民間事業者のみでは新潟県内初、高齢者向けのタクシー事業を展開するふかぼりセレクト(新潟県阿賀野市)
日本では近年、高齢者に運転免許証の返納を促す動きがある一方で、返納後の高齢者の日常生活における移動手段の確保が問題視されている。特に、大都市圏以外の地方ではとりわけ深刻な問題だ。この問題は、総人口約220万人の約3分の1に当たる約71万人が65歳以上の人で占められる新潟県も例外ではない。
こうした状況を受けて、阿賀野市からこの現状を打開しようと、高齢者向けのワンコインタクシー事業に取り組む会社がある。同市でコンサルティング業務などを手掛ける「ふかぼりセレクト」だ。高齢者向けのタクシー事業は新潟県内で言うと、三条市・燕市・胎内市などでも展開されているものの、いずれも行政の協力を得ており、民間事業者のみでの取り組みは本県初となる。
同社代表の小黒崇行氏は長岡市出身で、新潟市内の外資系企業に勤務し、経理・財務・人事・労務・法務・社内IT対応など様々な業務を経験。蓄積したノウハウを元に、2019年4月に同社を設立。コンサルティング業務を事業の柱とする一方で、この収益を元に、阿賀野市のタクシー事業者「五頭タクシー」の協力を得て、高齢者向けのワンコインタクシー事業をスタートした。
小黒氏は起業のきっかけについて、「全国には約700万人もの交通弱者がいると言われています。地方でこの状況はもっと深刻なはずで、こうした問題で困っている方をゼロにしたいとの思いで起業しました」と話す。
このワンコインタクシーは、阿賀野市在住の65歳以上の高齢者ならば、基本的に誰でも月1回利用可能で、市内の自宅から10km圏内の範囲で、片道500円で利用できる。500円を超えた差額分のタクシー代については、ふかぼりセレクトが負担するシステムだ。利用する際は、小黒氏への電話一本で利用日時と行先を前日17時までに伝えれば、希望日時にタクシーが迎えに来てくれるというシンプルな仕組みで、会員登録なども一切必要ない。
開始から現在に至るまで、最大で月10人ほどの利用があり、サービス開始後、地元の住民からも問い合わせや反響の声が上がってきているという。タクシーの利用先は主に、地域のスーパーや病院、役所、デイサービス施設などであり、一人暮らししている親類高齢者看護のためのなど幅広い用途に活用されている。
さらに、小黒氏は4月から新規主力事業として、小学生向けのプログラミング教室や高齢者向けのパソコン・スマホ教室を展開予定だ。これは、コンサルティング業務以外の収益の柱を増やすことで、ワンコインタクシー事業を展開する上での安定した基盤の構築を目指すためだという。
プログラミング教育は2020年度から小学校で必修となり、中・高等教育でも順次導入される予定だが、教育現場でも試行錯誤が続くと予想される分野。また、パソコンやスマホの使用法に関しても、携帯大手キャリアーは現在、高齢者に対し、2026年ころまでに各社の3Gサービスが概ね終了することに合わせ、ガラケーからスマートフォンへの切り替えを勧めているものの、この後のアフターフォロー不足が度々指摘されている。いずれの事業も今後の需要増が見込まれる分野と言えるだろう。
小黒氏は今後の意気込みについて、「ワンコインタクシー事業を中長期的に回していく上では、資金調達の部分や弊社ができたばかりで阿賀野市内の皆さんに知られていないことなど、まだまだ課題はあります。ただ、誰かが受け皿にならなければ、こうした事業は地方で始まらないと思っています。少子高齢化が今後も進んでいく以上、潜在的な需要はあるはず。協力の輪を広げながら、徐々に利用者の拡大を図っていきたいと思っています」と話す。
企業のコンサルティングのみならず地域の人材育成に取り組み、これら事業を通じて得た収益で社会貢献事業を行うふかぼりセレクト。同社による阿賀野市発のムーブメントが今後も期待される。
【企業詳細】
名称/ふかぼりセレクト
所在地/〒959-2031 新潟県阿賀野市金田町9番60号
URL/https://hukabori8859.com/
E-mail/toguro@hukabori8859.com