長岡高専と国際協力機構(JICA)が、アフリカの課題と長岡の工業活性を目指す新事業をスタート
国際協力機構(JICA)、長岡工業高等専門学校、長岡地域のモノづくり産業の活性化を目指す「産業活性化協会NAZE」は昨年10月、開発途上地域への支援事業の質向上や、同地域の教育の発展をめざした包括連携協定を締結したが、新たに長岡技術科学大学も加わり、新事業「長岡モノづくりエコシステムとアフリカを繋ぐリバースイノベーションによるアフリカと地方の課題解決」を4者で実施すると16日発表した。
新事業では長岡で培われたモノづくりの技術を活用し、アフリカの開発課題を解決する技術革新の創出と、逆にそれらを日本の地方が抱える社会問題の解決へと展開することを目指す。また、事業の実施を通じ、アフリカにおける人材育成と、日本における、特に地方の国際理解教育に貢献することも目標としている。
今回の事業の特徴は、発展途上国の問題解決だけでなく、問題解決で得られた成果を先進国でも展開していく「リバースイノベーション」を目指している点だ。
JICAの加藤隆一アフリカ部長は、「アフリカには一般的に、モノが無い、という状況がある。例えば、人々が銀行の口座を持っていない。道路が無い。あるいは、先進国で成立している制度や規制が無い。ある意味無い無いずくし。ところが、そうした“無い”状況というのが最先端の技術を生かす背景になっているところがある。今回のコロナの状況で言えば、道路がないためPCR検査の検体をドローンで運んでいて、そうした技術は逆に先進国に輸入されている」と、アフリカでの状況が技術革新の場となっている現状や、地域や経済状況を超えた相互の連携が必要とされていく今後の展望を説明した。また、「アフリカ発のリバースイノベーションを地方創生に展開させていくのはJICAとしても初めて」と、今回の事業への期待も語っていた。
今後は、長岡高専生がこれまで取り組んでいるケニア企業への取り組みを発展させていくことに加え、JICAから学生に2020年度の課題として、
(1)循環型社会の実現に向けた持続可能な食料生産・供給システムのアイデア
(2)モノづくりの力で新型コロナウイルス感染拡大を防止するアイデア
の2つが課題例として示された。いずれも、SDGs(持続可能な開発目標)に関連しつつ、アフリカでの革新と長岡の技術の共創が必要とされる課題である。
一方、会見の席上であいさつに立った長岡市の磯田達仲市長は、「新型コロナウイルスの影響もあって、地方へも拠点ができていくなど価値観が変化していく時だと考えている」と語り、こうした時だからこそ、新しい技術やモノづくりの力を発揮するチャンスになるとの見方を示した。
長岡高専は、JICAがヴァンガード・エンジニア(先駆的技術者)育成のために開催した「JICA −高専イノベーションチャレンジ」でケニアのスタートアップ企業の問題解決を提案し、「ケニアスタートアップ企業の問題解決策」を始めることとなった。ケニア企業の「生ごみをアブに食べさせ肥料をつくる」という事業の生産力向上を図るもので、具体的には行っていたごみやアブの幼虫の仕分けを自動化する機械を開発した。昨年7月に行われた現地での実証実験では、従来の手作業に対し10倍の作業効率を実現したという。
こうして成果を挙げたことが、昨年10月の「JICA −高専イノベーションプラットフォーム」の設置や、開発途上地域への支援事業の質向上などを目指した包括連携協定の締結に結びついている。
さらに今回発表された新事業「長岡モノづくりエコシステムとアフリカを繋ぐリバースイノベーションによる地方の課題解決」が実施されることになった背景も、こうした高専生のモノづくり技術の高さをJICAが評価したことがある。
また、長岡市自体が油田開発から始まる高度なモノづくり技術を保有する企業と、長岡技術科学大学をはじめとする4つの大学が集積する地域である点も挙げられる。
さらに、高等教育機関と行政が連携し、「NaDeC(ナデック)構想」のもと、地域創生に資する「長岡版イノベーション」を推進していることや、長岡技術科学大学が国連からSDGsゴール9の東アジアとして唯一のハブ大学として選ばれていることなど、長岡市が技術と文教の町として多くの面で評価された。