新潟県の旧・山古志村(現・長岡市)の山古志住民会議が発行した「ニシキゴイNFT」の可能性
2004年に発生した中越地震では、全村避難を強いられるほど甚大な被害を受けた新潟県の旧・山古志村(2005年に長岡市へ編入合併)。震災前は約2,200人が暮らしていたが、震災後の全村避難解除後に帰村したのは約1,400人。それからも住民は年々減少し、現在では約800人、高齢化率55%をこえる限界集落となり、消滅の危機にあるという。
そんな旧・山古志村で地域活動を行う団体、山古志住民会議が、2021年12月にNFTデジタルアート「Colored Carp」という錦鯉をシンボルとしたデジタルアートを発行し話題となった。
NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)といえば、2021年の「現代用語の基礎知識選2021年 ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされるなど、いま注目を集めている新技術だ。
1月には世界のNFT取引が過去最高を記録。日本国内でも大手企業がNFT市場に参入するなどのニュースを多く耳にするようになり、NFTを取り巻く環境は一過性のバブルではなく、あきらかなメガトレンドといえるだろう。
しかしNFTとはどのようなもので、社会にどのような価値を生むものなのか。現時点では未知な部分が多いのも事実ではないだろうか。
新潟県長岡市が公認し、山古志住民会議が発行したNFTデジタルアート「Colored Carp」が、地域活性化とNFTを掛け合わせた全国初の取組みとして注目を集めている。
目次
◎山古志のデジタル村民の証明となるNFTデジタルアート
◎「外部の人でも、山古志の住民として認められる制度をつくりたい」
◎デジタル住民がつくる新しいまちづくりの可能性「山古志DAO」
山古志のデジタル村民の証明となるNFTデジタルアート
世界のどこからでも仮想通貨で購入することができるNFTのデジタルアート「Colored Carp」。ブロックチェーンの技術で購入者や売買履歴が可視化されることで、グローバルなデジタル関係人口をつくることを目的としている。NFTの販売益をベースに、山古志地域の存続や活性化に向けた取組みの財源としていくプロジェクトだ。
NFT購入者には、山古志地域のデジタル上の住民(以下、デジタル村民)という意味合いを持たせるという点が特徴的だ。NFTを「電子住民票」と見立てて、デジタル村民専用のコミュニティチャット(Deiscordを使用)で、意見交換を行ったり、運営案に対して投票をしたり、メンバーが役割を持ち仕事を請け負うなど、デジタル上での地域づくりを目指すという。
「外部の人でも、山古志の住民として認められる制度をつくりたい」
「NFTはツールのひとつ。外部に住んでいる人でも、山古志の住民として関われるという構想が以前からあった」と話すのは、山古志住民会議の竹内春華代表。
震災直後は復興に向けた取組みと同時に、農家レストランや農産物直売所の開設のお手伝い、または海外インフルエンサーを呼んだイベント開催など、様々な地域おこし活動を行ってきた。そのようなトライアルを重ねてきた中で、新たな考えが芽生えてきたという。
「現実に住んでいる場所とは別に、自分の信じるものや好きな場所が別にあってもいいのではないか。その場所に住んでいなくても、実際に住んでいる住民の生活を守り、一緒に楽しむことができれば、もうそれは仲間であり住民。山古志をもう一つの場所にしてもらい、外部に住んでいても『あなたも山古志の一員です』という事を認められる制度を作りたかった」と話す竹内代表。
山古志に興味を持った人が、移住とはいかずとも、何らかの形で関われるしくみが作れないだろうか。山古志住民会議のメンバーや有識者からの意見を取り入れながら、約2年間この構想を練り上げていった。
「仮想山古志村プロジェクト~新たな共同体の形成~」として構想をまとめ、2021年に総務省の「過疎地域持続的発展支援交付金」に交付申請。無事採択となり約1千万円の活動資金を得ることができ、プロジェクトが動き出した。
竹内代表は「もし不採択でもやると決めていた」と、この取組みに対する強い想いを語った。
竹内代表は以前から親交のあった、全国で地域活性化事業を手掛けるローカルプロデューサーである林篤志氏に、プロジェクトを具体的に進めていきたいと相談。林氏はプロジェクトの構想や竹内氏の強い想いを受けてNFTデジタルアートの発行を提案し、プロジェクトが具体化していった。
2021年10月23日、17年前に中越地震が発生した日にNFTによる仮想山古志村プロジェクトの開始を正式に発表し、同年12月14日にNFTデジタルアート「Colored Carp」が発行された。
デジタル住民がつくる新しいまちづくりの可能性「山古志DAO」
NFTデジタルアート「Colored Carp」は、発行から2ヶ月で、約350人が購入した。企画当初は日本国外の購入者を想定し、英語で説明する外国人向けホームページ用意するなどをしていたが、ふたを開けてみると日本人の購入者がほとんどだったという。また、今回初めてNFTのデジタルアートを買ったという人が、購入者のうち約4割という高い比率を占めていたことも興味深い。
NFTデジタルアート「Colored Carp」の購入者が参加できる、デジタル村民限定のコミュニティチャット内(チャットサービス「Discord」で運用)では、「山古志の住民になれて嬉しい!」や「よくわからないけど面白そう!」といった感想がある一方、「ゴールはどこなのか? 移住者を増やすことが目的?」など、今後の活動についての質問や意見などが寄せられている。
そんな中、2月7日に山古志住民会議は、次なる取組みを発表した。その内容は、デジタル村民に一部の予算執行権を渡すというものだ。
デジタル村民から山古志地域を存続させるためのアクションプラン(事業プラン)を募集。コミュニティ内でプラン公開してディスカッションを行ったうえ、デジタル村民による投票を実施する。選ばれたプランに対して、NFT第一弾セールでの売上の約30%(約3ETH)日本円で約100万円(2月8日時点の評価額)を活動費の執行権を渡すという取組みである。
つまり山古志を存続するためのアイデアを山古志住民会議や長岡市が決めるのではなく、主体的な参加の意思を持つデジタル村民から募り、実際の予算執行の権利も与えるというものだ。
「山古志ならではのDAOをやりたい」と竹内代表は話す。新たな組織形態として昨今話題となっている分散型自立組織DAO(Decentralized Autonomous Organization)。DAOというと、エキスパートが集い高度な目標達成を目指していくイメージを持つ人も少なくないと思うが、竹内代表が考える「山古志DAO」はもっと身近なものをイメージしているという。
デジタル村民に一定の権限や予算を渡し、アイデア出しからアクションまでをデジタル村民同士がコミュニケーションをとりながら進めていくもの。
竹内代表は、現実社会における社会的地位や格付けなどは関係なく、デジタル社会ならではの対等な関係でメンバー同士が楽しみながら取り組んでいくことで、今までの活動では想像もできなかったことが実現するのではないかと期待をしているという。
NFTやメタバースなどの新たなテクノロジーが、本格的に盛り上がりを見せると言われている2022年。とかく投機的な側面が注目されがちだが、新しいテクノロジーが社会に対して生み出す価値は何か? という点が本質的ではないだろうか。
NFTを活用した「仮想山古志村プロジェクト」が、地域活性化だけにとどまらず、思いもしないような発想や新たな価値観を生み出すのか、今後も注目していきたい。
(文・中林憲司)
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