自治体の鳥獣対策事業をサポートする長岡技科大発のベンチャー企業「うぃるこ」

写真はイメージです

熊による人的被害、猿やシカ、イノシシなどによる農作物への被害−−。新潟県を含む全国各地で鳥獣被害が深刻化している。こうしたなか、「野生動物との共存を目指して」という理念を掲げながら、鳥獣被害から集落を守ろうと活動している企業が新潟県にある。野生動物管理工学を専門にする長岡技術科学大学の山本麻希准教授が代表取締役を務める株式会社うぃるこ(長岡市)だ(社名もWildlife co-existence=野生動物との共存から名付けている)。

県内には野生鳥獣の被害対策を専門にする研究者が山本氏しかいない一方で、自治体の鳥獣対策の部署には、専門職でない一般行政職の人が人事異動でたまたま配属されたというケースが圧倒的に多い。このため、同社は、鳥獣対策が専門外である自治体の担当者から重宝がられている。

事業内容も、こうした自治体関係者のニーズに応えるものが並ぶ。例えば「鳥獣被害対策指導者養成研修事業」では、自治体の担当者向けに、野生動物などの生態、調査、被害対策などの基礎知識を学ぶ研修(初任研修4回、中級研修2回)を毎年開催している。これまで県内22の市町村で研修を行ったことがあるという。

「集落環境診断事業」では、自治体の鳥獣被害担当部署からの委託事業として、現地の集落における鳥獣被害状況の把握、原因分析、対策立案などを行っている。「熊であれば、どこの柿の木を目指して集落にきているのかなどを調査し対策を行います」(山本氏)。これまでに県内31市町村のうち、13市町村から委託を受けたことがある。

「柵機能診断事業」では、現地の電気柵や防護柵が正しく設置されているかなどを診断する。このほか、粟島のシカ捕獲支援や、電気柵の販売も行っている。このうち、シカ捕獲支援では、粟島に着任した「ふるさと協力隊員(鳥獣対策担当)」と協力し、動物にやさしい足くくり罠・猟具を扱う株式会社三生の和田三生社長が主催する「三生塾」(野生鳥獣の捕獲に携わる人材育成を行う塾)などに通って捕獲技術を向上させてもらっている。(ちなみに山本氏自身も三生塾に6年間通っていて、来年から、三生の罠の販売も始める)。

新潟県の指導者養成研修の様子1

新潟県の指導者養成研修の様子2

 

今後は他県での展開も視野に

一方、うぃるこの設立は2018年5月だが、山本氏は、それ以前からNPO法人の活動として、同様の仕事を行っている。NPO時代には、2500万円ほどの売上高があったものの、無給で働く山本氏のほかには、2名のスタッフがいるだけだった。「ボランティアの域を超えず、発展する見通しもなく事業の持続性に不安がありました。そこで法人化して、しっかりと事業として成り立たせることを考えました」(山本氏)。

3年前、大学のシーズを使ったスタートアップの立ち上げ相談を行っている長岡技科大学の「アントレナーシップサロン」に会社設立について相談した。相談に乗ってくれたのが、佐々木美樹氏。同氏は、農業関連法人に特化した「SMBCアグリファンド」を運営管理する日本戦略投資株式会社(旧つくばテクノロジーシード株式会社)の社長などを務めた人物で、山本氏に対し、「株式会社にしたほうが良い」とアドバイス。会社設立時にはSMBCアグリファンドが出資したほか、自身も社外取締役に就任した。

また、にいがた産業創造機構(NICO)の支援も受けることができ、昨年(2019年)4月には、調査員1名を採用。この採用が奏功し、調査事業は大幅な増収となった。今年4月には、さらに3名の調査員を採用し、事業を拡大したい考えだ。「1名は卒業生(山本氏の教え子)で同業からの転職、残る2人は新卒(うち一人は教え子)です。3人とも修士卒で非常に優秀です」(同)と話す。

加えて、パートナー制度(フランチャイズ)を立ち上げ、新潟以外の地域でも事業に乗り出す方針。現在、NICOの支援を受けながら、事業モデルのパッケージ化を進めているという。またパートナー候補については、すでに茨城でメドがついているほか、(一社)ふるさとけものネットワークの会長として主宰している「けもの塾」の参加者(協力隊の鳥獣担当者で、協力隊終了後もスキルアップして鳥獣関連の仕事で生業をたてたいと考えている人などが参加)のネットワークを活用し開拓していく計画だ。

一方、同社では、診断事業で収集したデータ(被害場所、柵の場所、動物の種類など)を地図上に落とし込み可視化しているが、今後は、アプリ化し、クラウドで共有できる体制を整えていきたいという。「鳥獣に関するデータは、人的被害であれば防災関連の部署、農作物被害であれば農林関連の部署と別々に管理されていますが、こうしたデータを、うぃるこが診断事業で収集したデータも含めて一体管理し、(より有効な対策を打てるよう)クラウドで共有する体制を構築していきたい」(同)と語る。

その目標に向けた第一弾と期待できる事業も始まる。日立製作所と連携し同社の捕獲監視システムも組み込んでデータを収集し、一体管理するモデル事業を2020年度に、長岡市で行う予定となっている。

山本麻希氏。
長岡技術科学大学の准教授として地域の獣害対策に関わる傍ら、2011年に獣害対策の支援団体(現NPO法人新潟ワイルドライフリサーチ)を設立。また2015年より、一般社団法人ふるさとけものネットワークの代表として、獣害対策のプロをつくる「けもの塾」を開催している。環境省鳥獣保護管理プランナー、農林水産省農作物野生鳥獣被害対策アドバイザー。

 

月刊ビズリンク2020年4月10日号より転載

 

 

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