「新潟大学発ベンチャー制度」の第1号に認定された健康医療ビッグデータ分析会社のアイセック(新潟市)
新潟大学医学部血液・内分泌・代謝内科学教室と共同で新潟を中心とした地域の健康医療ビッグデータを分析し、地域住民の健康寿命の延伸や病気予防のために活用する事業などを行っている株式会社アイセック(新潟市中央区)は、新潟大学が今年3月に設立した「新潟大学発ベンチャー制度」の第1号に認定され、7月10日、新潟大学学長応接室で称号記を授与された。
2011年にオンライン診療ベンチャー「リンケージ」(東京都)を設立した経験を持つアイセック代表取締役社長 CEOの木村大地氏は2019年春、新潟大学医学部の曽根博仁教授と出会い、「社会課題の解決に医学的エビデンス(科学的根拠)を活用したい」との思いを語ったところ、曽根教授も、教室内で発表されている膨大な研究論文(国際学術誌で発表されるものの、一般社会で実用的に使われることは多くない)の成果を、社会実装することで社会貢献したいという思いが合致したという。
両氏の思いを実現しようと、木村氏は昨年12月にアイセックを設立した(木村氏は新潟市出身でUターン経営者でもある)。新潟では貴重な存在といえるビッグデータを分析するベンチャー企業だ。取締役CMO(Chief Medical Officer)に曽根氏が無償で就任している。
曽根教授の教室では、すでにビッグデータを活用し、実社会に活かす取り組みも進めている。その一例として、糖尿病治療中断者は透析など重症合併症が進行し健康寿命を縮めてしまうが、医療ビッグデータの分析を行うことで、糖尿病治療中断者を自動検出することで実態把握が可能となり、自治体との連携により治療再開推奨を行った。早期発見・指導による重症化予防の好例であるが、効果の見える化も実現し、「継続的かつ有効な施策」につなげることが可能となったという。
エビデンスを活用し健康寿命の延伸を目指す
アイセックの主な事業は、膨大な健康医療ビッグデータを分析し、「この程度運動すると、このような健康上のメリットがある」といったような科学的事実を発見し、健康寿命の延伸などに活用していくこと。「大学は常に最先端のエビデンス(人々の健康寿命の延伸に役立つ科学的根拠に基づく研究結果)がある」(曽根教授)。こうしたエビデンスを活用し健康寿命の延伸などに役立てていく。わかりやすく言えば、先述の「この程度運動すると、このような健康上のメリットがある」ということがわかっているのであれば、行政はそのエビデンスに従って健康施策を展開できるようサポートしていく。
ただ、「ある疾患を持つ人にはどのタイプの運動がいいのか、また酒も百薬の長と言われるが、それぞれの人の状態により、どの程度の量ならいいのか、など細かいことについては、わかっていないことがたくさんある」(同)。そこで、ビッグデータを使って科学的事実を発見し、行政の健康施策の立案(EBPM=evidence-based policy making)サポート、けんぽ組合・企業の健康経営の展開支援などに繋げていく。(なおアイセックは新潟市とすでに提携していて、今年度はデータを活かす取り組みを進めていくという)。
我々の生活や医療に活かせるエビデンスは、ネズミや培養細胞からは、いきなり出てこないという。つまりネズミに運動をさせたり、酒を飲ませたりしても、直接人へのアドバイスに使えるデータは得られないのだ。そこで人の健康データを使ってエビデンスを発見していくことが重要となる。「以前は100人単位、1000人単位の人々から協力をいただいたり、患者さんから協力していただいたりしてデータを集めていた。しかし今はビッグデータの時代。医療現場、健康診断など様々な現場で医療に関するビッグデータが毎日のように自動的に集まっている。以前の数百、数千ではなく、数万、数十万のデータからエビデンスを発見できる時代になってきている」と曽根教授は話す。
ただ、人種、地域の違う海外の人のデータをそのまま当てはめられるのかというと遺伝的体質、生活習慣が異なるため、日本人に役立つとは限らない。日本人に役立つデータを集めるためには日本人、少なくとも東アジア人のビッグデータを使う必要があることから、地域の医療ビッグデータを活用していくそうだ。
新潟大学としても社会貢献の一環として、こうしたビッグデータを解析し、科学的エビデンスを得て、アイセックとともにアプリ化など活用しやすくしたり、難解な医療用語をわかりやすい形にしたりして一般の人々が使いやすくし、市民、県民などの健康寿命の延伸や企業の健康経営などに役立ててもらうことを目指す。
また「ABCD」などという形で診断結果を知らせている健康診断を、「10年後にこの病気になる確率は○%、こういう運動をした方がいい」というような具体的でわかりやすい形でフィードバックすることなども目指している。
なお新潟は、県が「にいがた新世代ヘルスケア情報基盤」プロジェクトとして、医療ビッグデータの活用に力を入れている他、大学、医師会、健診現場も比較的まとまりがよく、様々な医療ビッグデータを集めやすい環境にあると言える。