台湾企業・旺旺集団(ワンワングループ)と親密な提携関係を維持する岩塚製菓株式会社、「旺旺集団は家族」
岩塚製菓株式会社(新潟県長岡市)は中国で展開している台湾企業・旺旺集団(ワンワングループ)と約40年前に資本提携し、現在も良好な関係を続けている。岩塚製菓の槇大介専務が「上場企業では他にこんな会社はない」と自負するように、確かに上場企業の中で同社のように海外企業と長期間、提携関係を築いている企業も稀と言える。岩塚製菓創業者の孫にあたる同社の槇専務に旺旺集団との提携に至った経緯や岩塚製菓の創業精神、品質へのこだわりなどを聞いた。
実は岩塚製菓は以前タイに進出したが、失敗したという苦い経験がある。米菓作りは緻密であり、生地を乾燥しすぎて、水分が飛び過ぎると商品にならない。タイの工場では、勤勉な日本人と比較して、緻密な作業が困難だという課題があった。しかも、岩塚製菓だけでなく、米菓メーカー各社が海外進出で苦戦していた最中だった。
「『やはり、外国はうまくいかんな』と言っていたそんな時に、旺旺集団との提携話が舞い込んできたものだから、最初はやらないと言っていた。しかし、そこで引き下がらないのが、旺旺集団CEOの蔡衍明(サイ・エンメイ)さんのすごいところ。何度となく新潟まで足を運んでいただき、1983年の提携締結まで2年くらいかかった」と槇専務は回想する。
当時、旺旺集団の蔡CEOは、父親から缶詰工場を引き継いだものの、経営難に陥り、事業の柱となるものを探していた。そこで、岩塚製菓の「サンフレンド」に出会い、これを祖国に広めたいと一念発起し、岩塚製菓の創業者である槇計作氏(故人)に掛け合った。だが、計作氏は海外での失敗のトラウマがあり、当初は蔡CEOのオファーを受けることができなかった。
縁(えにし)から始まった関係
しかし、最終的には蔡CEOの熱意が伝わり、提携話がまとまった。そこで創業者の槇計作氏が蔡CEOに言ったのが縁(えにし)という言葉だ。「『これも何かの縁でしょう』と言って始まった」(槇専務)。
両社は台湾岩塚製菓という合弁会社を設立し、当時岩塚製菓は日本円で約4億円を出資した(出資比率45%)。だた、蔡CEOが台湾で販売したいと言った「サンフレンド」という菓子は中にクリームを挟まなければいけなかったため、技術的に難しかった。そこで、岩塚製菓のロングセラーの米菓「味しらべ」や「あまから」といった商品を旺旺仕様にし、「旺旺仙貝(ワンワンセンベイ)」「雪餅」として販売した。この2商品は現在も旺旺集団の主力品として生産している。
「当初、旺旺集団は台湾を主戦場にしていたが、あれよあれよという間に90%と圧倒的なシェアを確立した。次は本土だということで、1993年に中国本土に第1号の工場を建設した」(槇専務)。
現在、旺旺集団の売上高は為替にもよるが、約4000億円。だた、この数字は中国に上場している食品会社だけであり、その他にホテルなどの事業も含めればさらに売上高は大きくなる。まさに中国内で1大コンツェルンを形成するまでに成長した。
中国人は井戸を掘った人の恩を忘れない
ところで、中国の故事に、飲水思源(いんすいしげん)という言葉がある。中国人は井戸を掘った人の恩を忘れないという意味合いの言葉だが、まさに、旺旺集団もこの言葉を実行している。
何と上海の本社のエントランスの一角に槇計作氏の銅像を建立したのである。蔡CEOは毎年、計作氏の墓参りにも来るという。
2006年の上海での銅像の除幕式には、昨年100歳になった計作氏の妻を旺旺集団のプライベートジェット機で送り迎えをしてもらったという。
また、2009年に槇専務は岩塚製菓の取締役就任の際、上海の旺旺集団で2年間研修した。
槇専務は「旺旺集団は事業部制を採用しているので、ミルクや米菓、スナック、アイス、酒などの各事業部に入り、工場から企画立案、販売、商談まで可能な限り、全部ひと通り視察した。当時は営業マンだけで1万5,000人以上いた。蔡CEOに付いて、経営の勉強をさせてもらったことと、旺旺集団の大幹部の人と親密になれたことはすごくありがたい。蔡衍明CEOの息子さんも3人会社に入っているが、私と同世代で、その人たちとの繋がりも大きい」と話す。
同業他社が外国産米も使用しているのに対し、岩塚製菓は「農産物の加工品は原料より良いものはできない」という創業者の言葉を愚直に守り、品質にこだわり、全ての商品において国産米100%を使用している。
お米の香りのする米菓づくりのため米粒から加工を行っているほどのこだわりようだ。こうした品質への徹底したこだわりのせいか原価率が高い。
また、2021年には2棟の工場建設を行い、その減価償却費負担増などにより営業損失を計上をしているが、経営の総合力を示す経常損益では黒字となっている。これは、投資先の旺旺集団から毎年高額の配当金が入り、同社の利益の源泉になっているからである。
しかし、「最初からここまで大きくなると思って提携したわけでない。こんな配当がもらえるなど誰も理解していなかった。配当はあくまで副産物」と言う槇専務。
家族を超越するような存在
さらに、「旺旺集団は家族で、それすらも超越しているような存在。日本人の会社同士でもここまではないのではないか。どうしてもどちらかが頭を取りたくなるが、我々はそれすらもない。人対人をお互いに大事にしてきたから、こうなっているんだと思う」と槇専務は話していた。
高品質の商品を適正価格で提供するという企業理念を掲げ、米菓を作り続ける岩塚製菓。人と人との繋がりと縁(えにし)、経営者の情熱で始まった海外企業との業務提携は、日中関係が冷え込んだ中でも今も脈々と続いている。
(文・梅川康輝)