新潟県長岡市へIターン移住し、米粉パンでシニア起業と地方の活性化を目指す村上孝博さん
別の業種、知らない土地でのシニア起業
大手銀行を退職後、シニア起業をして横浜市内で米粉パンの製造・販売を行なっていた村上孝博さん(70)は今年3月、長岡市内にIターン移住し、コメ王国・新潟というこれまで住んだことのない土地で、米粉を軸にした地域活性化とシニア起業を支援する取り組みに挑んでいる。
村上さんは岐阜県の生まれ。東海銀行に入行後、営業や融資、バブル後の地域金融機関の立て直しを経験した後に自動車部品会社に出向し総務や経理を担当してきた。
定年退職後は、職業訓練講座に通い、介護、農業、米粉パンに関しての授業を各2ヶ月づつ学び、その経験を元に、2012年に講座を受託運営していた団体が運営するデイサービスの一角を週2日借りて米粉パン店を始めた。最初は同じ職業訓練を受けた仲間5人で運営していたが、1人また1人と辞めていき、最終的には村上さんだけが残ったという。村上さんは、「スキルを身につけて起業したからといっても、生活が成り立つまでは時間がかかることを痛感した。一方で、店には家で話し相手のいないお年寄りが多く集まってきたことから、こうした人たちの居場所を作ることの意義を実感した」と著書(著書については後述)の中で語っている。
その後、2013年、古くからの友人である長岡市のアーティストからの紹介で、原種に近いコシヒカリを栽培して農協を通さず自力で販売経路を開拓していた石橋雅史さんと出会い、同年10月に横浜市にて、個人事業で米粉パン店「カフェらいさー」を立ち上げ、2015年10月に合同会社を設立した。
そして今年3月に長岡市にIターンした。「長岡で農家の蔵を災害時のインフラとして活用する『蔵プロジェクト』に参画するため、もともと来年4月に移住する予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で予定を前倒しし今年3月に移住しました」(村上さん)。
現在、長岡市浦にある「まちの駅 千の森」に住みながら、ここを拠点に、これまでのシニア起業や経理などの経験を生かし、米粉パン店の立ち上げ支援を行なっている。「定年退職した方々は経験はあるのに、能力を活かして活躍する機会が無い。そんな定年退職した世代や、所得を向上させたい地元の稲作農家、障がい者などの人々に米粉パン作り、経営ノウハウ、様々なツテ(人脈)を教えています。彼らに、それぞれの土地で暖簾分けで出店してもらい、米粉消費を増やし、(コメ消費量の減少や後継者不足など)衰退し耕作放棄地も目立つ国内農業の活性化に貢献していきたい。また雇用創出や、店を介したコミュティの創出を目指してほしいと考えています」と村上さんは話す。
なお村上さんのもとから「暖簾分け」した第1号店は長岡市与板町にある「農家フェ 田伝むし」。経営するのは、石橋さんだ。石橋さんは自ら石臼を使って米粉を生産していることもあり店の経費が少なく、初年度から黒字が続いているという。
村上さんは謂わばシニア起業のモデルケースといえる。
自身の経験も活かしたU・Iターン支援も
一方、現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、都心への一極集中が見直され始め、都市圏から地方への移住するケースが増えている。だが、そうした人々が地方での生活を新たにスタートしたり、(人間関係ができあがっている)移住先のコミュニティに参加したりすることは容易ではない。そこで、こうした人々のU・Iターンサポートや生活支援を行っていくことも視野に入れている。具体的には、居住場所の紹介、行政窓口の紹介、生活のための食料調達(農家で余った野菜など)などを考えているという。
「地元の人は気がついていないが、地方は非常に資源に恵まれています。こうした資源を活用しつつ、U・Iターンをサポートすることで長岡市の活性化に繋げていきたい」と村上さんは話していた。
【関連リンク】
まちの駅 千の森
http://www2.nct9.ne.jp/sennomori/index.html