「経営危機にある八ヶ岳中央農業実践大学校を救いたい」。第学校再建に向けて奔走する同校専修科2年生の吉田周平さん

八ヶ岳中央農業実践大学校専修科2年生の吉田周平さん、株式会社八ヶ岳高原テラスの執行役員でもある

 

クラウドファンディングで支援を募集

83年の歴史を持つ「八ヶ岳中央農業実践大学校」(長野県原村)は、諏訪盆地を見下ろす標高1,300メートルの高原に拓けた270ヘクタール余の土地にあり、長きにわたり日本の農業を人材育成の面などから支えて続けている。

その八ヶ岳中央農業実践大学校が昨年頃から、深刻な経営難に陥っている。

「このままでは残り数年で大学校が無くなってしまうかもしれない」。こんな危機感を抱いた同大学校専修科2年生の吉田周平さん(22歳)は、この状況を打開しようと、学生としての活動を行う傍ら、大学校の再建を支援する企業(株式会社八ヶ岳高原テラス)の執行役員として、農業大学校再建に向けた活動に奔走している。Instagramを活用し原村や大学校の情報を毎日発信し、大学の野菜を販売するECサイトも立ち上げた。また副校長(現在校長)ととともに学校改革委員会も発足させた。

さらに現在、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で大学校再建プロジェクトへの支援を募っている。プロジェクトの目標に掲げているのは、快適な居住環境(学生寮)を提供し、入学者を増加させること。「現在、学生が定員(専修科の定員は1学年30人)に達していない状況の中で寮の運営費用が不足し、学生寮の運営が難しくなっています。そこで、大学校では、大学校周辺にあるペンションを運営されている方々に、『学生寮としてペンションを活用させてほしい』と依頼し始めています。私も、八ヶ岳高原テラスが運営している『原村で一番大きなペンション』をリノベーションし、学生寮を作りたいと考えています」と吉田さんは話す。

クラウドファンディングでは2,000万円を目標に資金を集め、学生が快適に滞在できる寮を開設したいという。「学生寮は全寮制ですが、寮は2人部屋で、トイレは共有でプライベートを確保することができません。新たな学生寮ではプライベートを確保しながら原村での生活を楽しめる寮にしたい。こうした環境を整備しまずは学生を集めたい」(吉田さん)

また、支援の対するリターン品(返礼品)には、「学生寮オープン前 特別宿泊権」「学生寮ネーミング権」などとともに、「大学校産生とうもろこし」「大学産 生とうもろこしセット」など大学校の農作物野菜も加えた。支援金が増えれば、その分、大学の収入も増加し、大学支援につながっていくという構図だ。

なお寮は7室で、リフォームは今春にも完成する予定。完成後は、学生を受け入れてくれる、ほかのぺンションの部屋も含め、一定数の部屋を確保できる見込みという。

改築予定のペンション

 

失意の生活の中で出会った農業

吉田さんは大阪出身。小学校から大学2年生まで野球一色の人生で、農業とはまるで縁のない生活を送ってきた。和歌山県立箕島高校時代にはキャッチャーとして活躍し、2年生時には県大会の決勝戦まで勝ち進んだが、惜しくも敗れた。

大学は岐阜県にある中部学院大学に野球推薦で進学。入学して1年間、野球に打ち込んだ。だが、ある時、野球しかやっていない人生が嫌になったという。そこで、もともと事業に興味があったことから、東京、大阪、名古屋などでいろいろな人に会い、ビジネスの話を聞いた。

話を聞いて実際、いろいろな事業にも挑戦した。しかし、ことごとく失敗し、大金を失って借金を背負ってしまった。返済のため、バー、居酒屋、運転代行などのアルバイトを掛け持ちし必至で働き、1年間で返済した。しかし、「人生を変えるために挑戦したのに結局自分は何をしているのだろうか」との疑問がふつふつと沸き起こり、家でゴロゴロする毎日を送るようになった。

そんなある日、大家の家庭菜園を手伝わせてもらうことになった。土をいじっていると、久しぶりに心が高ぶり、大家から畑を借りて野菜の栽培を始めた。しかし、「うまく栽培することができませんでした」と吉田さんは振り返る。

「本格的に農業の勉強がしたい」。こう思った吉田さんは、農業を学ぶことができる学校を探し始め、八ヶ岳中央農業実践大学校を紹介してもらった。原村を訪れて初めて大学を見たときに一目で入学したいと思ったそうだ。

八ヶ岳中央農業実践大学校

 

農業発展には2タイプの若者を増やすことが必要

吉田さんは農業に関わる生活の中で、日本の農業の課題が「食料自給率の低下」「生産者の高齢化」であることを肌で感じるようになり、「若い人が農業に関心を持たないと日本の農業は発展しない」と危機感を抱くようになった。

「農業の課題を解決するためには2タイプの若者を増やすことが必要だと思います。生産の担い手となる若者と、農業の未来を作り発展させたい若者(農業クリエイター)の2タイプです」(吉田さん)。

先述したSNSを使った日々の情報発信には、大学校の再建とともに、格好いい農業、新しい農業を知ってほしいという狙い、つまり農業の未来を作り発展させたいという思いもあるという。現在、農業や大学校への想いが詰まった吉田さんのInstagramのフォロワーは1万人近くにまで増えている。

また、吉田さん、女優の宮崎ますみさん、東京方の移住者、地元の人で作る20〜30人の地域グループで昨年から米作りに取り組み始めた。まだ販売するだけの数量を生産するまで至っていないが、いずれは全国に販売し、町のブランディングにも結びつけていきたいという。

「大学校再建プロジェクト、SNSによる情報発信を通じて、自分を変えてくれた大学校と原町に恩返しがしたい。(再建プロジェクトが実を結び)八ヶ岳中央農業実践大学校が、『日本で一番学生が集まりたくなる楽しい農業』を発信するようになれば、日本の農業そのものが発展する気がする」と吉田さんは話していた。

原村の仲間たちとともに、地域のシンボル(八ヶ岳中央農業実践大学校)復活を目指している


吉田さんは1月21日のニュース・オプエドに出演し大学校復興プロジェクトについて語った

(文・石塚健)

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