は、IDSコンペと共に歩いてきたようなものなのだ。IDSコンペとは、公益財団法人にいがた産業創造機構(NICO)と新潟県が、生活市場へ向けた「新しい商品」や、生活を支える「新しいシステム」の提案を募り、審査するコンペティション。その大きな目的は、「地域発ブランド」の育成。1990年より毎年開催され、「商品」と「仕組み(システム)」のそれぞれについて、賞が授与される。

IDSコンペは受賞できなくても、大きな糧になっていた

IDSコンペは審査は非公開だが、表彰式と全出品作品が一般公開される。写真は2019年、一般公開の一コマ。

「ほぼ毎年のように出品していますので、いつ、どの製品で初めて受賞したかとかいうのも、記憶にないです。でも、これだけは言えると思います」と、小林氏は続けた。「IDSコンペは参加し続ける過程から、得るものが大きい」と言うのである。

どういうことか。小林氏が細かい記憶はあまりないとのことで、NICOに調べてもらったところ、同社が初めてIDSコンペに出品したのは1994年。また初受賞は、2007年つめ切りでのIDS審査委員賞。今は優れた製品で広く存在感を放つ同社でも、IDSコンペへの初挑戦から初受賞までは、実に14年かかっている。

「もちろん、賞を頂けたらそれは嬉しいです。でもIDSコンペは、受賞できなくても、次につながる大きな糧になっていました」(同氏)。

2007年に初受賞したSUWADA Nail Nipper MIRROR。初挑戦から実に14年かかった。

IDSコンペに限らず、多くのコンペは、受賞に至らない出展品が多い。そして審査後は、受賞したほんの一部の作品だけについて、「ここが良かった」などの評価だけが残される。

しかしIDSコンペでは、審査会後に行われるステップアップフォーラムにおいて、受賞に至らなかった作品についても、とても詳しくためになる評価を残してもらえる。またその評価は審査員によるものだが、IDSコンペの審査員は、「プロダクトデザイン(作り手視点)」、「流通(売り手視点)」「パブリッシング(買い手視点)」のそれぞれ違う分野における、知見の高い専門家で構成。「受賞できなくても、デザインの審査員からは徹底的にデザインを、流通の審査員からは価格について突き詰めた評価など、全く異なる要素から、とてもためになる評価を残してもらえるんです」(同氏)。

ステップアップフォーラムの様子(2019年)

とはいえ、異なる要素のすべてで高評価の製品を生み出すのは、至難の業だろう。「でも次には完璧な製品を作ろうと思って、また頑張る。それでもダメなことの方が多いんだけれども、それを毎年続けていると、確実に皆様に評価してもらえる製品に近づく。IDSコンペが、参加し続ける過程で得ることが多いというのは、そういうことです」。小林氏は、こう話してくれた。

なお、IDSコンペの審査員は、ほぼ毎年違うメンバーにて構成される。このことからも、参加し続けるほど、より多くの質の高い評価を得られると言えよう。

「デザイン」を通じて強くなった、新潟の製造業

諏訪田製作所の工場は、自由に見学可能。写真は制作中の様子。

さらに小林氏は、「IDSコンペが始まってから、新潟の製造業は明らかに強くなったんじゃないでしょうか」とも話してくれた。

例えば、日本中からの参加者でデザインが競われる、グッドデザイン賞。世界4大デザイン賞のひとつともいわれるこの賞の県別の入賞数は、東京や大阪などの大都市を除けば、新潟県はここ最近、2番手から3番手くらいだというのである(実際、2019年の同賞での入賞数において、新潟県は東京、大阪、神奈川、愛知、京都に次ぐ5番目)。

「入賞への倍率から見てもはっきりしているのですが、グッドデザイン賞より、IDSコンペで入賞する方が難しいんです。県内にある厳しい賞によって鍛えられているわけですから、全国と比べて実績が残せても不思議ではないでしょう」(同氏)とのことである。記憶では、IDSコンペが始まった30年ほど前までは、県内から同賞への入賞は毎年、ほんのわずかだったそうだ。

さらに言えば、「デザイン」というのは、諏訪田製作所のような新潟県の伝統的な製造業が生き残るためには、なくてはならないもの。ただ旧来のやり方で刃物を作っていただけでは、生産の効率性と価格競争に巻き込まれ、衰退していく一方。「ただモノが切れればいい」なら、今の時代、世界中で作られた安価な刃物が手に入る。

もちろん諏訪田製作所が生産する刃物は、それとは対極の位置にある。熟練した職人がひとつひとつ作る、高品質と言う付加価値。またそれを裏付ける、優れたデザインがさらに、一目でわかる付加価値を加える。

「新潟の製造業は、よく生き残っていると思います。でもそれは、IDSコンペも含めて、みんなで盛り上げ、頑張ってきたからではないでしょうか」と、小林氏は話してくれた。

「第30回ニイガタIDSデザインコンペティション2020」は、2月19日(水)~21日(金)に新潟県長岡市のアオーレ長岡で開催される。30回の節目となる今回は、NICOの様々な取組を紹介する「NICOフォーラム2020」としてイベント規模を拡大して実施される。
何か新しいことに挑戦してみたい!新潟の産業を元気にしたい!と少しでも思っている人は、まずはイベント会場へ足を運んでみるといいだろう。

諏訪田製作所は1926年創業。小林知行代表取締役は三代目。「私が子どもの頃はまだ、家族だけで刃物を作っていました」という。

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NICOフォーラム2020概要
日 時:2月19日(水)~21日(金)
10時~17時(最終日は15時まで)
会 場:アオーレ長岡(長岡市大手通1-4-10)
参加費:無料(企業交流会のみ有料)
主 催:(公財)にいがた産業創造機構
※イベントの詳細、申込みはNICOホームページ
https://www.nico.or.jp/

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