三条市 一ノ木戸商店街の拠点施設「TREE」マネージャーの中川裕稀氏が独立起業

三条市の一ノ木戸商店街の一角にある拠点施設「TREE」。大正時代に建てられたレンガ造りの銭湯として使われていた建物と、町家造りで米屋として使われていた建物を使っている

かつては街の顔として、買い物の場としてだけでなく、人々の交流の場としての役割を担ってきた商店街。だが、大型店の進出におされ、衰退の一途を辿ってきたことは周知の通りだ。そんななか、2017年4月に三条市の一ノ木戸商店街の一角に、株式会社MGNEの中川裕稀氏などが商店街からの委託を受けて、拠点施設「TREE」をオープン、これを機に商店街は若者たちが商店街に集まるようになり注目を集めている。

TREEが入る建物は、大正時代に建てられたレンガ造りの銭湯として使われていた建物と、町家造りで米屋として使われていた建物。この趣ある建物に、カフェ、ショップ、レストラン、地元商品を販売するショップ、コワーキングスペース、若者たちが集う会員制スペースなどがある。

コワーキングスペース。月額料金は10,000円

カフェやレストランでは、商店街にある「星野園」のコーヒー、フルーツ店「カネギフルーツ」のフルーツを使ったクレープ、オリジナルハンバーガー「TREEバーガー」などを楽しめる。また、旧下田村のキャンプ場をイメージしたレストランでは若者たちがアルコールを片手に交流を楽しんでいる(※新型コロナウイルスの影響でテイクアウトのみの営業だったが、16日から土日のランチタイムのみ店内での営業を再開)。

旧下田村のキャンプ場をイメージしたレストラン

施設に集まってきた若者たちが企画したイベント開催も盛んで、こうしたイベントを通じても、若者たちが集まってくるようになった。

さらに、2018年9月には、若者が集まる商店街に生まれ変わったことを象徴するようなビッグイベント「一ノ木戸商店街ハラジュク化プロジェクト」が開催された。東京・原宿の人気店に、商店街の空き店舗を使って、イベント期間限定のポップアップ店を開いてもらおうというイベントで、9月21日から23日のイベント期間中、アパレル・ファッション雑貨の「パニカムトーキョー」、アパレルの「スピンズ」、タピオカドリンクの「一千花」などが限定出店し、若者たちなどで賑わった。

TREE効果は、データ面にも現れていて、2018年にTREEの前を通行した人は4万人、このうち7割弱が20歳代の女性だったという。

マネージャーの中川裕稀氏が独立・起業

旧下田村出身の中川さんは、音楽の世界で活躍することを目指し、新潟市内の音楽の専門学校に入学。当時は、東京で活躍することに憧れていた。しかし、時が経つにつれ、「社長になりたい」と思うようになったという。同時に「東京でなくても、やりたいことは実現できる」と感じるようになっていった。

そんななか、2011年、まだ設立されて間もなかった名刺ケースの製造販売を手がける株式会社MGNET(マグネット、燕市)の武田修美社長の講演が学校で行われ、聴講した。最初は「工場の人がなんで音楽の学校で講演するのか」と思ったそうだが、聞いているうちに面白い人だと思ったという。「(ライブで配布するグッズを製造するなど)音楽やゲーム業界など様々なところに繋がりがある。こういう風になりたいと思いました」(中川さん)と当時のことを振り返る。

中川さんは講演会にて、「自分を雇って欲しい」と武田社長に直談判。学生生活最後の半年を、マグネットでインターン生として働きながら実践の場でビジネスを学び、そのまま就職した。「最初は名刺入れの梱包作業から始まり、受注対応、名入れ作業と少しずつ仕事の幅を広げて行きました」(同)。武田社長にも可愛がられ、東京で開かれる展示会などに連れて行ってもらう機会に恵まれたそという。ちなみに、新入社員の頃に、「将来社長になりたい」と武田社長に言ったら、「全力で応援する」という言葉が返ってきたそうだ。

中川裕稀氏

マグネットは、技術の美しさを詰め込んだ「名刺入れ」を通じて、金型のこと、町工場のことを知ってもらうきっかけを作ろうと、親会社である武田金型製作所の事業部から独立した会社。その後、従業員一人一人が芸能事務所に所属する芸能人のようなプレーヤーであるという「タレントワーク」という価値観のもと、従業員の持つ「つながり(人脈)」と、会社の「ものづくり」をつなげ、「燕三条 工場の祭典総括事務担当」などをはじめとする、ことづくり、まちづくりなどに事業の領域を拡げてきた(個別事業の詳細は同社のホームページに掲載されている)。この雇用形態に捉われず、目標を達成するために従業員の働きやすいベストな環境を整えるスタイルが、マグネットの強みの1つだ。

従業員の副業も認められているほか、他社に出向していてマグネットにほとんど出勤しない者も珍しくない。中川さんも、「自分の力を試したい」と、若者を集客する様々なイベントを企画・運営し、ビジネスを学んでいった。「黒字を出すのは本当に難しいと実感しました」と振り返る。また、イベントが注目を集めたことで、マグネットが三条マルシェに出店するようになるなど、マグネットにも恩恵をもたらすこともできたという。

さらに、若者を集客するイベントは、商店街関係者の目にも止まり、商店街から、TREEの立ち上げ、運営の打診を受けた。以来、冒頭でも紹介した通り、中川さんがマグネットに籍をおきながらTREEのマネージャーとして仲間とともTREEを運営してきた。

そして、今年4月、TREEは大きな転換点を迎えた。3月26日に、中川さんはマグネットから独立し、株式会社TREEを設立し、4月1日から新会社が運営を担い始めたのだ。会社設立により、数年前に抱いた社長になるという夢を叶えた中川さんは、「今後も、一ノ木戸商店街を盛り上げて、次世代を担う子供達が事業をしやすい環境を作っていきたい。また、商店街を中心に街を盛り上げるモデルを確立し、他地域の商店街の活性化をサポートしていきたい」と語っていた。

カフェ。少し奥に行くと地元商品を販売するショップなどがある

若者による賑わいを創出したことが評価され、経済産業省中小企業庁による「はばたく商店街30選」に選ばれている

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