【特集】「熾烈化する地方同士の人口争奪合戦」県境でサバイバルが進行

 

糸魚川市は富山県へ流出

親不知海岸と国道8号線(糸魚川市)

医療技術の進歩や晩婚化などによる少子高齢化といわれて久しいが、今後も進行することは目に見えており、若者の就職、進学で東京一極集中を中心とする大都市への人口の流入も止まらない。まさに、地方にとっては人口減少は死活問題ともいえるだろう。

しかし、実はここにきて、県単位で見ても、県境における人口争奪戦ともいえる自治体同士によるサバイバルが行われている。その最新状況を追った。

新潟県の最も西に位置し、富山県と境界を接している旧青海町玉ノ木、市振の両地区は、糸魚川市役所までは交通の難所である親不知を越えて22キロ、それに対し富山県の最も東の朝日町中心地まではわずか8キロという地理的特異性があり、もともと富山県との交流は盛んな地域だ。

糸魚川在住のある関係者は「糸魚川市にはデンカ株式会社があるが、富山県にはYKK株式会社、株式会社スギノマシン、日医工株式会社、株式会社インテックなどがあり待遇がよい。富山県は西日本で、生活習慣も食文化も違うし、本来なら面倒なはずだが、上越市ではなく、富山県に移住している。富山県は県民所得が50万円も高く、医療体制や教育環境が整備されていることも要因だろう。東大をはじめとする名門大学に進学する子供の割合も高く、子どものことを考えて、教育県の富山に引っ越した人もいる」と話す。

「糸魚川は山が多く、平地が少ないので、土地の値段が高い。朝日町の役場が糸魚川市内に土地売り出しのチラシが年1回入ってくる。結局は富山県の生活水準が高く、住みやすいのでしょう。豊かさにひかれるのだろう」と話している。

一方、流出を食い止める側の糸魚川市担当者は「対策としては、市営住宅に住んでもらうということを進めていて、市外や富山県朝日町からも入ってきている。また、富山県朝日町から、糸魚川市の市振までバスが通っており、富山県まで通院したり、買い物に行ったりしやすくしている」と話していた。

 

妙高市は移住施策に注力

妙高市はワーケーションも強化している(妙高山)

旧妙高高原町が長野県信濃町や長野市にも近い妙高市は、「長野県への人口流出は確認していない」という。逆に移住者を呼び込む施策を積極的に展開している。U・Iターン者に対して、2年間の家賃補助を実施しているほか、ズームによる空き家の内覧会も行っている。

担当者は「妙高市の空き家は100万から300万円で購入できる。移住の理由としては、ウインタースポーツがやりたい人やインバウンド向けの英語を使う仕事がしたいなど、妙高市ならではのものが多い」と話す。

妙高市はリゾート地の強みを活かし、ワーケーションも市として展開しており、交流人口の拡大ひいては移住者の獲得も狙っている。

 

村上市は鶴岡市と生活圏レベル

村上市・笹川流れ(公益社団法人 新潟県観光協会)

村上市も山形県と接しているが、市の担当者は「山形県からの流入は何十人規模であり、認識するレベルではない。すでに鶴岡市は生活圏レベルであり、スーパーや病院などは新発田市の人が新潟市へ買い物に行くイメージで、日常的に行き来がある。また、村上市と山形県境を結ぶ現在計画中の高速道路は国の直轄となり、利用料金が無料になるので、物流や人の流れに変化が出るだろう」と話した。

 

湯沢町は3年連続で転入超過

湯沢町はリゾートマンションの移住体験も開始する(湯沢町のリゾートマンション)

一方、転入者が転出者を上回る「転入超過」が続いているのが群馬県と隣接する湯沢町。県の人口移動調査では2019年のデータで3年連続超過した。かつて、「東京都湯沢町」と呼ばれ、バブル期にリゾートマンションが次々と建てられた湯沢町。バブル崩壊後、リゾートマンションは閑散としたが、今また、首都圏を中心に人が動き始めている。

湯沢町は平成27年から移住政策を展開しており、町役場の担当者は「首都圏から近く、リゾートマンションも安価に購入できる。補助金もあることが要因だろう。また、これは新型コロナウイルスの前だが、インバウンドの好調で景気が良かったことも理由として挙げられるのではないか」と分析している。

担当者は「詳しいデータは取っていないが、おそらく首都圏が多いと思う。年代的には30代後半から50代半ばが多い。昨年はそれまで減少していた20代が増加した。ターゲットは若い世代なのでうまくいっている。町の8割が第3次産業なので就労先はそういったところが多いだろう。また、10月1日からリゾートマンションの移住体験をスタートする。予約もすでに入っている」と話している。

また、湯沢町は2016年から上越新幹線を利用して通勤する人に対して、新幹線通勤定期券購入費を毎月最大5万円、10年間補助するという補助制度をスタートしている。実際に湯沢町移住・定住ポータルサイトには、東京都のヤフー株式会社勤務の男性が紹介されている。

県境では減少している自治体もある一方、増えている自治体もある。人口が増えるのが見込めない中で、自治体も生き残りに必死だ。その中で、ある意味“手っ取り早い”隣の県から取るという暴挙にでるしなかいほど深刻さを増しているともいえる。今後は、さらに、県内の自治体内でも動きが進行することが予想される。

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