М&Aなどで連結売上高を10年後に50億円へ拡大する計画、TOKYO PRO Market上場の清鋼材株式会社(新潟県糸魚川市)
清(すが)鋼材株式会社(新潟県糸魚川市)は2019年、新潟県糸魚川市に本社がある企業としては初となる株式上場を果たした。株式会社東京証券取引所が運営するプロ向けの株式市場、TOKYO PRO Marketへの上場である。当時、上越地域に本社がある企業で上場する企業はわずか3社のみだった。その後、2021年10月に株式会社サトウ産業(新潟県上越市)が同じくTOKYO PRO Marketに上場し、上越地域では4社が上場企業となった。
清鋼材の上場を地元紙で知ったサトウ産業の佐藤明郎社長は、同社に感化されて自社の上場を思い立った。それを知った清鋼材の星野陽一社長は「それはうれしいことだが、糸魚川はあまり活性化しない街なので、できれば糸魚川市からもっと追随して出てきてほしい。弊社より売り上げが大きい会社はある」と希望を語る。
小学生で社長就任と上場を決意
清鋼材は、糸魚川市出身の星野社長の父が東京で創業した会社で、星野社長は小学生の時から将来社長になって上場するという目標を思い抱いていたという。「子供ながらに上場企業とは、社会で有名ないい会社だというイメージがあった」(星野社長)。
星野社長は保険会社勤務の後、26歳で清鋼材に入社した。中国勤務などの後、38歳の若さで清鋼材の社長に就任するまで、糸魚川本社に勤務することはなかった。
星野社長に上場したきっかけを聞くと、子供の頃からの夢はもちろんあったが、それよりも大卒の新卒採用面からくるものだった。「大学生は就職サイトで企業を探すとき、まず、検索画面で上場か非上場かをクリックすると大学の就職課の人に言われた。『そこで非上場にクリックする人はまずはいないでしょう』と言われたのが最初だ」(星野社長)。
これまでは、新潟産業大学の留学生などを続けて採用していたが、今春には新潟経営大学から日本人学生を採用することができた。また、新潟工科大学とインターンシップを開始する予定で、今後は念願だった理系の新卒学生の採用にも注力していく。
大学生もそうだが、高校生の争奪戦も激しい。「糸魚川にはデンカさんと、明星セメントさんという2大企業がある。まずそこで上位30人が決まり、31人目を他の企業で取り合うことになる」(星野社長)。糸魚川市には工業高校がない。市内の県立高校3校のうち、進学校の糸魚川高校を除き、同社では糸魚川白嶺高校と海洋高校からの卒業生が多いという。
ところで、同社は、鉄鋼メーカーから仕入れた分厚い高級鋼板を1ミリ以内の誤差の範囲で切断し、曲げるという高度な技術で評価を高めてきた。
納入先は株式会社小松製作所(東京都)や日立建機株式会社(東京都)といった建設機械メーカーで、清鋼材は油圧ショベルなどの部品を供給している。星野社長は「いわば鉄でプラモデルを作っているようなもの」と形容する。
ミリ単位の調整はさすがに熟練の職人には負けるが、機械化も進んでおり、糸魚川の本社工場にはロボットが数多く導入されている。また、外国人比率も高い。日本語が話せる東南アジアの留学生を中心に採用しており、人数はおよそ工場の半数近くになるなど、大きな戦力となっている。
星野社長は「今後、人口が減ることは目に見えているので、量産化できるところはロボット化した。ロボットは残業をしても文句を言わないので」と笑う。
今期は増収益の見通し
一方、2022年3月期決算は、単体では主力の国内では主力取引先の建機メーカーが好調なため、増収増益となる見通しだ。来期は今期に中国事業を売却するため、連結では減収となる見通し。
「国内建機メーカーは主戦場である欧米の都市開発が進んでいることから、景気がいい。建機業界は波があると言われてきたが、需要はしばらくあると言われている」(星野社長)。
星野社長は「どうしても下請け業なので、なかなか先を見通すのは難しい」と話すが、М&Aによる合併や統合を含めて、現在のおよそ40億円前後の連結売上高を10年後には50億円台へ拡大するとの目標を掲げている。М&Aは、西日本地区で事業継承などの形で、いい案件があれば着手したい考えだ。
「同じ数字でずっといくとは思っていないので、少しずつでも拡大していければいい」と星野社長は話す。将来的には、東京証券取引所のグロース市場か、名古屋証券取引所での上場も目指している。
星野社長は「ステップアップしていきたい。株式が流出するので、その点も含めて検討していきたい」と話していた。上越地域本社の数少ない上場企業である清鋼材の今後の動向に注目していきたい。
建機のプラモデル。星野社長は「鉄でプラモデルを作るようなもの」と表現する
(文・梅川康輝)